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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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第30話:急ぎ王都へ向かうことになりましたが…

 見慣れない道具は物凄く細かい術式がこれでもかと刻まれていた。初めて見るわ、こんな魔道具があるのね。一体何に使うものなのかしら……


「クラウス卿、それは一体……」

「ふぉっふぉ、これは転移魔術の鍵じゃ」

「転移魔術!?」


 フィンの声に私のそれが重なっていた。そのことになんだか動揺してしまったけれど、今はそれよりも……


「……本当に、存在していたのですね」

「ルカ、知っていたのか?」

「噂は、聞いていました。でも、実際に使ったところも、使ったという話も……」


 魔術院に昔からある与太話だと思っていたけれど、本当にあったのね。


「まぁ、一応機密事項じゃからな。膨大な魔力がいるから使える者も限られている。十人いるかどうか」


 だったら私が知るわけがないわ。どう頑張っても使えないし、十人もいないってことはよっぽどの魔力量がないと出来ないってことだもの。


「これを使えば王都の屋敷まで一瞬じゃ。あっちには連絡してある。さぁ、行くぞ」


 思い立ったら直ぐ動かれるのが先生だから、こうなったら行かないわけにもいかないわね。直ぐに部屋に戻って荷物を鞄に詰め込んだ。荷物が多いと先生に負担がかかるかしら? そう思ったのだけど……


「これで全部か? あの馬はどうする? 連れて行かんのか?」

「先生、さすがにそんなには……」

「構わん。よく懐いていたじゃろ。向こうで足が必要になることもあるやもしれんしな」


 大丈夫なのですか、先生……正直不安はあったものの先生がそう仰るのに否とも言えず、馬も転移魔術で王都に戻ることになった。


「おい、ルカ、大丈夫なのか?」


 フィンが小声で尋ねてきた。その距離の近さに心臓が跳ねるけれど気づかれないように平常心を装う。彼の不安は理解出来るわ。私も心配しかないもの。


「一人でも大変だと聞いたけれど……」

「じゃ……」

「でも、先生は一度言い出したら聞かない方だから……」


 困ったことに先生はこうと決めたらやるまで諦めないし、言って出来なかったこともなかった。だから自信がおありなのでしょうけれど、不安になるわよね。


「……そうか」


 フィンの眉間に皺が出来た。初めて見る表情だわ。私だったら不細工にしか見えないけれど、フィンだと絵になるのね。美形って凄い……呪いを早く解きたいのに、今は相反する思いが忍び込んできて、そんな自分が嫌になる……


「ロイも行くじゃろ?」

「……」


 声を掛けられたのは先生の荷造りをしていた少年だった。普段から無口で不愛想に見えるけれど、今は明らかに口の端が下がっていた。先生を慕っているのは彼の行動を見ていると一目瞭然だから付いていくと思っていたけれど、王都には行きたくないってことかしら?


「嫌なら無理にとは言わん。ここを守ってくれ」

「行きます」


 不機嫌そうに見えるけれど目は先生に縋るような色が見えた。辺境伯家に縁のある子なのだろうと思っていたけれど、個人的なことを聞くのも憚られて詳しいことは知らない。魔術を視ることが出来るようだけど、もしかして……妖精眼の持ち主なのかしら?


「無理はせんでいいぞ」

「大丈夫です」


 強い決意が感じられて、王都に何かがあるのが伝わってきた。先生が目を細めて無理はするなと仰いながら頭を撫でると表情が緩んだ。本当に先生がお好きなのね。





 結局、それから一刻もしないうちに私たちは王都にあるザクサー辺境伯家の屋敷に移った。本当にあっという間だったわ。術のせいかちょっと気持ち悪くなったけれど、馬も含めて先生とロイ、フィンと私が辺境伯家の一室にいた。


「叔父上、馬まで連れて来るとは聞いていませんでしたが」


 視界がはっきりしてくると、目の前に父と同じくらいの年齢の男性がしかめ面でこちらを睨んでいた。


「そうじゃったか? いやはや、年を取ると忘れっぽくなっていかんのう」

「誤魔化さないでください。わざとなのはわかっていますから」


 先生の言い訳を一刀両断したけれど、そこには呆れと親しみが見えた。


「ところで、こちらの二人は? しかも馬まで送って来るとは……」


 呆れが多大に含まれた視線が向けられる。叔父上って呼ばれていたわよね? だったらこの方……


「おお、ルカとフィン、わしの甥でザクサーの当主じゃ。フランツ、こっちはルカとフィンじゃ」


 やっぱり辺境伯だったのね。髪色や目の色が似ているわ。でも雰囲気はまるっきり正反対ね。生真面目で厳しそう。


「現ザクサー辺境伯家の当主フランツだ。叔父上の客人とあらば歓迎しよう」

「フィンと申します」

「ルカです。よろしくお願いいたします」


 ロイは先生のローブを掴んだまま隠れて何も言わないので、私たちだけでもと思い挨拶をした。歓迎してくださるのなら有難いわ。邪険にされるかもしれないと思ったから。


「それにしても、また毛色の変わった者を連れていますね」

「心配無用じゃ。決してわしらを裏切ることはない。身元も確かじゃ」

「叔父上がそう仰るのなら信じましょう。ですが、厄介事を巻き込まないでくださいよ」

「ふぉふぉふぉ、固い奴よなぁ。まぁ、立ち話も何じゃ。茶を頼む」

「はいはい」


 仲が悪そうに見えたけれどそういうわけでもなさそうね。フランツ様が後ろに控える使用人に客間に茶の用意を、別の使用人に馬を厩舎に連れて行くよう命じた。屋敷の中に馬が入り込んで大丈夫だったかしら? そう思ったけれど部屋を出て悟ったわ。ここは魔術移転用のために造られた小さな建物で、扉の向こうには広々とした庭が広がっていた。そのまま本邸ではなく別邸へと案内された。


「ここはわしが使っている別邸じゃ。こっちの方が気楽でよかろう?」

「ありがとうございます。助かります」


 フィンの表情が柔らかくなっていた。フランツ様と知り合いなのか挨拶の時声が強張っているように感じた。幸い前髪や髭で気付かれなかったようだけど、ちゃんと話した方がいいのかしら? フィンのことがどう広がっているのかも知りたい。元の地位に戻るのならこれ以上瑕疵が付かないよう慎重に動いた方がいいわよね。


「さて、何から話そうかのう」


 案内されたのは応接室で、先生とフランツ様が二人掛けのソファに並び、その向かい側に私たちが座った。貴族服のお二人に対して平民の冒険者風の恰好に申し訳なさが増す。


「それで叔父上、このお二人は?」

「ああ、ギレスベルガー家のエドゥアルド殿と、わしの弟子だったフェルザー伯爵家のアレッサじゃ」

「クラウス卿!?」


 焦った様子で先生を呼んだフィンに、フランツ様が目を丸くして私たちを見ていた。先生、言っていいのですか……いえ、私も話べきかと考えましたけれど。


「ふぉふぉふぉ、隠してもどうせフランツは調べるからのう。だったら最初に話した方が話は早かろうて」

「叔父上、よくお分かりで」


 戸惑っていたフランツ様も小さくため息をつくと元の厳しい表情に戻っていた。呆れているようにも見えるけれど先生のことをよく理解していらっしゃるのね。仲がよさそうなお二人が微笑ましくも羨ましく思えた。


 そこからは先生がこれまでの経緯を話し、フランツ様が質問を返す形で話が進んだ。私とフィンは時々フランツ様からの質問に答えるだけだったけれど……


「まさかエドゥアルド卿の逃亡の原因が……呪いだったとは……」


 最初はフランツ様も信じられないようで手厳しい質問が飛んできたけれど、それに一つ一つフィンが答えていくと困惑が増していき、最後には唸りながら眉間の皺を深めていた。先生が呪いの概要を話せば信じないわけにもいかなかったようで、腕を組んで考え込まれてしまったわ。だけど、こんな悪意に満ちた話、しかも呪いとなれば信じ難く思えても仕方がない。魔術を視ることが出来るならまだしも、一般の方ではわからないもの。


「それだけではないんじゃ。根はさらに深い」

「どういうことです?」


 フランツ様の目に警戒心が増した。


「フィン殿の呪いは、かつて闇に葬られた禁忌の魔術が使われているんじゃ」

「闇にとは……まさか」

「そう、そのまさかじゃ」


 フランツ様の茶器を持つ手が止まり、室内の空気が一層張り詰めた。




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