交わりの地タナトシェル〜朝日とテリマヨ〜
朝日と共にわずかに震える手で乱れた寝具をなおし、浄化の魔術で部屋をあるべき姿に戻す私。
法衣を整え黒き聖典を広げ聖句を読み上げます。
か細い声で始まった聖句が徐々に力強く響き心の隅々まで聖句が染み渡ります。そう、愛に満たされていきます。
愛の神様に見いだされた名もない少女に、家族が与えられた大いなる愛の物語。黒き聖典を胸に抱き、私は立ち上がります。
私はアリス、愛の神官です。
部屋を出て朝日が差し込む廊下で一つ伸びをし、肩を回します。やはり太陽はいいです、明るさと暖かさが私を包んでくれますね。
赤翼亭に向かいましょう。
お店に着くと朝の仕込みを終えて一段落した様子のソフィアさんがカウンターに腰掛けていました。
お声を掛けて隣に座ります。
「神官様、あれから調子も良くお客さんも少しずつ帰ってきてくれました」
そうですね、ソフィアさんに味のことを伝えづらく自然と離れてしまっていた職人さん達にはアレンさんが声をかけていたようです。
わたくしも微力ながら愛の神官の噂とともに赤翼亭の味が戻ったとお話させていただきましたので、時間はかかるでしょうが元に戻っていくでしょう。
「お父様の病の原因は目処が付きましたわ。今日、お仕事後アレンさんと一緒にここで待っていただけますか?」
お父様はこの長屋の二階の部屋で寝ているとのことなのでお店で癒しの祈りをあげるのが良いでしょう。
「神官様何から何まで本当にありがとうございます」
ソフィアさんが私の手を取り、私の顔をまっすぐと見つめてくれます。これは、もう一踏ん張りする価値がありそうですね。
その後、キッチンに戻ったソフィアさんが特別にテリマヨサンドを作っていただき朝ご飯です。
カリッと軽い焦げ目のついた丸パンに甘辛く焼いた鶏肉、葉野菜とマヨソースたっぷりの特別メニューです。
焼いたパンの香ばしい匂いと焦がした甘辛ソースの香り。もう、わたくし堪りませんわ。
紙に包み、口に近づけて一気にかぶりつきます。
サクッ! じゅわ〜、パリッ!
サクサクのパンを噛んだ途端、マヨソースと鳥さんの肉汁が口の中に広がり、最後に新鮮な葉野菜が私の口の中で弾けます。
止まりません、止まりませんわ〜♥
はしたないと知りながらも、いつの間にか無くなってしまったテリマヨサンドからはみ出したソースを紙から指で拭い舌にのせます。
「ごちそうさまです」
名残惜しいですが、ピカピカのお皿と紙の前で手を合わせて挨拶をします。
「あら、神官様もそのご挨拶ご存知で?」
ん? 黒き聖典に伝わる挨拶ですのであまり知られていないはずですが…………
「ドワーフさん達もされていますよ」
えっ、黒き聖典とドワーフさん達に繋がりがあるのですか? この癒しが終わったらゴルダックさんに聞いてみましょう。
先ずはあのお坊ちゃんに愛の何たるかをお伝えにいきましょう。深く考えてしたことではありませんが、危うくテリマヨが失われるところだったのです。
許しませんよ〜。
片眼鏡をクイッとあげ、優雅に赤翼亭を後にしました。




