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爪痕は世界に刻まれるー熊獣人の生存闘争ー  作者: 北高乃窪地
第1章・冒険の始まり
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2/11

2.決意表明

 あの事件から二週間。多くの魔獣と魔物の襲来で半壊した村は少しずつ元の形を取り戻しつつあった。ただ以前とは変わっていっていることもある。


 「アレク~その板はこっち持ってきてくれー」

 「はーい!」

 家や畑の修繕もそこそこに、村人総出で魔獣対策を急いでいるのだ。


 「ふう、ふうっ結構きついなこれ。アレクはよくひとりで持てるな」


 「力には自信あるからね。獣人だしこれくらいでへばってられないよ。ほらネッドも休んでないで歩く!」


 「わかってるって!ちょっと持ち直しただけだし!くそう、俺のが年上なんだぞ、あっという間に背も抜かしやがって、、」


「なんかごめん。獣人は成長が早いらしいんだ。その上体の大きな熊だし」


対策には子供もガンガン投入された。大変だけど、ほんの少し前のあの夜を繰り返さないために大人も子供も精力的に働いている。挫いた足は早々に治っており、皆で柵や堀を強化したり、見張り台を立てて監視を強めたりとできる事をやっていった。そしてこんなに急いで対策するのはもう一つ理由がある。それは午前の作業が終わり、昼休憩してたときに起こった。


 「おおーいっ、また来たぞー!!」


 「またかよ、これで何度目だ?」


 「五回目だな。最初は二,三日開けてきてたのに、とうとう昨日今日と連続できやがった」


 「まあ、あの日ほど強くないのが救いだな」


見張りの人の呼ぶ声に、休憩してた大人たちが桑や木の槍などを持って駆けつける。始めは大慌てしていたが、最近は慣れてきて少し億劫そうに向かっている。


 あれから、魔獣が襲ってくることが急増した。魔獣は魔物の影響を受けて狂暴化したり変質した動物や植物のことで、基本的に魔物よりは弱く、姿も大体元となった生き物のままなのだと教えてもらった。あと、植物や虫が変質しても魔"獣"呼びだそう。

 村に来るのはどれも元がウサギや猪とか小型の魔獣ばかりで、柵越しに複数人であたればほとんど被害なく撃退できている。だけど今まで魔獣が人里まで降りてくるのもすごく稀だったらしいし、一度波が引けばまた来ることもそうそうなかったって聞いてる。被害は少ないけど、みんな何かの予兆なんじゃないかって不安がってて、その空気が子供にも伝わり村全体を包んでいる。


「っ、な、なんだよビビらせるんじゃねぇよ、、」

「平気ネッド?少し離れる?」

「いや大丈夫だ、俺はまだ、まだ平気さ」


 魔獣が現れたって知らせを聞いたとたん、傍目にも明らかに肩をびくつかせ辺りを見回すネッドに寄り添い背中を擦る。

 みんなが復興のため精力的に働き表面上は立ち直ったようにみえる村だけど、当然あの夜の爪痕は今も、大人も子供も関係なく苦しめている。ネッドはずいぶんマシな方だ。気丈に振る舞い、積極的に大人の手伝いをしている姿はカッコよくて自慢の友達だ。

 ネッドもあの場にいてあの不気味な魔物の姿を直接見たのだ。その気持ちは痛いくらいわかるし、僕だって夜思い出して震えることがある。それでもこの程度の動揺ですんでるのは、こうしてネッドに寄り添っていたからだろう。そして恐怖を緩和するほど、お父さんとお母さんの姿が目に焼き付き、やつらに二度と好き勝手させてたまるものかという想いが体を駆け巡っているからか。

 こんな特に施設もない田舎の村では病や事故で人が死んでしまうのは珍しくない。だから空元気でも無理やり体を動かして、明日の食い扶持を稼ぐのが辺境での生き方だと村の大人たちが言っていた。だけど今回は被害も大きく、災害が恐ろしい形をもって襲ってきた。元の村を取り戻すまでまだまだ時間がいるようだった。




「ただいま~」

「お帰りアレク、ちゃんとお手伝いしてきた?」

「ちゃんとやってきたよ、それよりお母さん無理はしてない?ちゃんと休んでた?」

「もう大丈夫よ。怪我は治ってるわ」


一日手伝いをして家に帰ると、お母さんが玄関で出迎えてくれた。お母さんは、今はもういつもと同じ服を着てご飯とかを作れるようになってるけど、あの事件で凄い怪我をして大変だった。特に酷かったのは狼の前足が直撃した右腕で、完治した今でも二の腕から手首にかけて大きな爪跡が残っている。


「ほら、早く中入りなさい」

「はーい」


僕の家はなんとか無事だった。畑はぐちゃぐちゃに踏み荒らされてたけど住むところは元の形を保っている。泥とかが付いた手を洗って晩御飯の手伝いをしてるとお父さんが帰ってきてみんなでご飯を食べる。


「ローコさん、子供を連れてこの村から出ていくそうだ。夫を失くして大変だが、魔物がまた来る不安から隣村の両親のところに行くんだと言っていた」


「そう、、寂しくなるわね。ねぇあなた、この村は大丈夫なのかしら?森に何が起こっているのか調査はできないの?」


「明後日に俺も含めた調査隊を出すことになった。それでまずいことが分かるか、もしくは何もわからなければ、ここに住み続けるのは危うくなるな」


「隣村にも大勢を受け入れる余裕なんかないし、十人ずつくらいに分かれて移住先を探すのが関の山かしら。それだって保証はないし、畑を捨てたら食べていくのも難しいし、困ったわね、、」


 食べ始めて少し。いつもは今日一日で起こったことを和やかにおしゃべりしていたのに、今日も二人とも顔を引き締めて今後のことを話していた。

 ここしばらく、ご飯の量が少し減っている。少しお腹がすいててもっと食べたいけど、僕よりお父さんとお母さんのご飯のほうが少なくなってるから何にも言えない。前みたいな楽しい晩ご飯とはいかなくて、やっぱりまだ終わっていなかったんだ、魔物の脅威はまだ去ってないんだと、それを実感すればするだけ魔物に勝てるように強くなりたいと思った。


「ねえ、お父さん。僕に戦い方を教えて。今度は自分の手でみんなを守れるようになりたいんだ」


 二人の話がひと段落ついた頃。僕は思い切ってお父さんに気持ちを打ち明けた。本気だと伝わるよう、できるだけ背筋を伸ばし、唇を引き結び目に力を入れて。

 お母さんは目を見開き何かを言いかけたけど、横を向いてお父さんの言葉を待った。

 お父さんは戦いたいと言った僕の顔をじっと見据え、本心まで見透かされたように感じた黒い瞳を一度閉じたあとゆっくりと頷いた。


「、、いい心がけだ。もちろんいいぞ。だが一つだけ約束しろ。魔獣と戦うのは俺がいいと言ってからだ。少なくとも1年は、たとえ村のなかに魔獣が入ってきても戦わず逃げに徹するんだ」

「っ、そんなに待てないよ!あいつらは今も来てる!それに小さいやつなら今の僕でも勝てるよ!」


 身を乗り出し声を大きくする僕に、お父さんは低く重みのある声でゆっくりと言葉を重ねた。声を荒げたりしなかったけど、その言葉には不思議と逆らう気がなくなるような、冷静になれと言っているような諭す声だった。


「アルクはまだ体が十分に育ってない。()()()()じゃどこかで限界がきて死んでしまうぞ。それに、今無理をして死んでしまうより、大人になって強くなったアレクのほうが多くの命を守れるとおもわないか?」


「うっ、で、でも、、」


「それに知識や精神力もつけておいたほうがいい。ふつうの動植物と魔物の違いとか、知っておいた方が良いことはたくさんある。相手を知れば戦いで有利になる。武術を学べばより強くなれる。訓練は大歓迎だが、実戦はそれからだ」


 冷静に、自分がどれだけ焦っていたか、足りないものはなにかを告げられ二の句が継げない。意味もなく机のお皿やスプーンを見て次の言葉を探す。

 いや、本当は分かってるんだ。子供が一人勇んだところで大して変わらないって。でも魔物と戦いたい気持ちも本物だ。正しくなくったって、もう無視はできないくらいに。

 ちらっとお母さんの腕に目をやる。今回は腕だけだったけど、またやつらと戦った時、もしかしたら腕じゃ済まないかもしれない。その時俺が後ろで庇われてるだけだったらと思うと体の中心が熱くなる。

 それにもう一つ理由がある。僕はあの時動けもしなかった。あの狼が倒されて一段落ついた時、その事に思い至ってすごく悔しかったんだ。

 僕はクマの獣人だ。森で一二を争う種族の特性を受け継いでる自負がある。なのに突然やってきた魔物なんかにいいようにやられてそのままで終わらせられる筈がない。必ず、クマは、僕は魔物より上なんだって分からせてやる!


「、、うん、わかった。ならお父さん、戦ってもよくなるまでにできるだけ僕を強くして!あの時の狼にも負けないくらい、お父さんにも勝てるくらい!」


 それでも、気持ちだけじゃ現実は変わらない。それはあの夜いやというほど思い知った。

 だから再び顔を上げ、わがままに蓋をして譲れない想いをお父さんにぶつけた。


 まさかこんなに強くお願いされるとは予想してなかったのか、今度こそお父さんは目を見開いていた。

 今まで僕は、二人の言うことをよく聞いていたし、そうそうわがままは言ってこなかった。憧れてもいる二人に褒めてもらいたくて、早く一人前になりたくて大人ぶっていた。だからお父さんの驚いた顔を見れて、少しだけ大きくなれた気がして嬉しくなった。


「分かった、その気持ちがあればきっと強くなれるさ。その分キツいぞ?覚悟はできてるんだろうな?」


 目を見開いていたお父さんは、一転してニヤリと口元を歪ませ、挑発的な口調で確認してきた。

 僕のやりたいことを認めてくれたその一言に、僕もようやく顔を緩めて、これからのことに武者震いしながら大きく返事をした。


「うん!」


 その後、訓練はお父さんが調査から帰ってきてからスタートだって決まった。お母さんにも魔物とは戦っちゃダメよと念を押されたけど、訓練は全力で応援してあげるって言ってくれた。その日の夜はずっと毛が逆立って、興奮して大変だった。

 どんなに厳しくても頑張ろう、そう思いながら今日という幕を閉じたのだった。




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