交わりの地タナトシェル〜襲撃と愛の説得〜
路地裏を歩いてあのお坊ちゃんが入り浸ってるお店を目指します。朝でも薄暗い裏路地を、法衣をひるがえし進みます。
右眼のモノクルが私の魔力を受けて淡く光り周囲の魔力、感情、他者の気配を見せてくれます。
不意に殺気が私に対していくつも重なります。右手で法衣の留め具を外しそのまま法衣を脱ぎ、クルリと回転します。
法衣が私を襲う針を絡め取ります。左手でチョーカーを触り、身体強化、防御、矢躱し、魔術反射、空間把握の魔術を展開。
法衣の下にはギャイルの道着を着ており魔拳闘士として一番近い賊に向けて踏み込みます。
角から半身を出して小型ボウガンを構えた男の腹に下から抉るように拳を打ち込みます。
不意を突かれた男は避けるまもなく私の拳を受け身体をくの字に…………
「爆裂」
私の魔術が発動し衝撃とともに吹き飛び、背後の壁に打ち付けられガハッっとうめき、白目を剥きます。
背後の二階の窓から二射目を放とうとしている座標を右目のモノクルで確認し魔術を発動。
「風斬」
無数の風の刃が二階の窓を中心に荒れ狂い、男の悲鳴とボウガンが地面に落ちる音が響きます。
背後の死角から鋭い細身剣の刺突が私を襲います。事前に空間把握で気がついていた私は、最低限の動きで躱します。
そのまま、袖を絡みつけて剣を巻き込み男の体勢を崩し膝を胸に叩き込みます。
「ぐはっ、ウゲッ」
膝蹴りで前のめりになった男の頚椎に鋭い手刀を放ち意識を刈り取ります。
攻撃直後の避けきれないタイミングに投げナイフが飛来します。
当然、矢躱しが発動しナイフが逸れますが、もう一本が後ろに隠れています。
矢躱しの弱点である連続だと反らしきれないということを知っている相手…………手練れですね。
袖を振り、絡め落とします。その間にもまた重ね投げのナイフが放たれ、暗殺者もこちらに向かってきます。
大きく横にステップを行い投げナイフを避けますが暗殺者も巧みなステップで私に迫り、完全に誘導された状態になってしまいました。
そこから、フェイントを絡めながら双刃の連撃が私を襲います。空間把握と右目の魔眼で先読みして躱していきます。
二人揃ってバックステップで距離を取ると暗殺者は声をかけてきます。
「癒しの殴り屋…………スー。あんたの不敗神話を毒使いゴーデルが終わらせる」
不敗神話? 確かに弱い者を虐げるものには等しく罰を与えましたが…………
思案していると毒使いゴーデルがこちらに向かって来ます。空間把握と右目のモノクルが彼の非常に狡猾な動きを察知します。
私に向けて右手で球体を投げつつ左手の指輪の魔術回路『炎弾』を起動。右の踵を打ち鳴らし、つま先に仕込まれた散弾状に拡散して飛来する無数の針。
全てが同時、実にスムーズで洗練された動きに感嘆と称賛を覚えます。では私も奥義を持ってお返しいたしましょう。
「魔風堅牢陣」
身体に覚え込ませた複雑な動きを瞬時に行い右拳を石畳に打ち付け魔力を流します。
魔術回路とは、世に思いを届ける架け橋。声や記号、図形。そして所作すらも含まれます。
拳魔闘士と恐れられるギャイルが編み出した肉体言語による魔術が完成。私の拳を起点に暴風が巻き起こり天を貫く竜巻が顕現します。
針も球も巻き込み遥か上空へ霧散させられ、炎弾は魔術反射によりゴーデルの顔面に直撃しました。
竜巻が幻のように消え去った後、炎弾を顔に受けて、のたうつ彼に近づいて話しかけます。
「本当の依頼人を教えていただければお助けしますがどうしますか?」
手を差し伸べ、彼の返答を待ちます。
「ぐっ、プロ失格だ。貴女の強さと寛大さに負けた。俺はやり直せば貴女のように強くなれるか?」
彼は炎弾の痛みより先ほどの圧倒的な竜巻という力に圧倒されたようです。右眼のモノクルには反省の碧と期待の茜という愛に属する色が映ります。
戦いの後に生まれる愛の種…………いいものですね。彼の手をとって立たせると、今回の本当の黒幕を教えてくれました。
「貴方が高みを目指すというのならサーナの西、神の掌にあるロイデのギルド長にアリスの名を出しなさい」
約束通り助けになる伝手を紹介して彼を見送ります。
ボンボンの配下の者が、未だうめき声をあげている裏路地で法衣を再び着直します。砂ぼこりに混じる微かな血の香り。
荒事に慣れて行く感覚…………本当はただ復讐したいだけ…………
「ふふっ、わたくしったら何を考えているの? こんなちっぽけな悩みなど愛の神様はご存知に決まってますわ」
そう私は、愛の神様に全てを捧げた身。今は、あのボンボンにお灸を…………
黒幕も含め、テリマヨに手を出した者たちわたくし許しませんよ。




