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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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離れたくない気持ちを確かめ合いました

 フィンの術を完全に解いてから一月が経った。あの日から私の生活はすっかり変わってしまった。朝、朝食のため食堂に行く頃になると、朝の鍛錬を終えたフィンが呼びに来るのが日課になった。しかも、顔を合わせるとすぐに抱きしめられて頭に唇が落ちてくるという恥ずかしい行為付きで、しかも人前だろうと気にしない。何度か恥ずかしいから人前ではやめてとお願いしたけれど、ルカが可愛いから無理とか訳の分からないことを言って有耶無耶にされている。使用人だけでなく先生やフランツ様、ロイの前でもお構いなしで、皆の生暖かい目が居たたまれない……


 それ以外でも用事がなければずっと一緒にいたがるし、別れ際にも何故か抱きしめられて……が付いてくる。その度に恥ずかしくて私の心臓と神経が削られていく気がしている。こんな人だったのかしら? 呪いで性格が変わっていたのかと思い先生に尋ねてみたのだけど……


「健全な一般男子なら普通じゃな」


 そんな一言で誤魔化されてしまった。さすがにそれはないと思う。父だって母とは仲がよかったけれどそんな風にしている姿は見たことがなかったもの。いえ、父とフィンでは性格が全然違うのだけど。


 そして今日、フランツ様がやって来て応接間に呼ばれたわ。その時もやっぱりフィンが迎えに来て手を繋いで部屋に向かい、そこでも隣り合わせで座り手を繋いでいる。幸いというか、ここではそれなりの距離を取ってくれたからホッとしたのは言うまでもない。


「フランツ、どうなったんじゃ」


 使用人がお茶を淹れて部屋の隅に下がると、茶器を手にお茶の香りを楽しみながら先生が尋ねた。今日の爽やかな香りは先生お気に入りのスデン産のお茶のようね。


「はい、残念ながら当事者二人が死亡したため完全な究明は出来ませんでしたが、あの者たちが潜伏していた先を捜索し、多数の証拠品を押さえました」

「そうか。さすがは王家が入ると早いのう」


 今回の件は内々にとはいえ、陛下直々に筆頭魔術師に調査依頼があったという。まさか陛下が出てこられるとは思わなかったけれど、それだけ危険性が高かったと判断されたのでしょうね。実際、あの術式が広がったら大変なことになるもの。


「その証拠品の中から、第二王子派の者だけでなく殿下直筆の手紙が出て参りました」

「やはり関係しておられたか……」

「はい。ご本人は知らぬと主張しておいでですが」


 そうは言っても証拠が出てきたらもう言い逃れは出来ないわ。陛下は厳格なお方だから実子といえど見逃すような方ではないでしょうし。


「まだ調査は続くでしょうが、第二王子殿下の継承権剥奪は免れぬかと」

「そうか」


 先生の声に苦い響きを感じた。先生は両殿下の魔術の師としてお仕えしたことがあったと聞く。幼い頃のお二人をご存じだから胸が痛いでしょうね。幼い頃は仲のいいご兄弟だったそうだし。


「仕方がないとはいえ、後味の悪い結果になったな」

「はい。暫く国は荒れるでしょう」


 先生とフランツ様のやり取りを聞きながら、今後を思う。ここ数年、どちらの王子を支持するかで貴族家は二分していたわ。それは魔術師となって余り外に出なかった私ですら知っていること。先生の様に中立派の家もあるけれど、第二王子派の貴族には打撃は大きく、今後の貴族家の勢力図は大きく変わってくるでしょうね。


「あと、フィン殿とルカ殿のことですが」


 フランツ様がそこで言葉を区切って私たちを見た。先生は私とフィンが冤罪で職と実家を失ったことを陛下に奏上してくださっていた。私たちの上司がどちらも第二王子派で、フィンに至っては直属の上司が今回の主犯格の一人ということで、陛下も重視していると聞いていたけれど……


「お二人が上司によって陥れられたことが証明されました。今回の件では解決に大きく貢献したことも陛下はいたく興味をお持ちになられ、面会をご希望です」

「……え? め、面会、ですか? 陛下と?」


 一気に血の気が引いた気がした。私のような者が陛下と? 


「待ってください! 私、謁見が出来るような立場では……既に貴族籍もありませんし」

「ルカ殿もフィン殿も冤罪だと証明されたのでそこは心配無用です。籍を失った前提が消えたのですから」

「だ、だからって元通りにと言われましても……」


 せっかく実家と縁が切れたと思ったのに戻されてしまうの? フィンに握られた手に力が籠った。振り向くとフィンがこちらを見ていた。フィンは? フィンも実家に戻るの?


「ルカ、俺も戻る気はない。フランツ卿、私もルカも実家に戻る気はありません」

「やはりそう仰いますか。わかりました、私から陛下にお伝えしておきましょう」

「お願いします」


 力強いフィンの態度に不安が少しだけ緩む。だけど、国に、実家に戻れと言われたら抗うのは簡単じゃないわ。先生も口添えしてくださると、望むならザクサーの民として受け入れると仰ってくださって今回の報告は終わった。




 応接室を辞してフィンに導かれるまま向かったのは彼の部屋だった。三人は掛けられそうな大きなソファに座らされると、フィンがお茶を淹れてくれた。私好みのお茶の香りが室内に広がり、少しだけ身体のこわばりが解けた気がしたけれど、心は重いままだった。


「ルカ、不安か?」


 隣に腰を下ろしたフィンが覗き込むようにこちらを見ていた。いつの間にかまた手を取られていた。


「ええ。父のことだから、今回の功績に免じて許してやると言い出すのは確実だと思う」


 あの見栄っ張りで欲深な父のことだから、冤罪で陥れられたけれど事件を解決した立役者として私を利用するのは目に見えているわ。それこそ悲劇の主人公のように話を盛って大々的に吹聴する姿だって目に見えるよう。私が拒否しても貴族籍が戻れば抵抗するのも簡単じゃない。それが貴族だもの。


「嫌だわ、私、戻りたくない。戻ったらきっと父が決めた相手と婚姻させられるもの」


 以前の私は魔力量が少なかったせいで政略結婚の駒としても使えないと嘲笑されていた。だけど、呪われたフィンを解呪し、妖精眼だと知られたら利用価値は格段に上がるわ。妖精眼はまだ伏せられているはずだけど、あの場で誰かが気付いた可能性もあるし……


「わかった。ルカが望むなら俺も出来るだけのことはする」

「でも、フィンも同じでしょう? そう言えば、フィンはどうするの? 家に戻るの?」


 一生共にいると、もう離れないと言ってくれたから、実家には戻らないと思っていたけれど……そう言えばフィンからそうだと言われたことはなかったわね。


「実は、実家から手紙が来ていたんだ」

「実家から?」


 知らなかったわ。だけど、フィンがここにいることは知られているのだから手紙が来てもおかしくないわよね。父からは来ていないけれど。


「ご実家は、なんて……」

「上の兄上は戻って来いと、父上を説得したからもう大丈夫だと言ってくれている」

「……戻るの?」


 当主が認めれば戻ることは可能だわ。しかもフィンの場合、被害者だったことは証明されているのだから。


「いや、戻る気はないよ」

「でも……」

「上の兄上は俺がそんなことをするはずがないと、父上に言ってくれていたんだ。勘当するにしてもちゃんと調べてからにするべきだと」


 上のお兄様がそんなことを? だったらどうして……


「けど、下の兄上が、どうやらあることないこと父上に吹き込んでいたらしい」

「ええっ? その方って、フィンの実のお兄様よね?」

「ああ」

「だったら、どうしてそんなことを……」


 実弟が逃亡犯とされたら家の名誉にかかわってくるわ。普通ならそこは必死に罪がないと調べるものだけど……


「詳しくは知らないが、下の兄上は俺が気に入らなかったらしい」

「気に入らないって……でも、フィンはもう家を出ていたのでしょう?」

「ああ。だが、それが気に入らなかったらしい」


 どういうことかと困惑する私にフィンはご兄弟の事情を教えてくれた。フィンの上のお兄様はいずれ当主となり、下のお兄様は兄に何かあった時の代わりとして、何もなくても兄の補佐としての人生が定められていた。一方で三男のフィンには兄の代わりになる必要もなかったため、早々に騎士になると決めて家を出ていたのだけど、下のお兄様は自由に自分の道を決めることが出来たフィンに嫉妬していたのだと言う。


 フィンが手紙を私に渡した。読んでいいの? 見上げると頷かれたので文字を追った。それはフィンの上のお兄様からの手紙で、今話してくれたのと同じことが記されていた。


「でも、実家の庇護なしに暮らす方がずっと大変じゃないの?」

「ああ、そうなんだが、兄上は王宮に勤めたかったらしい。昔から王都や華やかなものが好きだったから、このまま領地で一生を終えたくなかったんだろうな」


 寂しそうにフィンが笑ったけれど……だったらお父様に掛け合ってお願いしてみればよかったでしょうに。


「まぁ、兄上は華やかなものに憧れても、努力はしない人だったからな」


 それは……どうしようもないわね。努力もせず口だけでは誰も認めてなんかくれないわ。


「まぁ、そういうわけで、俺は家に戻る気はないんだ。下の兄上は勘当されて領地で幽閉だそうだ。そうなると俺に家に戻って兄上を支えろと言うだろう。だが、今更家に戻る気はない。そのつもりで騎士になったんだから」


 フィンの実家も複雑だったのね。だけど、その言葉を聞いて少しだけ気が楽になった。フィンが私の手を口元に運び、甲に唇を当てた。また、そういうことを……!


「安心した?」

「……うん」


 フィンの気持ちがわかって心の重さは減ったけれど、それでも父の動きを止めるのは簡単じゃないわ。だけど、こうして気遣ってくれる気持ちが嬉しくて泣きたくなる。


「離れたくない」

「ルカがそう願うのなら、俺が何とかする」


 力強く請け負う言葉に希望を感じた。私もしっかりしなきゃ。もう父に振り回される人生なんかまっぴらだもの。フィンとの未来を手に入れるためなら何だってするわ。




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