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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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幸せな一年を積み重ねました

 はらはらと、雪の様に降る華を見上げる。全体が真っ白に覆われた木は青い空によく映え、散る花弁が雪の様に風に舞う。その光景はあの日を思い出させて心を熱くさせた。


「お待たせ」


 後ろからかけられた声に振り返ると、愛おしい夫がゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。さらさらと風に靡く銀の髪が日を浴びて淡い金髪のように見えて私と同じに見える。そんな小さなことも嬉しくて勝手に笑顔になってしまう。


「もう用事は済んだの?」

「ああ。これで終わりだ。さぁ、家に帰るぞ」


 ここは王都の東のとある領地。ここで領主が麦の不作が続いていると報告して早三年、さすがに怪しいと感じた王家が私たちにこの地の視察を願われてやってきたところ。陛下から巡検使の役を仰せつかったのもあって、時々こんな風に依頼がくる。殆どは旅の解呪師を装って領地を見回り、見聞きしたことを報告するだけの簡単なもの。王家の調査を入れるかどうかを決める為のものだから目立つようなことはしない。時々歯がゆく思うこともあるけれど、不正をしている領主を警戒させないためには仕方がないこと。


「ここも思った以上に酷かったな」

「ええ。でも、この前のところよりはマシよ。それでも、早くとは思うけれど」


 麦の収穫量を低く申告して国に収める税を減らし、一方で領民には税を上げて富を独り占めする領主。そんな輩はいくら罰を強くしてもなかなか減らないわ。それでも、地道にこうして調べるしかないのが現状。気付いたのなら早々に調査を入れて民を救ってほしい。


「帰ったらすぐに報告する。そのためにも早く帰らないとな」


 ここから王都までは馬で三日はかかるけれど、旅になれたから苦ではないわ。それにフィンが一緒だから。


「ああ、もうこの花の季節だったな」


 フィンが木を見上げると彼の上にも花が舞い降りていく。美形だから私よりも絵になるわね。胸が熱くなる。


「あれから、一年も経ったんだな」

「ええ、色々あったわね」


 フィンの呪いを解いて、告白されたあの季節がまた巡ってきた。あれから世間は大きく動き、第二王子殿下が失脚して第一王子殿下が正式に立太子して、着実に王位継承の準備が進んでいる。もっとも陛下はまだご健勝だから代替わりはまだ先になる予定だけど。


 第二王子殿下は王子の地位を剥奪された上で毒杯を賜り、その側近や妻の実家の主要な者たちもまた同じ道を辿った。禁忌とされた魔術を使って国を脅かし、兄王子の失脚を狙ったけれどそれは未遂に終わって因果はご自身に返ってきた。同情の余地はない。そのために無関係な人がたくさん不遇に落とされたのだから。


「しかし、ルカが無事でよかった」


 フィンがしみじみとそう告げて一層抱擁が強くなった。それはあの件の術者のことを言っているのね。フィンがあの魔石を砕くと、あの術者と甥は魔力が枯渇して亡くなった。彼らが自身らに掛けた術は大量の魔力を必要とし、それを補うために彼らは魔石を通して魔術師から魔力の供給を受けていた。


 その魔力供給とは、私が以前されていたのと同じ手口で、魔術師の証として拝領したブローチを介して行われていた。あの魔石を砕いた直後、魔力を盗まれていた人たちは一時的に魔力枯渇に陥り、魔術院は大騒ぎになったのだとか。


 その話を聞いた時はぞっとしたわ。もし先生があのブローチと術に気付かなかったら私も同じような目に遭っていたのだから。魔力量が少ない私が枯渇状態になったら、もしかしたら命が危うかったかもしれない。


「先生のお陰ね。それと、フィンと出会ったお陰だわ。そうでなかったら先生の元に行くのはもっと遅れていて間に合わなかったかもしれないもの」


 一人旅なら急ぐ必要はないとのんびり旅をしていたかもしれない。そんな時に魔力枯渇に陥ったら……想像しただけで恐怖しかなかった。


「ああ、俺もだ。ルカに出会えなかったら、死んでいたんだろうな」


 ぎゅっと一層力が籠った腕を私も抱きしめた。想像するのも嫌だけど、そんな未来もあったかもしれない。もうそんなことは起こり得ないけれど。


「ええ、出会えて幸せよ」

「俺も」


 時々、ふと不安に襲われる時がある。あの頃のことを思い出すと尚更に。たくさんの知り合いが処罰されたわ。私の上司も、フィンの上司や第二王子派だった友人知人も。貴族社会は大きく様変わりして第一王子派が勢力を占めている。それでも、ザクサー家の様に中立派の力も失われてはいないけれど。


 実家は第一王子派だったから凋落を免れたけれど、冤罪に遭った私の話を聞きもせずに勘当したことは陛下の心証を損なったようで、第一王子派だった割に王家からは距離を置かれているとか。それは「業突く張り」との異名とも関係しているようで、これ幸いにと父の欲深な言動が表立ったと聞く。いい薬だと思う。これを機に少しは自重してほしいわ。


「さぁ、さっさと王都に戻ろう。そしてザクサーに帰るんだ」

「そうね。あら、魔伝書?」


 ふわりと魔力が近くの一点に集まるのを感じた。魔術で作った手紙のようなものだけど、珍しいわね。一体誰が……


「ルカ、誰からだ?」


 フィンの表情が険しくなる。告白してからわかったのだけど、フィンはかなり嫉妬深くて心配性だ。魔伝書はそれなりの魔力を持つ者しか扱えないから魔術師なのはわかるけれど、私に男性が接触するのを凄く嫌がる。そんなに心配しなくても私なんかに声を掛けてくる男性なんていないのだけど。それに、結婚しているのだから尚更だわ。


「もう、急かさないで。えっと……ロイからだわ」

「ロイ? なんであいつが……」


 もう、ロイにまで嫉妬するのはやめてよね。以前よりも話す機会も増えたけれど彼はそういう対象じゃないのに。


「先生が……腰を痛めて動けなくなったんですって」

「クラウス卿が? またぎっくり腰か? 今度は何をやらかして……」

「地下の書庫から魔術で十冊ほどまとめて持ち出そうとしたみたい。魔力で本を持ち上げたけれど階段で躓いて下敷きになったみたい」

「……魔力の使い方、間違ってないか?」


 フィンは呆れたけれど私もよくやるから何も言えなかったわ。だけど、重いものを動かすときには便利なのよ。フィンみたいに力がある人には無縁でしょうけれど。


「困った御仁だな」

「ええ、籠り切ったまま運動されないから」


 治癒魔術で治せるけれど、多用すると身体が弱くなるからあまりお勧め出来ないのよね。部屋に籠ってばかりで運動をなさらないのもよくないのだけど。気持ちは若いままだけど、身体は年相応に衰えているのに。


「放っておけばいい。ロイの小言は結構利くんだ。クラウス卿にはいい薬だろう」


 どうやらフィンも同じ意見のようね。だけどその通りだわ。少しは運動もして予防もしてほしい。ロイもいるし本邸の使用人もいるから滅多なことはないわよね。


「ああ、ベーニッツの街に寄って行こう」

「ベーニッツに?」

「ああ、今祭りをやっていたはずだ」

「祭り? 行きたいわ」


 巡検使になってよかったことの一つに、いろんな街に行けることがあるけれど、その中でもお祭りはもっとも嬉しいことの一つ。露店を巡って食べ歩きをしたり大道芸を見たりするのは楽しい。フィンが一緒だから尚更に。


「だろう? ここは中継地でもあるから規模も大きいから期待出来るぞ」

「楽しみだわ。去年は祭りの後だったから」


 昨秋、私たちはベーニッツを訪れていた。ここは観光にも力を入れていて近くに温泉地があるのよね。フィンとザクサーでささやかな結婚式をした私たちは、その後先生の計らいでここの温泉宿で二人きりの時間を過ごしたのだけど、ここの祭りは国内でも有数の規模を誇ると後で聞いて凄く残念に思ったのよね。


「ああ、来年は必ず行こうって約束したもんな」

「覚えていてくれたの?」

「ルカのことなら何でも覚えているよ」


 甘い笑顔と声に頬がまた熱を持つ。一年経ったけれどまだ慣れないわ。いえ、以前よりは慣れたと思うけれど。


「あの時泊まった宿も頼んであるんだ」

「本当に? でもいいの? かなり高そうな宿だったわよ」

「国からの報酬があるから構わないよ。それ以外じゃ殆ど金なんか使わないし」


 普段の生活は先生がみてくださっていて、私たちは家賃や生活費の代わりに無報酬で先生の生活や研究の手伝いをしている。だから殆どお金を使うことがないのよね。こうして巡検使として外に出た時や服など身の回りのものを買う程度。国からの報酬も出るからお金は溜まる一方で、いずれ先生がいなくなったら領街に家を買うか借りる予定だからお金を貯めているけれど……これくらいなら構わない、かしら?


「少し早いが、結婚記念日のお祝いだ」

「嬉しい。ふふ、楽しみだわ。ねぇ、今度は私、魔獣肉の串焼きが食べたいわ」


 滞在中に街を散策した時に見つけた露店。あそこで食べた魔獣の串焼きは今まで食べたどんなお肉よりも美味しかった。


「ああ、ベーニッツ特産のあれか。確かに美味かったよなぁ」

「でしょう? 思い出したらお腹が空いてきたわ」

「俺もだ。じゃ、さっさと向かうか」


 フィンの手を借りて馬に乗る。ずっと一緒に旅してきたこの子はフィンの昔の名からルドと名付けた。気が荒いのは変わらないけれどフィンの腕がいいのか相性がいいのか、私たちには従順で懐いてくれている。ルドがゆっくりと歩み出す。この子ならベーニッツまで一日で着くかしら?


 フィンに抱きしめられるようにして馬に揺られる。最初はドキドキして落ち着かなかったこの時間は今ではこれ以上ないほどに安心出来て暖かな気持ちになれる時間。ずっとこうして揺られていてもいいと思えるほど幸せが胸に満ちていく。


「ああ、明日も晴れそうだな」


 山の端に近づきつつある陽が雲を赤く染めていく。それは天が私たちのこれからを祝福しているように見えた。






     【完】




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

最後まで読んでくださってありがとうございました。

ルカとフィンの物語はここで一旦終わりますが、二人の旅はこれからもずっと皆様の胸の中で続いていきます。

明日、フィン視点の番外編にて最後とさせていただきますので、後一日お付き合いください。



最後まで読んでくださってありがとうございました。

ルカとフィンの物語はここで一旦終わりますが、二人の旅はこれからもずっと皆様の胸の中で続いていきます。

明日、フィン視点の番外編にて最後とさせていただきますので、後一日お付き合いください。



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