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爪痕は世界に刻まれるー熊獣人の生存闘争ー  作者: 北高乃窪地
第1章・冒険の始まり
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4/11

4.今後の方針決め

<父・ウルサブス視点>

 調査を終えなんとか村に帰還した俺たちは盛大な出迎えを受けていた。こんな時間にも関わらず集まってくれたことは調査隊冥利に尽きる。だがまだゆっくりするわけにはいかない。森で見てきたことを報告し早急に対策を立てなければ。特にアルクについてはミアとよく話さなければいけないだろう。


「あなたっ!」

「お父さんっ!」


 かなり無茶な帰り方をしたのでみんな疲労困憊だ、ひとまずは最低限でも補給をすませていると妻と息子が駆けつけてくれた。再開を分かち合いたいが、今は優先すべきことがある。


「ミア、これから村長たちに報告してくる。お前も一緒に来てくれ」


「、、あまりいい話じゃなさそうね。分かったわ。アルク、少しの間家で留守番しててくれる?大丈夫、お父さん達皆無事に帰ってきたし、心配することないわ」


「えっ、でも、、うん。分かった」


「ごめんね、すぐ戻るわ」


「すまんアルク、もう少し待っていてくれ」


 こちらを何度も振り返るアルクの姿に身を引かれるが、意を決して振り切り意識を切り替える。見れば調査隊の面々も水と食料を受け取り一息つけた様子だった。


「ガリアさん、そろそろいけそうですか?」

「ああ、待たせてすまねぇな。なんとかもうひと踏ん張りできるぜ」


今回の調査隊で一番の年配であるガリアさんに声をかけ、もう大丈夫そうだと判断する。何があるか分からない調査に同行を願うには体力面が心配だったが、彼がこの村で一番森を知っているから調査しない訳にはいかなかったのだ。こうしてなんとか村に戻ってこれて一安心だな。

 そうしてみんなの確認がとれたのち、調べてきたことの報告をするため村長の家に移動したのだった。




==========


「結論から言う、もうこの村は捨てなければならないかもしれない。」


 移動した後、村長や村のまとめ役たち、ミア、調査隊で車座に座り説明を行った。ミアは別にまとめ役という訳ではないが、かつて旅をし見聞を広めていたので何か手がかりがあれば教えてもらうという有識者の立場でここにいる。農民は普通、生まれた土地を離れないので各地を訪れたことのある者は少ないのだ。俺もミアと一緒で外の知識はあるが、俺とは違う意見もあるだろうし意見は多いほうがいい。

 報告は基本ガリアさんが話し、俺たちが補足などをしていく形だ。そしてそれを元に今後を決めていく。


「なんと。ガリア、それはどうゆう意味じゃ?森で何があった」

「村長、森はもう私が子供の頃から慣れ親しんだ森ではなくなっていた。三日ほど進み山を越えた辺りでは、魔物に侵食され植生も変わり、かなりの毒素が満ちている。こんなのは初めてだ」


 それを聞き、村長たちは大きく目を見開き、まとめ役たちは左右の人としきりに視線を交わしていた。

 村長は頭の天辺の毛はもう少ないが、口には長くて立派な白い髭。顔には酸いも甘いも噛み分けてきたのが伺える深い皺が刻まれている。長年の勤めで腰も曲がり、動きに不便が出てきてからは村人には少々高価な杖を愛用し家でもできる内職を嗜んでいる。若い頃は村の外に出ていたらしいので知見も広く、相談事もよく引き受けている村の頼れる(おさ)だ。

 まとめ役たちは働き盛りを過ぎ、初老に差し掛かった年齢の人からご隠居まで務めているが、背もまっすぐで若い連中には負けんと息巻いている。

 そんな村長たちも、今は顔に刻まれた皺を歪め驚きを露にしていた。無理もない、こんなことは初めてだろうし俺もどうしたものか悩んでいる。


「ここからは知識もあり実際に現場を見ているウルスが適任だろう。ウルス、説明を頼む」


「了解した。俺もまだ半信半疑だが、、

おそらく聖国の策略、そうでなければかの大喰害(だいしょくがい)が起こる予兆、、かもしれない」


「な、大喰害(だいしょくがい)、じゃと!?」

「うん?村長、それがなんだというんだ?」


「、、そうじゃな。お主たちには『第5の試練』、と言えばわかるかの。かの国の神話に出てくるアレじゃよ」

「なんだと!?」

「しかし村長、所詮は物語の中の話だろう。その話より聖国の件の方が大事ではないか?なにをそんなに反応しているのだ」

「伝承は(まこと)であったか。ならば村は、、」

「それより、聖国の策略とはどうゆうことだ!?伝説なんぞより重要だろう!」


 反応は様々だった。村長は知っていたようで、ひとまず神話の内容を他のまとめ役にも教えてあげている。

 ---大喰害(だいしょくがい)。子供の頃から聞かされる英雄譚に出てくる災いだ。


 その昔、魔物が大量に出現し人も動物も植物も全てを食らいつくし毒を振り撒いた。その猛威は大地のほとんどを覆い、多くの人が命を落とし土地を追われ、多くの生物が滅亡の縁へ追い詰められていた。そんな時、神樹に認められた英雄達が立ち上がり、魔物を倒して毒を浄化し、再び生き物が暮らせる大地を取り戻した、、


という、なんともありふれた神話のエピソードの一つだ。

 俺だって現実的じゃないと思っていたが、ここで問題なのは「魔物が大量に出現した」という点。今の状況と酷似している。そしてそれをうらずけるようなモノを、俺たちは見てしまった。


「村長、森にいたのは魔物だけじゃない。フィラデルフィア聖国軍の一部がいて何かしていた。遠くから盗み見ただけだから詳細は分からなかったがな。このサルディス王国と対立している訳ではないが、国境を超え、こんな辺境に出張ってくる程にあの国がこの事態を注視している証拠だ。そして、強力な魔物は聖国軍のいる地点を境に不自然なほど人里へに降りてきていなかった。わざわざここまで来て魔物の実験をしているのか、王国に打撃を与えるための工作か、はたまた大喰害(だいしょくがい)を抑え込んでいたのか。なんにせよ巻き込まれればこの村なんて一溜りもないぞ」


「まさか、そのようなことになっておったとは、、、」


「あなた、その軍はどんな装備だったの?」


「ああ、俺が見た十人程、全員高度な翠気術を扱っていた。それだけでもかなりの組織力が窺えるが神樹武装を所持していたのが決定的だ。あれを持ってるのは聖国の騎士団、それも上位騎士だけのはず」


「そうね。軍と聞いて嫌な予感はしたけれど、、神樹を有し、世界を救った英雄達が興したとされる国が直々に来ているなんて」


 重苦しい空気が漂うなか、一人の男が質問を投げ掛けてくる。


「ウルス、これから領主様に使者を出して事態を報告し、兵を出してもらうのではダメなのか?もしくはその聖国の軍とやらに聞いてみるのは?話はしなかったのか?」

「すまない。聖国軍が友好的なら良いが、もしこの王国と敵対する気なら口封じに殺される危険があった。だから話を聞けなかったんだ。領主様を頼る案だが、使者が領主様のもとへ行くだけでも数日以上かかる。兵が来るまで村が襲われない保証はないうえ、魔物の強さも想定外だった。森で、今回村に来た奴ら以上の個体を見た。正直、兵が間に合っても戦闘になった際に対抗できるとはとても思えないし、もし群れをなして襲撃されれば俺もみなを守りきれる確証が持てない。実力者が来る頃には村は無事では済まないだろう」


俺たちの会話を聞き、村長は更に眉間の皺を増やし苦悩した様子だったが、やがてなにかを決心したらしく皆に聞こえるようにハッキリと宣言した。



「先代が興したこの村を途絶えさせるのは心苦しいが、背に腹はかえられぬ、か。

みなで移住するぞ。勝手に決めて領主様には申し訳ないが命あっての物種よ。ワシの一存で決めさせて頂こう。意見のある者はおるか」


 そう言って一度重々しく頷き、横に置いていた杖を強く握りしめる。目を閉じ眉を寄せる姿からはこの村で積み重ねてきた年月を感じさせた。


「だ、だが村長っここ以外にどこへ行くってんだ!この間来た行商の話じゃ、近隣の村の狩人も森になんか違和感あるって言ってたそうじゃねぇか。被害はまだないらしいが、安心できる場所なんて近くには、、」


「ならばできるだけ遠くへ移住するしかあるまい。どのみちここにいれば死ぬのだ。少しでも生き残れる道を探らねば」


 まとめ役の一人が懸念を告げるが、村長の一言で二の句が継げなくなる。彼も頭では分かっているのだろうが、農民が田畑を捨て一からやり直すのは多大な覚悟が必要だ。すぐに受け入れられないのも当然だろう。

 彼が苦虫を噛み潰したような表情で床を見つめる姿を見て、他のまとめ役たちは段々と現実として受け入れてきたらしく今後について話だした。


「もう、ここでは暮らせないのか、、」


「くそっ。ならば、どこに行くか案を出し合うぞ。親戚や知り合いにツテはないか?時間がない、早急に決移住の準備をしなければっ」

「領主様への使者は俺が引き受けよう。あの町には息子夫婦がいる。書状を渡したら妻とそこで厄介になるつもりだ」

「それはありがたいが、こんな状況だ。護衛として何人か付き添わせよう。ただの農民でもいないよりはマシだろうよ」



 村長が定めた方針通りに、話が今後のことへと移っていく。良かった。無いとは思っていたが、信じてもらえなかったり現実逃避されたりすればそれだけ避難が遅れてしまう。


「ウルス、お主はどこか移住できる場所に心当たりはあるか?」


「そうだな、西へしばらくいった都市にツテはあるが、あそこは戦えない者には厳しいだろう。ミアはなにか良いところ知らないか?」


「だったら南へ五日ほどいったところに、大河沿いで農業が盛んな町があるわ。そこなら労働力として迎えてくれるんじゃないかしら。ただ他の村の人達も大勢避難してくるとなると、人数的に厳しいかもしれないけれど、、」


「おおっ今はあてがあるだけで十分よ。しかし、儂ら年寄りにはちと遠いな」

「なら馬車を使えばーーーー」

「すまんが、わしはここに残る。もう新天地でやっていく気力はない。故郷の地に骨をうずめるわい」

「じいさん、、」


 そうして、村人の今後を決める話し合いは休むことなく進められていった。これで調査隊も一安心だ。これからは村長達の仕事である。疲れ果てていた調査隊の面々はようやく役目を終え、体を休めるため帰っていった。

 俺は臨時の相談役としてもう少し話さなければならないが、とりあえずは一段落ついたことでどっと疲労が押し寄せてきた。

 だが、気を抜くことは状況が許してくれないらしい。

「あなた、私たちの今後なんだけれど、、」


「あぁ、まぁ俺たちなら戦える力があるし、マルムークにでもいけばひとまずは大丈夫だろう。山脈が近くにあるが、城塞都市として戦力や防衛準備が整ってるからな。そこで状況を把握して、必要なら獣人国に行くか決めるといったところか?」


「その前に、伝えなきゃいけないことがあるの。、、、実は、あなたが調査で留守にしてた時、王都からアルフレッドがきたの」


「、、なんだと?」




<アレク視点>=====


 帰ってきたお父さんに戦う気持ちがあるかって聞かれ、あるって答えたらマルムークって町に行けって言われた。雰囲気的に、てっきりここで戦い抜くしかないのかと思ってたからちょっとフリーズした。


「えっと、つまりどういうこと?みんなで逃げる、の?戦うの?」


「まずだな、もうこの村にはいられないんだ。森にはたくさんの魔物がいて危ないから、みんなで別の土地に移住しようってことになった」


「村を、、」


戦ったり助けを呼ぶ他に、逃げないといけない可能性も考えてたから正直ここまでは驚きはない。ないけど、ならなんでさっき戦う意志はあるかって聞いたんだろう。


「それで、全員で一つの場所に行くのは向こうも大変だということで、何ヵ所かに別れて行くことになった」


「うん」


「マルムークは戦いの準備が整ってる都市で、アルクが強くなるための修行をするのに適している。俺の知り合いがいるからそこでしばらく過ごすといいだろう。どうだ?」


「、、いいけど、お父さん達はどうするの?一緒に来ないの?」


「ああ。すまんが父さん達は王都にいかなくちゃならなくなった。ここからは別行動になる。本当は一緒に行きたいんだが、いろいろ事情があってな」


 その事情がなんなのか僕には分からない。でも、僕はこの村で生まれ育ったけどお父さんたちは外から来たんだ、繋がりや因縁くらいあるだろう。でもなんでこのタイミング?

 もっと聞きたい。でもぼかしてるってことはあんまり詳しく教えるつもりはないんだろう。

 別行動。一人。今まで一人っきりになることなんてなかった。お父さんたちと離れても、小さい時からの顔見知りの村のみんなが近くにいた。別の町に行けば、知り合いもいなくなり()()()()一人になる。


「僕が王都に行くのはダメなの?王都でも強くなれるよね、一番大きい町なんだからっ」


「っごめんなさい、今アレクを王都に連れていくことはできないの。不安だろうけど、他の町でしばらく暮らしてちょうだい?いつか必ず会いに行くから」


 お母さんが申し訳なさそうに僕の頭を撫でる。

 しばらく会えないのは寂しい。訓練の約束したじゃん!と声に出したい。けど、僕だってもう守られてばっかりの子供を卒業する良い機会だ。これくらいでくよくよしていられない。


「分かった。僕行くよ!」


「、、ありがとうな。お前は強くなれるよ。もう心は立派に育ってる。別の町でもしっかりやれるさ」


お父さんからも撫でられて、頭の毛がボサボサになったけど悪い気はしなかった。むしろ最後だと思って、この夜は目一杯二人に甘え、これから先孤独に感じないよう備えた。


 その後すぐに出発の準備をし、翌日には村を出た。あまりの早さにビックリしたが、これもお父さん達の事情に絡んでいるんだろう。僕と同じマルムークへと向かう人が馬車を出すのでそれに乗せて貰った。

 早朝に出発する時、ネッドが見送りに来てくれて嬉しかった。ネッドは大河沿いの町に行くらしい。お互いに頑張ろうって励まし合い別れを済ませ、いよいよ新たな生活の幕が上がった。

 慌ただしかったけど、そのおかげであんまりしんみりしなくてすんだのは助かったな。これからは自分でなんとかしなくちゃいけないんだ。いつか強くなって魔物に勝てるようになってやる、あんなのに負けてられるか!

 馬車に揺られながら幸先(さいさき)の良い快晴を仰ぎ見てそんな思いを新たにする。

 こうして、僕の新たな生活の幕が上がった。


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