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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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8/12

第8話:再出発を記念して?

 それから私たちはローグの街に向かうことにした。今の位置がわからなかったけれど、フィンに地図を見せたら凡その見当は付いたらしく一刻ほどで街道に出た。幸いにもあの男たちの姿はなく、顔を隠したフィンと共に街を目指した。


 彼を街に連れて行くのはリスクがあるけれど、先ずは顔を隠す仮面と服が欲しい。今着ている服は騎士団のものだからこれでは悪目立ちして危険だもの。こんな時、アマーリエさんに相談出来たらよかったのだけど……いえ、彼を王都に連れて行くのはさすがに危険よね。それにアマーリエさんも完全に味方なのかわからないし。親切だけど、掴みどころがない人だったから。


「ところで、その家名で呼ぶの、そろそろ止めてくれないか」


 互いの境遇を話しながら進んでいたら、急にそう言われた。確かに勘当されているのに家名で呼ぶのは変よね。


「そうですね。だったら、エドゥアルド様?」

「いや、今はお尋ね者も同然だし、本名を名乗るのもまずくないか?」


 確かにそうね。だけど、どう呼んだらいいのかしら?


「君の好きなように呼んでくれていい。何なら新しい名前を付けてくれてもいいな」

「新しい名前?」

「ああ、そうだな。あなたが嫌でなければ、互いに名前を付け合わないか?」


 それは思いもしない提案だった。そうね、もう実家から縁を切られたから、その方がいいかもしれない。お祖父様やお祖母様の私を呼ぶ声が甦る。お二人が知ったら悲しまれるかしら? だけどせっかくエドゥアルド様が提案してくださったし、それに……面倒事を押し付ける相手がいなくなった上司が呼び戻そうとするかもしれない。例えば、罪を不問にする代わりに死ぬまでただ働きしろ、とか。嫌だわ、やり兼ねないわね。だったら……


「それは、素敵ですね」


 心機一転、違う名前で新しい人生を生きるわ。お祖父様もお祖母様もきっと反対はなさらないはず。エドゥアルド様の名前……どんな名がいいかしら? 短い方が呼びやすいわよね。平民でもよくある名で……


「……フィン、はどうでしょう?」

「フィン?」


 幾つか浮かんだ名前でも特に印象深く感じたのはこの名前だった。


「ええ、『公正』という意味を持つ名です。今のエドゥアルド様にぴったりかと。平民にも多いですし」

「なるほど、皮肉が利いているところがいいな。誰も俺だとは思わないだろうし」


 どうやら気に入ってくださったようね。よかったわ。


「冤罪が晴れるようにとの願いもありますわ」

「ははっ、そんな日が来るといいな。あなたは……そうだなぁ、ルカ、は変だろうか?」

「ルカ、ですか」


 確か、『光』の意味を持つ名よね。ルカ、ルカ……


「素敵ですね、響きも好みです」

「それはよかった。あなたは私の『光』だからな」

「え?」


 それは、ちょっと大袈裟過ぎではないかしら?


「まぁ、そんな大層な……」

「いやいや、命の恩人だ。行き倒れていたところを拾ってくれた上、この呪いも解いてくれるという、二重の意味でな」


 そう言われるとそうかもしれないけれど……


「ふふっ、では、これからその分を返していただきますわ」

「なかなかに言うな。そういうところも頼もしいが。ではルカ、これからもよろしく頼む」

「ええ。フィン様、頼りにしていますわ」


 武の心得どころか人並みの体力もないし、身を守れるほどの術も使えない。きっと面倒を掛けるわ。って、何かしら? じっと見られているけれど……


「だ~か~ら。様付けはやめてくれ。言葉遣いも平民らしくしよう」

「あ! そ、そうですわね」

「そこはそうだな、だ。危険を減らすためにもこれからは敬語禁止だ。ああ、丁寧な言葉遣いもな」

「ええっ?」


 禁止って。そこまでしなくても……急に砕けた物言いになったわよ。いえ、平民として生きるならそうするのがいいけれど……この人、こんな方だったの? 王都では清廉潔白な騎士だと言われていたはずだけど……


「それで、ローグに行くのはいいが、どうする気だ?」

「まずはフィンの服を揃えたいです。このままでは街に入れませんから。それから宿を取ってゆっくり休みましょう」

「あ、ああ。そう、だな」


 ご自身を見下ろしているけれど、騎士服では正体がばれてしまうかもしれない。服だけでも替えないと。


「それに呪いも。危険なものが含まれているかもしれないから」

「そういうものか。確かに体調が悪化しているのは感じているが」


 やっぱり。これだけの呪いでは不調が出ないわけがないわ。こうして歩いているのも不思議なくらいなのに。よほど耐性があるのね。


「ちなみに、どのような症状が?」

「そうだな、全身が痛むし眠れない。力も落ちたし魔術も使えなくなっている。あと、身体が人ではなくなっている」

「……え?」


 思わず足が止まった。その症状って……それに、身体が人ではないって、どういうこと?


「身体が人ではなくなっているって……どういうことです?」

「指が、変形している」

「変形?」


 聞いたことがないわ、呪いでそんなことが起きるなんて。


「ああ、見た方が早いだろうが……その、気持ちのいいものではないから」

「構いません」


 食事中も手袋を外さないのは肌の文様を隠すためだと思っていたけれど、変形を隠すためだったの? 手袋の中から出てきたのは……


「っ! これは……」


 そこにあったのは、黒々とした爪、しかも獣のように太くて丸みを帯び、鉤状になっている爪だった。無理やり削っているせいか、その先には血がこびり付いている。


「段々伸びてきて、血も通っている。おかげで切るのも一苦労なんだ」

「こんなことが……」


 今までに見た症例にこんなものはなかったわ。ただの呪いじゃないの? だったら早急に解析しないと。


「早く、街に向かいましょう。嫌な予感がします」

「そう、か」

「暫く街に滞在して解析を優先します。いいですか?」

「あ、ああ」


 このまま旅を続けるなんて出来ないわ。まさか、魔獣化している、なんてわけないわよね? 古の禁呪の中にはそういうものもあったらしいけれど、あれは禁忌ですべての資料を破棄したと言われている。まさか……嫌な予感に背筋が冷えて心臓の鼓動が早まった。




 森の下草に阻まれてローグの街に着いたのは既に日も暮れた後だった。ここで宿を探さなきゃいけないのだけど……問題はエド……フィンね。


「まず私が先に入って服を買ってきます。フィンは隠れていてくれますか?」

「そうするしか、ねぇよなぁ。わかった。街の手前の森にいよう」


 彼を置いて行くのは心配だけど先ずは服を買わないと。いえ、宿を先に取った方がいいかしら? ああでも、道具屋が閉まるのは早いのよね。何を優先していいのか迷うわ。こういうことには慣れていないもの。


 迷ったけれど道具屋を優先した。行き交う人に教えてもらった街で一番大きいという道具屋に入る。ここなら色んなサイズの服があるはず。


「すみません、男性の服を一式、いただきたいのですけれど」

「はぁ? 男の服だぁ? なんだ、姉ちゃんの男のか?」

「同行者です。来る途中で川に落ちてずぶ濡れになってしまって」


 ちょっと理由としては苦しいかしら? だけど他が思い浮かばないわ。


「あぁ、そういうことか? 背は? 体格は?」

「え?」

「え、じゃねぇよ。サイズが合わなきゃ着れねぇだろうが」


 そういえば、そうだったわ。自分の時はアマーリエさんが見繕ってくれたから気にもしなかったけれど……


「えっと……背は高くて、肩幅も大きくて……」

「それだけじゃなぁ。もっと具体的でないと。本人は? 濡れただけならここに連れてこりゃいいだろ?」

「そ、それが……あ! あの方。あの方くらいの体格です。大きめでお願いします」


 ちょうど店内にいた大柄な男性がいた。背の高さは同じくらいよね。それに、肩幅も。大きめにしてもらえればなんとなるはず。とりあえず今は何でもいいわ。


「ああ、あいつか。そうだなぁ……」


 あまり乗り気ではなさそうだったけれど、それでも店員は下着一式とシャツ、ズボン、革のベストを出してくれた。手袋とブーツは今、大きなサイズはないという。残念だけどこれだけあれば十分かしら? ああ、顔を隠さなきゃいけないからフードの付いたマントかローブも欲しいわね。あと仮面も……


「フード付きのマントもください。あと、顔を隠すものはありますか?」

「はぁ? 顔?」

「顔に火傷の痕があって……怖がられるから付けているのですが、流されてしまって……」


 うう、胡散臭そうな目で見られているわ。やっぱり怪しいわよね、急に来てこんなことを言うなんて……


「悪ぃがそんなもんはねぇな」


 仕方がないわね。だったらアマーリエさんにもらったスカーフで隠すしかないわね。


「あの、お代は?」

「ああ、銀貨五枚だな」

「五枚?」


 そんなにするの? アマーリエさんのところでは色々揃えても銀貨一枚だったのに?


「何だ、気に入らねぇなら帰ってくれて構わねぇよ」

「……い、いえ、いただきます」


 時間がないから仕方がないわ。今度は他の店も行ってみた方がよさそうね。もらった服を手に宿に向かったけれど、残念ながら満室だった。女将さんの名を出しても、どうしようもないと言われてしまった。仕方がないわ。今夜は野宿かしら。だったら食べ物がほしいわ。


「あの、この辺ですぐに食べられるものを売っている店はありますか?」

「すぐに?」

「ええ。野宿になりそうですが、店で食べるのは避けたくて……」

「はぁ、そうだねぇ……」


 宿屋の女将さんに教えてもらった店に向かった。串に刺した肉や芋、黒パンなどが売っていた。フィンの食べる量がわからないわ。明日の朝の分も欲しいし。思い切って四人分を頼んだ。それを手に森に向かったのだけど……


「よぉ、若い姉ちゃんが森に何の用だ?」


 びくりと身体が跳ねて、足が勝手に立ち竦んだ。身体が強張って、あの夜が脳裏によみがえった。振り返ると三人の男がこちらを見下ろしていた。




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