轟魔
爺さん達が壊れた壁から出て行った後1人で帰る訳にもいかないので、エルザちゃんに話しかける。
「エルザちゃん宿まで運んで行こうか? それとも起きあがれるまで待つ? 」
「お姫様抱っこで! 」
そう言って両手を差し出してくる。
ものすごい早さだ。実はもう立てるんじゃないだろうか?
俺が疑問に思っているとクロエが近寄ってきて俺とエルザちゃんの間を腕で遮った。
「あなたもう立てるでしょうが。 自分で立ちなさい。」
「ッチ。」
エルザちゃんは舌打ちして立ち上がり、クロエを睨みつける。
「邪魔しないでくれる? クロエ・アークライト。 さっきまで別の男といたじゃない。そっちに行きなさいよ。」
早くも喧嘩腰だ。 それにクロエも応戦する。
「はぁ? もしかして轟魔の事言っているのかしら。それなら勘違い甚だしいわね。」
「そう? ごめんなさい。 彼氏さんかと思ったわよ。 」
エルザちゃんはニヤッとして言う。
それを聞いたクロエはあたふたと顔を赤くして俺に言い訳を始める。
「な!? 違うのよ、ルディ! アレはただ知り合いってだけだから! ただの知り合いだから! 」
ただ、ただと連呼されている轟魔という人が可哀想になってきた。
「分かったよ、分かったから。 」
俺の言葉を聞いたクロエはホッと胸を撫で下ろした。
そんなクロエを見てエルザちゃんは満面の笑みだ。どうやら今回はエルザちゃんの勝利らしい。
「おい、お前本当に剣聖かよ。 メスの匂いがプンプンすんぞ。 」
俺がエルザちゃんとクロエとのやりとりをゲンナリして見ていると、赤銅色の髪をツンツンとさせた男の子が会話に入り込んだ。
「もう一度行ってみなさい。 ひき肉にしてやるわ。」
クロエは腰にさしている剣に手を当てその男の子に警告する。
だがッフと鼻を鳴らすだけで応えてないようだ。
「メスって‥‥。ッププ 」
エルザちゃんはツボにハマったのか口を押さえて笑っている。
俺はその男の子が誰か知らないので、俺と同じく隣でやりとりを見ていたフランに聞く。
「フランあの子誰かわかる? 」
「知らないんですか? ジルコ・ベイン又の名を轟魔。ベイン子爵家の至宝と呼ばれる神童です。 剣聖と一緒に、ここ10年で最も才能があると持て囃されていたんですよ。 今回のルディの登場に大混乱するでしょうね。フフフ、姉さんが驚く顔が楽しみです。 」
へ〜あの子が3位の‥‥。
笑った後ボソボソと言っていたので全く聞こえなたが大した事じゃないだろう。
俺がジルコを見ていると目があった。
「初めてだな、ルディア・ゾディック。 俺はジルコ・ベイン、轟魔って呼ばれてる。」
「初めましてジルコ。ルディでいいよ。 」
「お前の化け物具合は見ていたぜ。 アホみたいな威力だな外でも色々騒がれてるみたいだぜ? 」
「は? 」
何言ってるのだろうか? この子大丈夫か? 今試験が終わったばかりなのに分かるはずない。
「ああ、俺のちょっとした特技でな。 よく聞こえるのよ。 ほら、また聞こえてきたぞ。
聖魔、破壊童子、天災。今日で2つ名、かなり出来たじゃねーか。よかったな。」
ニヒルと笑みを浮かべながら言ってくるジルコ。
だが、俺から見たら突然耳に手を当て聞こえる‥‥、と電波な事を言い出した痛い子にしか見えない。
「何言ってるんだ? この子。 頭おかしいのか? 」
俺の一言を聞いたみんながガクっとずっこけた。
まだ足に力が入らないらしい。きっとそうだ。
「あ、あのね此奴は音に関する固有スキルを持ってるらしいのよ。 詳細は知らないけどね。 」
それを聞いてポンと手を叩いた。なるほど、という事はさっきの聖魔とか破壊童子とか天災は本当に俺の2つ名か。
初めての2つ名はカッコいいな。
変なのがつかなくてよかった。
転生する前は農民が2つ名みたいなものだったしな。
結構気にしてたんだ。
実は初めての2つ名ではないのだがまだルディは知らない。
「へ〜、凄いな。欲しいくらいだ。 」
「お前に言われたら嫌味だ。 俺はもう行く、学校でな。 」
そう言って立ち去っていく。
俺たちもそろそろ帰るか。門の前には父さんたちも待っているだろうし早く結果が知りたいだろう。
「エルザちゃんそろそろ帰ろう。 クロエ、フラン門の前まで一緒に行かない? 」
「そうだった! 早くお父さんに教えてあげないと! 」
「ええ、そうさせて貰うわ。」
「分かりました。」
そうして俺たちもA会場を後にするのだった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
トコトコと門まで歩いていると父さんたちが見えてくる。
向こうもこちらに気づいたようだ。
「ルディ〜! 」
「坊っちゃま〜! 」
ヴィオラちゃんとアリアが駆け寄ってきた。
「どうだった!? どうだった!? 」
ピョンピョンと跳ね聞いてくる。相当結果が気になるらしい。
アリアも口には出さないが同じようだ。
「全員受かったよ。 」
それを聞いたヴィオラちゃんとアリアはよかった〜と抱き合う。
「ルディ、お前相当やらかしたらしいな。色々聞こえてきたぞ? 」
「エルザ受かったんだね。良かったよ。」
父さんは笑顔だがガルフさんは少し涙ぐんでいる。
それを見たエルザちゃんがガルフさんに抱きついた。
「お父さん、私合格したよ! これでお母さんも戻ってくるよね? 」
エルザちゃんの家庭には色々と問題があるようだ。
地雷を踏まないようにしよう。
「それにしても‥‥。」
そう言って父さんはフランとクロエに視線を巡らせ、ニヤッとからかう表情を作った。
「お前もよくもまあこんな短時間で女の子を引っ掛けて来るとはな。 彼女か? 真剣に試験を受けなさい。」
父さんの爆弾発言を受け、うちの特大核弾頭達が誘爆する。
「‥‥ル、ディ? 」
「‥‥坊っちゃま?」
ヴィオラちゃんとアリアからドス黒いオーラが噴き出す。
ここだけ夜になってしまったかのようだ。
ここはクロエとフランに助けを求めるしかない。
俺は助けを求め振り向くが無駄だったようだ。
「か、彼女なんてまだ早いですよ。でもルディが言うなら‥‥キャッ♡ 」
「そんな‥‥お父様許してくれるかしら?でもルディなら‥‥キャッ♡」
頬を染め、体の前で手をモジモジとして、最終的には両頬に手を当てキャッとクロエ。
顎に手を当て考え込みこれまた最終的にキャッとフラン。
そ、そんなこと言ったら‥‥。
俺はギギギと首を戻すとそこには如来像と不動明王を背負ったヴィオラちゃんとアリアがいた。
どうやら俺は、今日命が尽きるらしい。
「ルディ、宿に帰ったら分かる? 」
「坊っちゃま楽しみにしていてください。」
「‥‥はい。」
両脇を抑えられた俺は連行されていくのだった。
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