始まりの町ロイデ〜家族の待つ家〜
フェルシーとまた再会することを約束して別れた後、私は夕日が沈む海岸に向かいました。
海岸線の向こうにうっすらと向こう側の大地が見えます。緑色の深い森、神の掌と呼ばれる深い森と山々が混在する危険な地です。
アンネリアーナは砂浜から海に入り泡になろうとしました。ですが、彼女は神に救われます。
海に漂う瓶を開けるとそこには巻物が入っていました。真っ黒な巻物……………それは、聖典でした。
黒いものは全て文字。妖艶にして荘厳、耽美にして博愛。そうとしか表現の出来ない美しくも狂おしい文章の数々。
母が教えてくれた、世が好む文字の配列が彼女を包み込み新たな命を生み出しました。
それが私、愛の神官アリスです。
私はアンネリアーナが読み解き世の理に大きく届いた魔力回路を紡ぎます。
一般的に浮遊と呼ばれる魔術で上下の移動が出来るものですが、黒き聖典を理解した私は自由に大空を駆けることが出来ました。
わたくしは宙を舞いアンネリアーナを知るサーナを離れ海を渡ります。あの夜も同じ様にここを離れ対岸に向かいました。
あの時は初めての飛翔で消耗が激しく対岸に着くことは出来たものの、砂浜で力尽き倒れたのです。
今回私が向かっているのは、その時助けてくれた人の家です。
五年前は一晩かかった距離ですが、今なら三分の一位の時間で飛翔できます。完全に日が落ちて夜更けに町の灯が少し落ちた頃、私は危険地帯、神の掌に唯一ある『ロイデ』の町の上空にたどり着きます。
門から入ってもいいのですが飛翔の魔術はまだ持続できるので、そのまま彼の家がある町外れに飛んでいきます。
町は私が知っていた頃より拡張していて、堅固な壁がもう一重増えています。その間には工房や倉庫等が立ち並んでいます。
この町は、七年前有名な冒険者パーティが開拓を始めた場所です。この近辺は強力な魔獣、古代の遺跡に溢れている危険地帯ですが、逆に冒険の種は多くあり一攫千金の夢に溢れています。
彼らは、ここに拠点を作り冒険者を育成、支援する仕組みを作り上げました。現在伝え聞くのは、かなりの若者がロイデで成長を遂げているらしいです。
私は、この立ち上げ当初のまだ小規模だった頃の二年間、ここで黒き聖典を紐解いていく傍らお手伝いをしていました。
その時住んでいた、町外れのツリーハウスが見えてきました。森のなかにひっそりと樹上のログハウスがあります。
内側から、淡い光が漏れています。彼は夜更かしが好きなのでまだ起きているようですね。
扉の前の玄関ポーチに降り立ち、声をかけます。
「サー、アリスちゃんが来たよ〜」
内側からガタゴトと物音が聞こえ、バタバタ足音が響きドアが開きます。
長身で痩せ気味、眼鏡をかけてボサボサの緑髪。変わってませんね、少し下向き加減の長い耳。
「よく帰ってきたな、千百五十八日ぶりだ。早くお入り、いやぁ~久しぶりだ」
彼は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でて室内に招いてくれます。あぁ、帰ってきてよかった。安心します。
ここは、アリスが二年間温かく迎えられた家族のお家です。




