3.調査隊と急転
あの晩ご飯から二日後、ついに森に調査隊が派遣される日になった。
「気を付けてねお父さん。帰ったら訓練だからね!忘れちゃダメだからね!」
「ああ、分かってるさ。俺がいない間、村の手伝いをしっかりしてるんだぞ」
森に近い村の周囲を囲っている柵の側で、お父さんを中心とした調査隊のお見送りがされている。まだ肌寒く、日が昇りきっていない時間帯だけど、調査隊の無事を願ってたくさんの人が集まっているのだ。僕もお母さんに連れられてお見送りにきて、出発前の挨拶をする。
お父さんに声をかけると、僕の頭をガシガシと掻き回してお手伝いしとけと笑いかけてくれた。実は昨日の夜、心配であまり眠れなかったけど、お父さんのいつも通りの姿を見て少しだけ胸のモヤモヤが晴れた気がした。
大丈夫だってって意地を張って手をどけたが、ニヤっとしてたのを見るにバレバレだったみたい。
「無事を祈ってるわ」
「村とアレクを頼む」
お母さんもお父さんといくつかの言葉を交わし、最後に強く抱き締める。お父さんも腕を腰に回し抱き止めていた。
「よしっ出発するぞ!」
村に残る人と調査隊の面々が、各々で別れを告げるのを確認したあと、村で一番経験のある狩人のガリアさんが勇ましく号令を掛け、ついに森へと向かって行った。調査隊は六人。村でも選りすぐりの男達を集めた精鋭隊だ。彼らに向かって村人で惜しみ無い声援を送る。
「期待してるぞーー!」
「絶対帰ってきてね!」
「村は俺たちに任せとけ!!」
当然僕も精一杯声を上げ、無事に帰ってくることを祈った。今では立ち入り禁止となり、見てるだけで不安になる得体の知れない変容した森へと歩を進める調査隊の背中はとても大きかった。
「待ってるからねーー!!」
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調査隊が出発してから五日。その間僕は言いつけ通り、村の警備の強化の手伝いをしたり、畑を整備したりと忙しく過ごしていた。
一度、行商人の他に旅人らしき人たちが村に訪ねてきてビックリした。こんな時に、それも一人でくるなんてよほど腕に自信があるのかな。なにやら探してる人がいるらしく、村長と話をしていたらしい。
まぁ人から聞いた話で僕自身で聞いたわけじゃないんだけどね。この村は半分くらい移住してきた人だから誰を探してるかはわかんないんだって。
最初にチラっと遠目に見ただけで、その後すぐお母さんに畑の水やりしてきてちょうだいって言われたからタイミングがなくって、結局会わずじまいだ。
「はぁっはぁっはっ、思ってたよりっ疲れるなこれっ」
そして、昼間は時間がないから、一日が終わり家に帰る前に走って村を数周するようになった。難しいことは分からないが、体を鍛えて悪いことはないだろうと思って始めたのだ。前は山での狩りで体を動かしてたけど今は行けないし、村で出来ることをしようと考えた末にこれに思い至った。我ながら冴えてたと思う。帰ったら褒めて貰おう。
「はぁ、はぁ、すぅーふぅ~。、、んぐっ、フゥー。、、よし、ただいまー!」
「お帰りなさい。今日も汗凄いわね、体拭いてらっしゃいな」
日課をこなし家に帰って、濡れた布で体を拭く。そしてご飯を食べて早く寝る。それが最近の一日だ。
「そろそろ帰ってくるかな?」
「焦らなくてもまだ予定の日数は経ってないわよ。みんな原因を探るために頑張ってる頃だから、私たちは村をしっかり守ってましょう」
二人だけの、心なし寂しい食卓で晩ご飯を食べながらお母さんとそんな話をする。
「お母さんはなんで魔物がきたんだと思う?」
「そうねぇ、森の奥で更に強力な魔物が現れた、とかかしら。でもそれなら普通の動物も移動してないとおかしいわね」
「あとはー、餌がなくなったからとか?アイツらって動物を食べるんだよね?」
「動物を好んで食べるけど、いざとなったら何でも食べるわよ。前のやつも、狼?の姿してるけど草とか、それこそ土とかも食べると思うわ」
「えっそうなの!?魔物って変な生き物だなぁ」
思わぬ情報にビックリする。てっきり他の動物を食べる狂暴な肉食動物だと思ってたから青天の霹靂だった。そういえば、魔物って他の動物とは全然似てないな。なんか黒くて曖昧で、形だけは似通ってる動物がいるけどつぎはぎだし、それ以外の全部の要素が特別だ。なんだかアイツらだけこの世界の生き物じゃないんじゃないのかと思うくらい。僕は魔物について何も知らない。そこで僕は、ふとした疑問が芽生えた。
「そういえば、なんで"魔の物"って言われてるの?アイツらってどうゆう生き物?僕はあの狼みたいなやつしか見たことないけど、いろんな形のがいるんだよね?」
「そうね、動物だけじゃなく植物の特徴を持った魔物とか色々いるらしいわ。どんな生物、か。私も詳しくは知らないのだけどね。魔物についてわかってる事って少なくて、どうやって繁殖するのかとかどこから来てるのかとか分からないことだらけなのよ。姿もそうだし、ずっと魔物の側にいれば動物も植物も衰弱したり魔獣を生んだりするし、魔物の血肉は毒になるから食べたり肥料にもできないしで、あんまりにも害しかないから魔界から来たんじゃないかってまことしやかに言われてるからそれが由来でしょうね。」
聞けば聞くほど謎な生き物だった。そしてあの夜も最近村に来て倒した魔物も、大人が燃やして村の外に捨ててた理由が分かった。あれってそんな理由だったんだ。
「重要なのは、姿が既存の生物からかけ離れているほど強力だという点かしら。今回のアレも異形な姿だったでしょう?
私が分かるのはこれくらいね。もっと知りたいなら、大きくなって王都で地位を築いたり魔物に関連する仕事に就くと分かるかもしれないわね」
「へぇー、なるほどぉ」
その後は畑の事とか今日あったこととか、そんな会話をお母さんとしてつつがなく晩ご飯は終わった。そしてそろそろ片付けて寝る準備をしようかとしてた時、にわかに外が騒がしくなった。もうすっかり日も暮れたのにざわざわとした喧騒が遠くからうっすら聞こえる。
「、、何かしら」
お母さんが窓を開けるといくつかかがり火が見えた。村の防衛のため柵近くの櫓では夜でも日が灯されているが、この時間に村の中が明るいのは祭りの時とか緊急時の場合だけだ。いったいなにがあったんだろう。気になって僕も窓から身を乗り出してた時、村人の一人が走ってきて村を駆け巡ったその知らせを伝えてくれた。
「おおーいっ調査隊が帰ってきたぞー!!」
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「お帰りっお父さん!」
「ああ、ただいまアレク。ちゃんとやることやってたか?」
あの後、その知らせを受けて僕たちもすぐに迎えに行った。帰ってきた調査隊の人達は疲労困憊の様子で、櫓の近くで座り込み、村人が持ってきた飲み物や食料を勢いよく胃にしまいこんでた。装備や服はかなりボロボロで、狩人の人の矢筒には矢が数本しか残ってない。その姿だけでどんな危機を乗り越えてきたのかが分かり残っていた村人総出で労っていた。
しかしすぐに休みたいだろうに、建物に移動もせず必要最小限の小休止をしてたのはこの後も急ぎの用事があるかららしく、僕たちが着いてからすぐに、お父さんはお母さんを呼び村長さん達と集会所に移っていった。僕はろくに話もできず、お母さんに家で待ってなさいと言われ、ソワソワしながら待機してた。
調査隊の六人全員帰ってきてたからそれは安心したけど、森でなにかマズい事が起きてたんだろうか、まさか前のより強い魔物が?早く帰らないかな、もう一時間は経ったよね?
いろんなことを頭の中でぐるぐる考え、落ち着かないので部屋の中もぐるぐる回り、だんだん疲れてきて眠くなってきた時、ようやくニ人が帰ってきたのだった。
「それでどうだったの?原因は分かった?」
「ああ、大まかな状況わな。できれば外れててほしいが。だがそれを言う前に、お前に聞いておきたいことがある」
家にニ人が帰り、玄関でお父さんにようやくお帰りって言えたあと、お父さんは着替えもせず、玄関で裸足に付いた土をざざっと拭っただけですぐにテーブルに着き、話をしようと切り出してきた。
お父さんは体に目立った傷は負っていなかったが、その顔からは色濃い疲労が感じられた。まだ伸びたままの両手の爪は細かい傷がいくつもついていて、何度も戦闘して酷使したのが伺えた。
「う、うん。聞いておきたいことって?」
「アルク、この間強くなりたいって言ったよな。あれは本気か?戦う覚悟があるか?」
それを聞いた時、迷いや困惑より先に、漠然ともう村はダメかもしれないなって感じた。このタイミングで戦う気があるかの確認をするということはそういうことだろうと。
もとより僕の意思は決まっている。あの日決めた。"もしも"の日が早めにきただけのことなのだ。
普通は取り乱すような状況かもしれないけど、自分の気持ちを思い返すといつの間にか、さっきまでぐるぐるしてたとは思えないほど、瞑想を終えたあとのように心が澄んでいた。さっきの晩ご飯のときとは比べ物にならない重い食卓だけど、僕の口からは言葉がすっとでてきてくれた。
「うん、そうだよ」
「強くなるには数多の苦難を乗り越えねばならない。誰より強くなりたい、大切な人を守りたいというなら尚更だ。もしかしたら途中で死んでしまうかもしれない。だが、それも承知でお前は自らの手で戦い抜くという覚悟があるんだな?」
「、、、あるよ。正直怖いし、痛いのはイヤだけど、もう負けたくない。あんなどこから来たのかも分からない馬の骨にやられてたまるもんかっ!それにまたあんなことがあった時、何もできずに終わりたくないから」
「、、そうか」
「ならアレク、人間と獣人の暮らす城塞都市・マルムークへ行け!」
「うん!!、、うん?」
なんか予想と違う答えが返ってきたな。




