交わりの地タナトシェル〜酔いどれの昔話〜
グビグビという表現が言葉がふさわしい飲みっぷりでゴルダックさんがジョッキを空にして、ニカッと笑います。
彼は私の持ってきたとっておきの水酒をコップにお注ぎすると、その豊潤な香りを肴に私の顔ほどあるジョッキになみなみと注がれたエールを美味しそうに飲み干しました。
鉄と火、そして酒をこよなく愛する彼らドワーフにとってエールなどチェイサーとしても水と同じ扱いなのです。
私がジョッキを受け取り、酒樽からエールを注いでもう一度渡すと。
「この水酒…………原酒の『シュピネ』の中でも、とびきり高級なものじゃな?」
アレンさんに100年以上この地で鎚を振るっている職人さんがいて、その方がドワーフと聞きましたのでとっておきを出しました。
お酒好きのお兄さん的な知り合いに美味しいお酒ばかり飲まされたので、実はアリスちゃんお酒にはうるさいです。
その、わたしが一番感動を覚えたお酒。
『水酒シュピネ黒鋼大吟醸』
飲み口は初めに雑味のような、何とも言えない甘い果物に近い匂いが口いっぱいに広がり、透明な見た目とのギャップに驚きを感じます。
さらに喉を通した時の強烈な熱さ。酒精が強く喉を焼く力強さが二つ目の衝撃をもたらします。
最後に舌の上に残る穀物の持つ大地を感じさせる旨味とコクが、壮大な楽曲を聴き終えた後のような高揚感を与えてくれるのです。
さらに名前も両親の形見の黒鋼という言葉が入っていて個人的にポイント高いです。
シュピネというのはこのお酒を作ってる国の古い言葉で蜘蛛を意味するそうです。
お酒の由来が蜘蛛の魔物であった最愛の人に故郷の酒を飲ませたくて作ったという逸話だそうで、甘い恋と魔物との愛という熱いイメージを感じさせる深い味わいが絶品なのです。
これは、そのブランドの中でも最高品質の物で酒好きにはたまらない一品のはず。ということで持ってきたのですが、大当たりのようですね。
香りだけでチェイサーを飲み干す方は初めてですが…………ご機嫌は取れたようですね。
彼はちびちびと水酒を飲み、豪快にエールをあおります。エールを五杯とコップの水酒を飲み干すとおかわりを要求しながらニカッと笑います。
「こんな大層な酒を持ってきてくれたんだ、何でも話してやる。あの長屋絡みだ、嬢ちゃんも赤翼の秘宝に気がついたのか?」
微笑みながら彼のコップに、なみなみと水酒を注ぎます。懐から木を継いで作られたマスと呼ばれる器を出し、同じく水酒を注いでから高く掲げて。
「プロージット!」
二人の声が合わさる、さすが酒好きのドワーフです。このあたりの乾杯の掛け声ではなく、水酒の発祥地の掛け声で応えてくれるとは嬉しいですね。
わたくしも久しぶりに水酒を楽しみます。虎の子を出しただけの事を聞けそうですね。
ゴルダックさんと盃を交わします。久しぶりに飲んだ水酒の酒精の強さを楽しみながら彼の昔話に耳を傾けます。
「先ずはサイコロの爺さんはな…………」
あらあら、水酒を選んだのは大正解でしたのね。全ては愛の神様のお導きですね。
こういうのなんて言うんでしたっけ?
『棚からボタモチ』
確か、神様から思いがけず幸運を頂けるというありがたい聖句ですわね。ボタモチ……………食べ物っぽいですけど、きっとお美味しいのでしょうね。
アリスの旅は続く〜
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