表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/9

第5話:いきなり前途多難です。生きてる?

 空は青く澄み切って山の端まで雲の姿はなく、風は緩やかに頬を撫でる。仕事と家族を失ってから七日後、私は生まれ育った王都から一歩を踏み出した。


「気を付けていくのよ。何かあったらここに帰っていらっしゃい」


 そう言いながら食べ物が入っているという袋を渡してくれた女将さんと旦那さんに見送られて、私はザクサーに向けて出発した。たった数日前に出会ったばかりの他人にこんなにも親切にしてもらえるなんて。家族との差に胸が疼いた気がしたけれど、帰れる場所があることが嬉しい。


 お祖父様の鞄には形見や着替えを、背負う鞄にはアマーリエさんが餞別にとくれた食器や手袋などの日用品、魔石やランタンや替えの靴などを入れ、更に肩から斜めに下げる鞄には女将さんがくれた今日一日で食べきれるだろうかと思うほどの食料が入っている。結構な荷物だけど地方に行けば行くほど物は手に入らないからと言われたわ。心配してくれる気持ちを無碍にすることなんか出来なかった。


 女将さんが言っていた通り、街道には歩く人の姿が多々見られた。その合間を馬車が行き交う。何のしがらみもない気楽さに足取りまで軽くなる気がするわ。


 何度か休みを入れながら半日あまり歩くと、ずっしりとした疲れに見舞われた。ちょうど森に差し掛かったので木陰で休む。大した距離じゃないはずなのにもう足が棒みたいになっている。ずっと魔術院に籠りっきりだったせいね……水筒の水を流し込み、アマーリエさんに貰った地図を広げた。あとどれくらいあるの? もう歩きたくないのだけど……


 地図を見るとローグはこの森の向こう側で、街道は迂回するように蛇行していた。これ、森を突っ切ったらダメなのかしら。地図がどれだけ正確かわからないけれど、その方がずっと楽そうだけど……


 悩んだ末、森を突っ切ることにした。女将さんは街道から外れるなと言っていたけれど、これくらい大丈夫よね? そんなに深そうには見えないし。そう思っていたのだけど……





「なんで、なんで狼なんているのよ――!!」


 予定より早くローグに着くかも、なんて思っていた私が甘かった。気が付けば狼の群れと鉢合わせて、今、全速力で逃げているところ。荷物が重くて走りにくい。引きこもっていたから体力なんかないのよ! ええい、こうなったら……!


 走りながら魔力を練った。相手は狼だから火の魔術でいいわよね? 練り上げて作った火の玉を狼に向けて投げつけた。のだけど……


「嘘でしょ!?」


 目の前で森が燃え始めた。そのお陰で狼は一目散に逃げて行ったけれど……マズいわ、火事になっている。慌てて水の魔術を展開した。早く消さなきゃ! このままじゃ自分まで燃えてしまう……!!


 どれくらい経ったかしら……火が消えた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。もう、全身ずぶ濡れだし、魔力も尽きて疲労困憊だった。だけど、ここで休むわけにはいかないわ……また狼が戻ってきたら今度こそ食べられてしまう……


 這う這うの体で森を抜けた。既に人影はなく、月明かりが辛うじて周囲を照らすだけ。少し離れた場所に明かりが見える。あれがバシュの町かしら……




 何とか町に辿り着いたけれど、門も閉まっていて中に入れなかった。仕方なくその近くに座り込む。もう一歩も歩けないわ……濡れた服が体温を奪っていくけれど着替えるところもないしその気力もない。失敗したわ。ちゃんと街道を進めばよかった……


「おい、女がいるぞ」


 押し殺した声に意識が浮上した。なけなしの魔力で掛けた結界が反応する。いつの間にか眠っていたらしい。今夜は朝まで寝ずに過ごすつもりだったのに。目を開けて、息を呑んだ。二人分の足が目の前にある。恐る恐る見上げて……男が二人、私を見下ろしていた。一気に頭の中が冷えて、心臓が信じられないくらいに鼓動を速める。失敗したわ、こんな近くに……


「よぉ、姉ちゃん、町に入れなかったのか?」

「ははぁ、よかったら宿を紹介するぞ?」


 親切そうな言葉とは裏腹に、その表情と声は下品極まりなかった。恐怖に冷え切った手足から一層血の気が引いていく……どうしたらいいの? まだ魔力は戻っていない。最悪だわ、どうしたらいいの……あっという間に腕を取られた。い、痛いわ……身を捩ったけれど掴む力はますます増してびくともしない。


「は、放して!」

「そう連れないこと言うなって。仲良くしようぜ」

「ああ。人の親切は素直に受け取っておくものだぞ」


 冗談でしょ? 親切を受けるにしたって相手を選ぶ権利があるわ。そうは思うけれど腕を掴まれて動けない。そのまま引きずる様に連れて行かれて、近くにあった幌付きの荷馬車に放り込まれた。


「痛っ!」


 強かに肩をぶつけて痛みが駆け巡る。痛みに耐える間も男に手首を後ろ手に縛られる。狼の次は人攫いなの? こんなに治安が悪いなんて……いえ、森を突っ切って夜までに町にたどり着けなかった私のせいだけど。恐怖と怒りで震えは起きないけれど、どうしようもないほどの不安に吐き気がしてきた。どうしたらいいの……


 男の姿が消えたと思ったら、荷馬車が動き出した。男たちは御者台の方に行ったようで姿が見えない。どうしよう……幸いなのは荷物も一緒だったこと。と、とにかくこの縄を切らなきゃ。魔力を練って火を熾して縄を焼き切った。たったそれだけのことなのに凄く疲れたわ。まだ魔力が戻っていないから……荷馬車は石で跳ねながら先に向かう。方角はローグの方だけど……


暫くすると近くに森が見えてきた。まだ町は見えない。次にくるのはクルツの村よね。どこで止まるのかわからない。クルツに他の仲間がいたらもう逃げられないかもしれない。だったら……


 ごくりと喉が鳴った。荷馬車から飛び降りる? 怪我をするかもしれないし、最悪死ぬかもしれない。だけど、このままここにいても、どこかに売られて奴隷か娼婦の未来しかない。森が近くにあるわ。飛び降りて森に逃げ込めば逃げ切れるかもしれない。どうする? 時間がないわ。だったら……


 森に最も近づいたと思われる場所までもう少し。緊張で喉が渇くのに手は汗ばんできた。怖いわ、失敗したら大怪我をしてしまうかもしれない……森に逃げてもまた狼に襲われるかもしれない。そもそも逃げ切れる保証なんてない……でも、この男たちにいいようにされるのはもっと嫌だわ。


(今だわ!)


森のすぐ傍に通りかかったところまで来た。荷物を手に馬車から飛び降りた。


「っ!」


 強かに膝を打って痛みが全身へ登っていく。だけど悲鳴を上げることも出来ない。荷物を手に必死で森に駆け込んだ。男たちの怒号が聞こえる。やっぱり気付かれたのね。だけど、止まることは出来ないわ……


 真っ暗な暗闇の中をかける。先日の恐怖が蘇ったけれど、必死に無視してひたすら走る。息が苦しい……膝と肩からじんじんと熱が湧き上がるけれど気にしている暇はない。逃げなきゃ……遠くへ、少しでも遠くへ……


「きゃ!」


 何かに躓いて思いっきり空を飛んだ。手にしていた鞄が鈍い音を立てる。早く立ち上がらなきゃと焦る


 どれくらい走ったのか。もう見当もつかない。凄く長かったようにも思うけれど、自分の体力からして大した距離じゃない気もする。だけど……耳を澄ましても男たちの声も足音も聞こえなくなっていた。


 改めて周囲を見渡す。月明かりがあるはずだけど、木々に遮られて真っ暗だった。それでも幸いというべきか、僅かながら輪郭は見える。もう追ってこない? それとも、足音を消して追ってきている? わからないわ。動くべき? それともここで息を殺してやり過ごした方がいい? 足が、膝が痛いと主張するけれど、傷を見たら動けなくなりそうで見ないふりをした。あれだけ走れたのなら、骨は折れていないはずだから問題ないわ。そう思うことにした。


 動こうにも体力の限界だった。頭は動けと命じるのに身体が動かない。息が整ってくるとからからに乾いた喉が痛みを主張し出した。まだ水はあったはず……鞄から水筒を取り出して僅かに残る水を喉に流し込んだ。それでも喉の渇きは癒えなかったけれど、ないよりはましだったわ。どうしよう……




 なけなしの魔力で認識阻害の結界を張り、低木の茂みで息を潜めた。どれくらいそうしていたかしら……もう色んな意味で限界だった。夢中で走ったからどこにいるのかもわからないわ。かなり森の奥に入ってしまったのではないかしら。来た道を戻るとあの男たちに鉢合わせるかもしれないから、戻ることも出来そうにない。明るくなったら地図で場所を確認しなきゃ。


 暫くその場で息を潜めていると水の音がした。川があるようね。傷口の泥だけでも落とした方がいいかしら。手も洗いたいし。暗いうちなら移動しても気付かれないかしら?


 誘惑に負けてそろりと立ち上がって四方を見渡す。幸いにも人の気配はない。身を低くして水音の方へと向かったのだけど……ざらりとした嫌な感じが近くから漂ってきた。これって……呪いだわ。どうしてこんなところに……しかも、今まで感じたことがないくらいに、強い……嫌な予感が全身を包む。どうしよう……離れた方がいい? だけど、このまま放っておいたら誰かが呪いに巻き込まれるかもしれない……


 様子を見るだけだと思いながら生い茂った下草を掻き分けて進んだ先に、それはあった。地面に黒い物体があって、そこからはこれまでに感じたことのないほどに強い禍々しい気をまき散らしている。あれって……ゆっくり近づくけれど動く気配はなかった。だけど……これって、人、でいいのよね? 男性かしら? 死んでいるの? それともただ気を失っているだけ? 死体なら触れたくないのだけど……


「ねぇ、生きているの?」


 声をかけながら、近くにあった木の枝で突いてみた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ