表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爪痕は世界に刻まれるー熊獣人の生存闘争ー  作者: 北高乃窪地
第1章・冒険の始まり
PR
6/10

6.試験

 

 マワリーさんが放った最後の一言に大いに驚かされ廊下でフリーズした後。僕は後ろ髪を引かれながらも寮に移動し新たな住みかと対面した。

「今は出てるけど、ここは四人部屋だからルームメイトがいるんだ~。夜には戻ってくるだろうし、その時に挨拶するといいよ~。この辺りの部屋に住んでるのは同年代だから、まぁ楽しくやれると思うぞ~」


 部屋は木組みで出来てて木のいい匂いがする。部屋に残った匂いからして、ルームメイトはイノシシの獣人と熊の獣人、後一つはさっき見た髪?が凄くたくさんあって黄色い体毛の獣人だろう。ここにきての熊の獣人、それも同年代。マワリーさんに感謝しないといけない。扉から見て左右の壁に二段になったベッドがあり、どうやら使われてない右の下が僕のベッドになるらしい。

 そしてこのベッド、すごく大きい。今の僕では半分くらいしか使わないし人間の大人でも持て余すだろうけど、多分僕たちが成長したときに備えてのサイズだろう。熊やらイノシシやらおおきな獣人が集められているし。もっと大きい獣人がさっきいたが、あの人達のベッドはもっと凄いのだろう。


「じゃあ後で呼びにくるから、しばらくゆっくりしていいぜ~」


 そしてキロスさんが戻った後。はっと荷物を置いて試験の事を思いだし、どうしようかソワソワしていたのであった。





==========


 呼び出されたのは昼過ぎだった。キロスさんについて行き、案内されたのは広い訓練場。室内なのに村の蔵がいくつか入りそうなくらい広い。いろいろな器具があり物珍しさでキョロキョロしてしまう。他に人はいないのでマワリーさんと僕、キロスさんだけだ。


「よし、来たな。ではさっそくやるか」

「はい!」


 いったいどんな試験だろう、少しは鍛えてるし役に立てるはず、ああでもここにはいっぱい獣人がいるしキツいのか?

 いろいろ考えながらも全力でやろうと意気込んだ僕に最初に渡されたのはーーー

一枚の羊皮紙だった。





「ふむ、普通に羽ペンを持ててるな。獣人は爪とかが邪魔で人間と同じペンは持ちにくいってやつもいるんだが、その点お前は大丈夫そうだ。内容も、読み書きは問題なし、お使いできる程度には金の計算もできる、と。ウルスはちゃんとやってたらしいな」


 わざわざ机も用意され行われた筆記試験は文字の読み書きや計算、王国の歴史などの問題が出された。歴史とか知識がいるのは出来なかったけど、他はそれなりにできたと思う。


「えっと、どうしてこれを?てっきり強さの試験かと、、」


「当然、身体能力とかもこれから見る。ただ勉強できなきゃ不便なんてものじゃないからな、ここでは必須だ。これからは獣人も頭が良くないといけない時代だ」


「なるほど、、」


「よし、それでは次は身体能力の試験だ。まぁ試験とはいったが結果がどうあれ扱いを変えたりはしないから安心してやってくれ。では今から三種類のをやってもらう。最初は宝探しからだ」


「宝探し?」


「ああ、まずはこれから部屋の中に隠してる薬草を匂いだけで探し出してもらう」


 そう言ってマワリーさんは懐から出した小さな巾着を机に置き、中にあるものを見せてくれた。親指ほどの真ん中の膨らんだ葉っぱが十枚ほど入っており、色は濃い緑色。薬草と言っていたけど匂いはあまりなく、目の前でもほのかに苦いような香りが漂ってくるくらいだ。


「これと同じものを部屋に四つ隠してある。全部見つけられたら合格だ。あまり置いてある物を動かして回るのはダメだからな。匂いで探すんだ」


 そう言われ部屋に視線を戻し集中すると、確かにうっすらと香りが漂っている。嗅覚は熊の得意分野。これならこなせる自信がある。


「分かりました!いけます!」

「よし、それではスタートだ」


 机に置いてある砂時計がひっくり返され、最初の試験が始まった。

 まずは近くから探そう。そう思って鼻に意識を集中させ、歩きながら匂いを辿る。するとさっそく一つ残り香を見つけたので辿っていくと、左の壁際に置いてあるベンチが源泉だろうと分かった。


「多分この裏に、、あった!」

「まずは一つだな~。残りはもっと分かりにくいから頑張れよ~」


 一つ見つけられたことで余裕が生まれ、肩の力を抜いて探せるように。キロスさんの応援を背にそのまま二つ目も入り口近くに感じ取り、今度は逆の右の壁、円形の鉄のプレートとか訓練で使うのだろう道具が置いてあるラックの中からゲットした。だが三つ目、部屋の奥の方まで来た時に状況が変わる。


「ん?風?」


 気になって風の吹いてくる左の壁を見てみると、キロスさんが壁に片手をつけていて、そのすぐ側の閉められた窓の上には何やら模様が書かれた紙が張り付けてあり、そこから風が吹いているようだった。強風というほどではないが髪がたなびく程度には吹いている。また窓が閉めきられているのと風でうまいこと空気が閉じ込められてるせいで訓練場の匂い、器具の鉄の匂いやいろんな人の汗の匂いが部屋の奥に溜まり薬草の匂いが分かりにくい。

 分かりにくいってこれのことかと振り向くと、マワリーさんはニヤっと薄く笑いこちらを試すように見ている。キロスさんもなんだか楽しそうだ。


(これくらいなんでもないって見せてやるっ)


 鼻を動かしさらに詳しく探る。

鉄・体臭・汗・革、、いろんな匂いが混ざっている。

だがその中から違和感を探りだし、方向を、位置を見つけ出す。


(、、下?、、そこだ!)


 さっきより低い位置だと確信し、下側を重点的に探る。すると敷物がひかれている一角、その中に少しだけ盛り上がった箇所を発見。近づけばはっきりと感じ取れる苦味。


「よしあと一つ!」


 これで三つ見つけられた。これまで段々難しくなっていったから最後の一つはさらに難しくなるかと思ったが、敷物に近づいた時にもう目星をつけることはできている。かなり朧気になっているが、三つ目の敷物から残り香が続いていたからだ。


(マワリーさんが運んだ時の痕跡が、まだ残ってる。この薄い道を辿れば最後の薬草を見つけられる!)


 残り香を辿っていき部屋をウロウロ。嗅ぎ失いそうになりながらしばしの探索。

 そして一点、不自然に匂いが濃い場所を見つけた。色々な匂いが色濃く染み付いているそこは、まるでなにかを包み隠そうとしているようだ。薬草の匂いは他とそう変わらないが、これだけ匂いが混ざっているのに変わらないということそのものが、残り香ではなく実物がそこにあるという何よりの証拠となっている。


「見つけたっ」

「ほう」


 そこ、、奥の壁にある棚の中から薬草を取り出し、四つ揃った袋をマワリーさんのところに持っていく。無事達成できて心は晴れ晴れ、自然と口の端が緩み、出来に自画自賛したい気分だ。


「これって、三つ見つけれられれば戦闘で食ってけるくらいの潜在能力はあるんだよな~。四つ目は念の為用意されてるヤツなんだが、よく見つけたなぁアレク」

「えへへ、よく狩りとかしてましたから!」


 キロスさんに褒められ、マワリーさんも悪くないって顔してるのを見て気分が良い。次へのやる気も十分だ。





「では次だな。次はあの箱を押してもらう。筋力や固定化の制御をみるぞ」


 マワリーさんにつられて見たそこはさっきから気になっていた場所だ。大人ほどもある大きな箱があり、特に気になったのが箱が置いてある辺りの床だ。他とは違いツルツルの石でできており滑りやすくなっている。


「その箱に重りを入れて重量を調節する。お前はウルスから獣人の固有能力について聞いてるか?見た目には現れないが獣人の立派な身体機能の一つだ」


「えっと、なんとなくは。山とか足場が悪い所で走るとき、足元を頑丈にしたり踏み込みやすくするあれ、のことですよね?」


 前にお父さんから聞いたことがある。僕達は無意識に使ってるけど人間には出来ないって。この力も動物のような足もないのに、どうやって人間は山道を歩くんだろうと不思議に思った記憶がある。


「そうだ。この世界のあらゆる場所に流れ、数多の生命に宿っている普遍的なエネルギーである翠気。そのうち自らが内包する翠気を元にして発動するのが固定化の力で、足場や体を固定したりできる。これはまた今度じっくり教える機会をつくるが、人間が扱う翠気術と呼ばれる体外の翠気を操る方法とは違い、文字や道具、動作を必要とせず獣人が生まれつき扱える。この試験ではこれをどのくらい使いこなせているかを確認する意味もある」


「なるほど、、」


「それではやってみるか。まずは百K(キロム)からだな。それを壁まで押してみろ。靴は脱いでいいぞ」


 そういってマワリーさんは箱の中に重りを入れていく。どうやら砂が入ってるらしい袋をいくつか入れるとそれで完了のようで、すぐに準備を終えたマワリーさんに振り返って早くしろと手まねきされた僕は、慌てて靴を脱ぎ小走りで箱の正面に立った。


「ふんっ」


 両手をあてしっかり腰を落として力をこめる。床がツルツルでも関係ない。固い石で爪もうまく引っ掛からないけど、獣人に備わるもう一つの能力が活躍してくれる。力を入れて足と床を固定すれば、このくらいの重りは問題なく前へ運んでゆけた。そして五歩ほど進むとドンっと音がし、壁から終わりの合図が送られてきた。


「ふむ、これくらいは全然問題なさそうだな。じゃあ次いくか」

「はいっ」





「ふっ、ぐゥゥゥっ」


 そして重りを追加していき四回目。僕は三百十K(キロム)となった箱の前でとうとう前に進めなくなっていた。


「アルク~、足が後ろに下がっていってるぞ~。しっかり床に固定して、あと腕じゃなく下半身の力を意識してやってみろ~」


 すでに肩と右耳を箱につけて踏ん張っている。力をこめすぎて耳が熱くなるほど集中してるが、なんとか聞こえたキロスさんの指示に従い足をより意識してみる。ズリズリと二足分は下がった足を前に戻し、再び固定化を施す。

 だが相手は強敵で全然動いてくれないのもあって、普段は動かない足が少しずつ下がってしまう。なんか床が勝ち誇ってるような気がして八つ当たりしたい気分だ。何度も体勢や踏ん張る場所を変えベストなポイントを探っていき、固定化を強化していく。

 それどころじゃないけど、今までこんなに全力で固定化を使ったことがないから、本気でやると足裏や足首が痛くなってくるという新しい発見ができたことに何故か感心した。


(、、てっごちゃごちゃ考えてるっ場合かぁっ!)


「せぇっのぉぉぉ!!」


 すると少しずつ箱が動きだすのを感じ、この隙を逃さないようすかさず力をこめる。そしてゆっくりと前に押し出すことに成功したが、三歩進んだところで手足がプルプルを止められず力尽きてしまった。


 最後まで押しきりたかったが、三歩分は動かしてやったのでひとまずはいいとしよう。倒れ込み、荒い息を整える。

 いまの今まで僕をからかっていた床が、反省したかのようにヒンヤリと心地よく包んでくれる。なんだか嫌いになりそうだったけどまぁ許してやろうと心のなかで和解する。いやまぁ相手はただの床なんだけど。


「疲れただろう、少し休憩だ。少ししたら最後の試験をするぞ」

「はぁっはっ、ふぅぅ。最後は、なにやるんですか?」

「ああ、おそらくお前が最初に想像してたヤツーーー模擬戦だ」






 水を飲み一息ついた後。頃合いを見計らってマワリーさんが模擬戦をする場所へ案内してくれた。程近いところにあった、床は地面で頑丈そうな壁に囲まれたこの部屋が模擬戦の舞台らしい。


「俺がやってもよかったが、丁度適任がいるんでな。こいつはキロスに任せる」


「よろしくな~アレク」


「よろしくお願いします!」


 ペコリとお辞儀をした僕に、キロスさんは気楽な感じでヒラヒラと手を振って答えてくれた。キロスさんは籠手(こて)や胸当てなど防具を纏っており準備万端な様子。そして僕にも似たような形の防具を持ってきてくれたのでありがたく使わせてもらう。


「実はな~、今俺が着てる防具は一定以上の衝撃を加えると音が鳴るんだよ。音が鳴らないくらいに威力を抑えながら攻撃するってのがこの模擬戦のルールだからな~。あとこの模擬戦は戦いの腕をみるってより、力のコントロールとか戦う時にビビりすぎたり攻撃的になりすぎないかをチェックするもんだから、全力で倒す!っとかはしなくていいぞ~」


「はいっ!」


「あ、これ俺がつけてるのと同じやつだから、試験の前にこれで力加減を確認しときな~」


 そういってキロスさんがかかげたのは一枚の盾。上半身がギリギリ隠れるくらいの大きさで見た目はただの木の盾って感じだ。

 さっそく一撃入れさせてもらう。まずは正面から普通に右ストレートで殴ってみる。すると


ピュッッゥウウーーーー


「な、なるほど、これが鳴るとだめ、と」

「そうそう~」


 どこか気の抜ける笛のような音に面食らったが、気を取り直して調節していく。そしてどうやらこの防具、体感で七割より上の力くらいで殴ると音が鳴るようだ。蹴ったりしたらすぐなりそうで、蹴りは使えないなってことを悟る。


「確認はすんだか~?」

「大丈夫です!」

「んじゃ始めるかぁ~」


 そう言われ、僕は部屋の真ん中で構えをとる。キロスさんは五歩ほど離れた場所で両腕をダランと下げた独特な構えをとった。


 ーーーこの時、僕は致命的なほど油断していた。いや、試験やキロスさんを甘くみていたのだ。二つの試験に手応えを感じ、今まで優しく接してくれてたから今回も大丈夫だとたかをくくってしまっていた。


「ヴヴヴヴヴッ」

「ッ!?」


 キロスさんの雰囲気が変わる。低い唸り声が体を揺さぶる。逆立った毛で体が大きくなったような気がした。さっきまでの穏やかな気配は欠片もなく、琥珀色の鋭い視線を僕に向けどうやって食い殺そうかと探っている。

 僕の混乱が収まる前にキロスさんが大きく息を吸い込むと、本当に同じ人物なのかと疑いたくなるような威嚇の声が飛んできた。


「シャャァアアア!!!」


 そして放たれた叫びを聞いた途端、肌が泡立ち反射的に走りだし、遠慮加減の一切ない攻撃を仕掛けていた。


 さっき言われたルールなんか、頭から吹っ飛んでいた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ