交わりの地タナトシェル〜歴史の生き証人〜
タナトシェルの街を散策しています。
表通りは宿屋と定食屋ばかりですが、一歩狭い通りに行くと行商人がひしめき合って様々な特産物を売っています。
タナトシェルは混沌街とも揶揄される程公的な統治機関がなく、自己統治している者たちが縄張りを主張しているだけという実はかなり危うい場所です。
元は一軒の宿屋から始まり、馬車の中継点として馬屋が常駐し始めた辺りから、仕事を求め人が自然と集まったそうです。
私は行商人さんから干した果物の詰め合わせを買い、赤くて親指ほどの大きさの実を半分かじると口の中に酸味が広がります。
目が覚める程の刺激、唾液が口に溢れてきます。ふやけた果実からほのかな甘みを感じ、思わず口元がほころびます。
サーナ王国の西南にある深い森林地帯、通称『神の掌』に自生する『ダイアーベリー』の独特の味。
これを食べる度に初めて口に入れた時、あまりの酸っぱさに泣き出してしまった私を見て慌てている緑のくせっ毛のあの人が目に浮かびます。
ここまで近くに来たのは二年ぶりですから、この一件が終わったら少し寄ってみましょう。アリスの故郷です…………ものね。
と、この間から少しホームシックですね。先ずは赤翼亭の名に変わった事件について、ちゃんと知っている人に聞かないとですよね。
この間、連れ込まれてしまった路地裏を通り過ぎさらに裏路地に進みます。今回はゴロツキ達に声をかけられることは今の所無いようです。
今日は、いつもの法衣ではなく魔拳闘士スーを名乗るときに着る、裾がヒラヒラとした『拳魔ギャイル』の弟子の証である武着を身に着けているからでしょう。
ギャイルは傭兵や冒険者、ならず者達に広く名が知れ渡っている半ば伝説化した冒険者で、傭兵としても名誉称号と言える五つ星を持っている世界最強の一人です。
私は、そのギャイル直伝の魔拳武闘術を使う傭兵スーとして歴戦の傭兵である三つ星の称号持ちですので、ここのように物騒な場所でも一目置かれる存在ということです。
昨日、侮られたのは印象隠蔽や容姿撹乱でごく普通の若い女の子としか、彼らには映らなかったからです。
『失敗はトライアンドエラー』
言葉の意味はよくわからないのですが、神様は失敗しても原因を探って次に活かせばいいと教えてくださっているので、それに従い今日は初めから強者として裏路地を捜索しているのです。
先程から視線は感じますが、どうやら昨日スーの名前を出したのが、いい具合に広まっていて警戒しているようです。
『抜かぬ刀を持て』
戦わないで済むのが一番なのです。私の歩みを阻むもののいない裏路地を奥へと進みます。
そして、アレンさんに教えていただいた工房にたどり着きました。
『ゴルダック石工工房』
見事な彫刻が施された黒曜石の看板です。確かな技術を感じます。
「赤翼亭のある長屋を建築されたゴルダックさんのお話を聞きに参りました」
大きな声で告げますが反応はありません。今度は少し抑えめの声でボソリとつぶやきます。
「あ~ぁ、東大陸の有名な『水酒』が手に入ったのに残念ですわね」
すると、ドタドタと中で音がした後扉が開きます。
「せっかくじゃから、話ぐらいは聴こうかのう。コップを用意したから飲みながらどうじゃ」
私の胸ぐらいの背ではありますが、がっしりした体格で筋肉質。立派な髭を蓄えたドワーフと呼ばれる長命な職人さんが私の前に現れたのでした。
アリスの旅は続く〜
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