少女の面影残る地サーナ〜アンネリアーナという少女〜
旅の空の下、両親と両親の友人である凄腕の斥候リオンと共に笑顔で歩く少女。
銀髪に蒼い目をした逞しい戦士の父と、緑色の豊かな髪に真紅の目で全てを見透かす魔術師の母からもらった色の違う両目を持つ快活な女の子。
アンネリアーナは幼い頃から父からナイフと弓の才を認められ毎日の狩猟を任されていました。
母からはこの世と対話をして魔術という恩恵を受ける方法を学びました。
リオンからは森や遺跡での立ち居振る舞いを学び斥候の技を教わりました。
旅の厳しさを知り、楽しむ方法を知っていた幸せな少女。それがアンネリアーナという存在です。
しかし、彼女が十歳の時に最初の悲劇が訪れます。両親の死が血まみれのリオンから告げられたのです。
現実を受け止められないまま、リオンの配慮で王立魔術学院の寮に預けられました。
アンネリアーナは生きる意味を見失いながらも寮に入り、優しい大人たちに少しずつ癒されて行きました。
ですが、ようやく周りを見る余裕が出た時、彼女の最後の大切な人リオンは、両親と共に倒した魔人から受けた傷が悪化し息を引き取っていました。
度重なる悲劇に彼女は笑顔を捨て魔術に打ち込む事を選びました。孤独に泣き、冷え切った心は周りを遠ざけ学問を極めて行きました。
本来なら十二歳で入学できる二年制の初等部は十一歳の誕生日を迎える前に卒業。三年制の中等部、高等部はそれぞれ一年半ずつで卒業しました。
四年制の大学部を二年で卒業し、学院で最短の十七歳での研究部入学を果たしたアンネリアーナ。
研究部の二年になった頃、孤独に邁進してきたはずのアンは気が付きました。
かつて、青空の下で大切な人に囲まれて過ごした幸せは崩れました。しかし、あの時と同じくらいの時を重ね、新しい幸せが生まれたていた事に。
毎日話しかけてくれる初老の門番さん、寝れない夜にただ寄り添ってくれた寮母さん、旅人独特の味付けを再現してくれた学食の方々。
親代わりですからと言って、何かと気にかけてくれた学院長や優しくも厳しい先生達。
おずおずとだけど話しかけてくれた学友達。そして、一番近くで根気強く寄り添ってくれたフェルシー…………
アンネリアーナがもう一度、人を信じたいと思えた、一番幸せに近かったあの日の話をフェルシーとお話しました。
「アリス……………アンが生きていると信じている人は多いの……………真実を話していい?」
フェルシーがわたくしと指を絡め互いを認め合いながら呟きます。
「貴女はアリスを知っている唯一の友人です、だからわたくしを受け入れることができました。ですが、他の方にアリスという存在は理解できないと思いますよ」
わたくしから真実のみお話します。
「そうか…………そうよね」
がっくりとしたフェルシーの顔が心に響きます。何かよい方法はないかしら?
今までは、残された人のことなど気にかける余裕も無く各地の子羊を癒す旅を三年続けてきました。
しかし、フェルシーに会って初めて、この身体アンネリアーナを気にかけてくれている人の存在を認識しました。
彼らも私の癒すべき子羊ですわよね。何かメッセージを残す方法は…………そうですわ
「わたくしは子羊を探す為、たくさんのうわさを振りまいています。その一つにモノクルをつけた緑髪の少女が聖女に救われて共に旅をしているというものを足しましょう」
直ぐに効果は無いけれど、いつか彼らに届くでしょう。
「そんな事出来るの?」
わたくしはフェルシーを抱きしめて約束いたします。
「わたくしは、人の心を自在に操る旅人アリスですわよ。貴女がおばぁちゃんになる前に届かせてみせます。」
わたくしの言葉にクスッと微笑み私の胸の中で大きく息を吸いました。
「アリス、ありがとう。…………ねぇ、いつかアンに会えるかな?」
私にもたれて上目遣いにお礼と疑問を投げかけてくるフェルシー。その姿に嘘でも安心させたい気持ちが湧き上がります。
どんな風に答えたら彼女を悲しませないで済むか、思案していると突然意識が途絶える感覚…………
「ごめん、もう少し待ってて。アタシ、アリスと一緒に絶望を乗り越えてみるよ。フェル、愛してくれていてありがとう」
…………気がつくとフェルシーが私の胸の中でアンネリアーナの名を呼んで泣いていました。私はフェルシーをきつく抱きしめます。
わたくしの中の魔力がごっそり減っていています。恐らくアンが無理をしたのでしょう。今は存在を保つだけで精一杯のアンが自分から出てくるなんて自殺行為です。
でも、彼女もついに本気で立ち向かう覚悟を持ったのですね。
ならば、目を背けていた一番最初の子羊の救済。アンネリアーナとフェルシーの熱い愛に応えいつの日か、わたくし愛の神官アリスが成し遂げましょう。




