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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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第34話:袋小路から抜け出せません

 それから再びお祖父様の書物との格闘が始まった。既に内容はわかっているから一度目に比べると格段に楽だけど、今度はその中からあの術式に関わる「何か」を探さなければいけない。簡単そうにも思えたけれど、それは思った以上に厄介で難しい問題だった。


「見つかりませんね……」

「うむ……」


 一月あまりで一通り見直しが出来たけれど、何の手掛かりも得られなかった。悔しさに泣けてくるけれどそれで状況が変わるわけじゃないもの。フィンのためならどんなことだってやり遂げるつもりだもの。


「そうそう、クラウスから第一王子にこの件は奏上して、今殿下が捜査を始めてくださっている」

「第一王子殿下が?」


 出てきた名前に驚きしかなかった。王族が、第一王子殿下がこの件に? 


「前に言ったじゃろ。この件には両王子が絡んでいると。フィン殿はギレスベルガー家の出、家人の罪は家名に関わり、それは派閥の評判にも繋がるんじゃ。そうじゃなぁ、フィン殿?」

「そう、ですね。勘当されたのもそのためですから」


 フィンの口調に悔しさが滲んでいた。そう言えば私もそれで勘当されたのだったわ。


「ああ、フェルザー伯爵じゃが、あの後第一王子に呪いの可能性を奏上したそうじゃ」

「そうですか……」


 あの父のこと、先生の名は出さずに自分の手柄にしたんじゃないかしら? もしそうならフランツ様にお願いして真相を殿下に話していただこうかしら。


「わしからの助言じゃと話したそうじゃぞ」

「父が?」


 信じられないわ、あの父が? 人の手柄を自分のものにするのに躊躇しないあの父が?


「さすがにクラウス卿の手柄にはしないだろう。殿下は卑怯なことがお嫌いな方、もしばれたら不興を買うことになる」

「そういうことじゃ。伯爵はその辺りの鼻が利くからな」


 なるほど、相手を見て態度を変える父らしいわ。でも、これで呪われた獣の件は解決するかしら? 浄化魔術が使える魔術師は多いし、私程度の魔力量でも効果があったのだから。


「殿下が動かれたのなら魔獣騒ぎは収まるじゃろ。後はフィン殿じゃな」


 先生の視線がフィンに向かう。そう、後はフィンの呪いを解くだけ。言葉にすると簡単だけど最後の一つが見つからない。


「先生、フィンに術を掛けた者を、捕まえることは出来ないのでしょうか……」


 一番確実なのは術を掛けた本人に解呪させること。とはいってもこんな悪質な術を掛けた相手が解呪するとは思えないけれど、尋問するなり部屋を探すなりすれば何らかの手掛かりが得られるかもしれない。


「うむ、確かにアレッサの言う通りじゃな。一番手っ取り早いのは呪いをかけた張本人を捕らえて解呪させることじゃ。もっとも、そう簡単に従うとは思えんがな」

「そうですよね……」

「殿下にはザックスの甥の件も含めて報告してある。あの男の叔父の研究を引き継いだ者がいる可能性も含めてじゃ」


 そうなの? だったら見つけ出せる可能性があるかしら。殿下が指揮を執られるのなら騎士も魔術師も動くもの。


「王家のことじゃ、フィン殿に呪いをかけた者も追っているじゃろう。もっともそんなことをする危険な奴じゃ。気を付けねば他にも犠牲者が出るやもしれん。捕らえるのは中々に骨が折れるじゃろうて」


 希望が見えた気がしたけれど、それを上回る不安が下りてきた。そうだわ、捕らえようとしたら呪われてフィンと同じようなことになったら厄介よね。この呪いを掛けるのはかなり手間がかかるけれど、どこかに術式を組んで仕掛けておけばその手間は省ける。術式が視える魔術師が同行しないと危険だけど……


「見つかったら連絡をくださるよう、殿下にはお願いしてあるからそっちは心配無用じゃ。じゃあ、わしらはロルトの研究を調べるぞ」

「その前に先生、お食事をなさってください」


 返事をしようとしたら先に別の声が飛び込んできた。声の主はロイで、いつも以上に険しい表情だった。食事……そう言えば、朝食べたきりだったわ。今って……


「もうお昼を過ぎて夕刻に近いんです。何度もお呼びしたのに……」

「おお、すまんすまん。夢中になるとつい……」

「ついではありません。昨日もろくに食べなかったし、湯浴みもせず、寝るのも遅かったじゃないですか」

「そうです。クラウス卿もルカも、今日はもう研究禁止、この部屋への立ち入りも禁止です」


 フィンまでロイに同調しているわ。私にはちっとも懐かないのにフィンとは随分打ち解けて、最近は私よりもフィンと一緒にいる時間が長い。


「さぁさぁ、お二人とも、この部屋から出てください」

「いや、しかし、フィン殿……」

「食事を最低でも二回取る、湯浴みをする、ちゃんと寝台で眠る。破ったら研究禁止と約束したではありませんか」


 先生が抵抗を試みたけれど、ロイに論破されてしまった。そうね、約束したわ。したけど……


「じゃがフィン殿の命が……」

「その前に二人が倒れたのでは意味がありません。ほら、早く出てください。先ずは食堂です。とっくに準備は出来ていますから」


 背中を押すようにして書斎を追い出されてしまった。背を押すフィンの大きな手の温かさに馬で旅した時の記憶が蘇って頬が熱くなる。嫌だわ、何を思い出しているのよ……


 その後は四人で食事を取り、部屋へ連れて行かれた。そんなことしなくても書斎には鍵がかけられて入れないのだから逃げ出したりしないのに。そうは思うのだけど、フィンの傍にいられるだけで胸が勝手に跳ねて落ち着かない。没頭してしまえばフィンのことを考えなくて済む、それが救いだわ。その先にあるのが別れだとしても、呪いでフィンを失うよりはずっといい。彼には幸せになってほしいもの。




 そんなやり取りを繰り返しながら、それからもお祖父様の研究を調べる日が続いた。


「アレッサ、この術式じゃが筆頭魔術師にも解析を頼んでみる」

「先生? でも、大丈夫ですか? それで第二王子派に気付かれたりしたら……」


 私たちで進めていたのはこの件が第二王子派に知られることを恐れてのこと。そうなれば余計な危険を招くからと仰ったのは先生だったのに。


「それなら心配無用じゃ。あ奴はロイの爺じゃからな」

「は?」

「え?」


 傍で細かい雑用をしてくれていたフィンと声が重なった。驚いている横顔もかっこいいわ。最近は外に出ないからと髭を剃っているから。って、そうじゃなくて……


「ロイ、そうだったのか?」


 フィンが尋ねるとロイが無表情のまま頷いた。じゃ、本当に……知らなかったわ。てっきり視えることで親族に疎まれた子かと思っていたから。


「ロイの特性のせいで王都での生活は厳しくてな。それでわしが預かっていたんじゃ」

「そうだったのですか」


 仲がいいフィンも詳しい事情までは知らなかったのね。特性って何かしら? やっぱり視えること? でも、そこに踏み込むのは失礼よね。


「そういうわけじゃから、筆頭魔術師は信用出来る。あ奴は孫馬鹿じゃからな」


 そう言って先生が笑ったけれど、そんな出自を持っていたなんて。でも、筆頭魔術師の孫なら魔術に対しての特性を持っていてもおかしくないわよね。魔力量は遺伝するというし、魔術師の家系からは魔術師が出やすいもの。


 それに、筆頭魔術師が手伝ってくださるのなら心強いわ。今の筆頭は先生の後任の方で、王家の血を引く公爵家出身の方。王家との繋がりは強いけれど政治とは一線引かれていると聞く。お会いしたことはないけれど、先生とは違う意味で破天荒な方で従来の考えに固執せず自由な発想をされる方だと噂されている。そんな方ならこの馬鹿馬鹿しい呪いの突破口を見つけてくださるかもしれない。新しい可能性に落ち込みつつあった心が浮上した。




 それからも地味な作業が続き日々を送った。出来る限り食事を取り、湯あみもして寝台で眠ったけれど、日を追うごとに進まない解呪に心は焦れて不安がまた育っていく。鬱々とフィンを失うかもしれない恐怖に苛まれている中、ある知らせが届いた。それは王都に来てから二月が経ち、季節は初夏へと移ろっていた頃だった。


「フィン殿に呪いをかけたと思われる者の所在が見つかったそうじゃ」

「見つかった!? 本当ですか?」


 その吉報に沈み込んでいた心が一気に跳ねあがった。フィンも、そしてロイも珍しくその知らせに驚きを見せていた。本当なの? 簡単じゃないと思っていたから俄かには信じがたいわ。だけど、先生がゆっくりと頷くと、一気に歓喜が胸を占めた。その術者を捕まえることが出来れば、この厄介な術式の謎がわかってフィンの呪いが解けるかもしれない。





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