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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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第28話:眠れない夜に不安が増していきます

 部屋に戻ると真っ直ぐに寝台に向かった。ずっと集中していたし、解呪もしたせいか凄く疲れた。そのまま転がり、枕を抱きしめて目を瞑った。目に魔力を集めて視ていたせいかその辺りが痛む。思わずため息が出た。今度こそ全部解呪出来ると思っていたのに、そうしたかったのに出来なかった。その事実が胸に重く圧し掛かる……


 それにしても……呪いが解けたフィンは一段とかっこよくなっていた。思い返してもあの銀髪は羨ましいほど綺麗だったし、瞳も明るすぎず暗すぎない綺麗な紫色。きっと髪を切って髭を剃ったらとんでもなく素敵になるわよね。嫌だわ、私ったら。人間見た目じゃないと思っていたし、今だってそう思っているけれど……面食いだったのね。そんな自分に驚いた。


 ううん、顔だけじゃない。フィンは優しくて気遣いも出来て、騎士としても一流ですごく強い。きっと本来の姿が知られたら絶対女性が群がってくるわ。その光景が頭に浮かんだら一層気が重くなった……


 ふいに昨日の会話が甦った。呪いを解いたらどうするのかとフィンに聞かれて、家には帰らないと、この先も旅を続けるか先生の手伝いをすると答えた。今更家に、魔術院に戻りたくない。それは私の紛うことなき本心。戻ったことを考えるだけで息が出来なくなりそうだから。でも……


「一緒に行こうとは、言ってくれなかったわね……」


 もしかしたら、俺も一緒に行くと、これからも一緒に旅を続けようと言ってくれるんじゃないかと思っていた。相棒だと言ってくれたから、これからも一緒にいられるかもしれないと。だけど、先が期待出来る言葉は何もなかった。きっと、それが答えなのでしょうね。


 彼には帰る場所があって、冤罪さえ晴れれば華々しい舞台に戻れるはず。呪いに掛かっていたことは先生が証明してくださるし、しかもその呪いが禁忌とされるものとなれば騎士団が大々的に調査を行うはず。彼は由緒正しい侯爵家の出だから、実家だってそうなれば彼の無実を明らかにすべく動き出すわ。禁忌の呪いなど国を揺るがす一大事だから厳正な調査が行われるのは間違いなく、そうなれば彼が被害者だってことも明らかになる。


 深くため息をついて窓に背を向けた。明るい日差しが何となく気に障るのは、きっと目を使いすぎて疲れているせいよね。帰る場所がない私とは違うもの……




 気が付いたら窓からは黄色味を帯びた光が差し込んでいた。いつの間にか眠っていたらしい。ずっと強行軍だったから疲れていたみたいね。先生が仰った通りだわ。気を付けないと……そろそろ夕食の頃合いかと思い、フィンの部屋を訪ねた。扉を叩いても返事がなかった。部屋にいないの? 階下に降りてロイに聞いてみたけれど見ていないという。だったら眠っているのかしら? もう一度部屋に戻って呼びかけたけれど返事がない。


「フィン? 入るわよ?」


 さっきの先生の言葉が気になって断りを入れてから扉を押すと難なく開いた。


「フィン? いる?」


 声を掛けながら奥へ進んだ。姿が見えないから寝台かしら? 奥へ進むと寝台に見覚えのある服を着た人物が背を向けていた。眠っているの? 珍しいわね、いつも呼びかけるとすぐに目を覚ましていたのに。いえ、あれは呪いでよく眠れていなかっただけかもしれないけれど。


「フィン?」


 大きな背中に声をかけるけれど返事がない。そんなに深く眠っているの? 肩をゆすると仰向けになった。前髪が流れて顔が露になる。目を瞑っているけれど、眠っているけれど、それでもかっこいい……いえ、今はそうじゃなくて……


「フィン? 夕飯の時間よ。そろそろ起きて……」


 声をかけている間も眉間に深い皺が刻まれていた。息が荒く苦しそうに見える。額に手を当てて……血の気が引いた。


「フィン! ま、待っていてね。今先生を呼んでくるから!」


 軽く触っただけでもかなりの熱が出ているのが分かった。先生が仰っていた通りだわ、フィンの方がずっと無理をしていたもの。


「先生! フィンが……フィンが熱を!」

「なんじゃ、言った傍からとはのう」


 先生が目を瞬かせながらのんびりした口調でそう仰ったけれど、私は生きた心地がしなかった。




 それからフィンの熱は三日経っても下がらなかった。意識も朦朧として水分を取るのもままならないほどで、私は付きっきりで看病をした。


「フィン? 薬湯よ。飲めそう?」


 熱で朦朧としているフィンに声をかける。水を飲ませるのもままならないから、苦い薬湯を飲ませるのも簡単じゃない。でも、最低でも水分を取らなきゃ弱ってしまうわ。


「……ル、カ?」

「フィン、私がわかる? 薬湯よ」

「……い、らな……」


 意識がはっきりしていないようだけど薬湯は嫌がるのよね。いえ、気持ちはわかるわ。とても苦いから。


「じゃぁ、水なら飲める?」

「あ、あ……」


 返事をしているけれど、どこまでわかっているのかしら。それでも口元にコップを持って行くと飲もうとするから意識はあるのよね。起き上がった身体を支えてゆっくり飲ませる。水は飲んでくれたけれど、それだけじゃ身体が弱ってしまう。一口でもいいから薬湯を飲んでほしいのだけど……





「どうじゃな?」


 再び眠ってしまったところに先生が様子を見に来てくださった。


「まだ、熱が下がらなくて……これも呪いのせいでしょうか?」


 もう四日目だけど熱が下がる気配がない。呪いが残っている身体にはかなりの負担になっているはず……この熱だってもしかしたら呪いのせいかもしれない。


「一気に呪いが解けたから、その反動かもしれんな」

「そういうものなのですか?」

「どうじゃろ、こんな事例はわしも初めてじゃからな。だが、まだ若いし体力もある。滅多なことはないじゃろうて」


 先生は深刻に受け止めていらっしゃらないけれど、あんなにたくさんの呪いに抗っていたのなら身体には相当負担があったはず。もしかしたら今だって痛みがあるのかもしれない。フィンは我慢強そうだから平気そうに見せていただけかもしれないし、呪いは今この瞬間も確実に身体を蝕んでいる。このまま目覚めない、なんてことはないわよね?


「ルカ、お前さんこそ少し休め。目の下の隈が凄いことになっているぞ」

「私は大丈夫です。魔術院でも徹夜はいつもの事でしたから」

「それはそれで問題なんじゃが……」


 先生に重ねて休むよういわれたけれど、フィンが苦しんでいるのに眠ってなんかいられなかった。それにこの熱が呪いの可能性だってある。治癒魔術を掛けたいけれど、呪いにどう影響するかわからないから意識が戻らないとそれも難しいし、目を離している隙に何かあったらと思うと怖くて傍を離れられない。


「フィン、早く元気になって……」


 祈るように乞うようにその手を取って祈る。することもないから呪いの術式の解析を試みる。何か見落としがないか、隠されているものがないか繰り返したけれど、残念ながら新しい手掛かりは見つけられなかった。先生も書庫に籠って文献を確かめてくださっているみたいだけど、今のところ有力な情報は得られなかった。古代文字だと思っていたけれど、そうじゃなかった? 術式は専用の言語を使うのが一般的で、それは遡ると古代文字へと繋がると言われている。でも、古代文字は今の言語との相違が大きいらしく、読み解くのは簡単じゃないと聞く。


 お祖父様も研究されていたけれど、その内容は実家に……いえ、終の棲家とされた王都外れの別邸かしら? お祖父様が亡くなった時、私は既に先生の元で修業をしていたから、その後お祖父様の研究がどうなったか知らないのよね。父が残しているのならいいのだけど……一度領地に行ってみる? でも、父に見つかったら厄介よね。既に警戒して近づけないかもしれないし……どうしたらいいの? このままフィンが弱っていくのをただ見ているだけなんて、耐えられない……


「……ル、カ?」

「フィン? 気分はどう? どこか痛いところはない?」

「大、じょ、ぶだ。それより、ど、した……?」


 こんな時なのに私の心配をしてくれるの?


「どうもしないわ。早くフィンの熱が下がりますようにと祈っていたの。祈っている間に呪いをかけた人に腹が立っちゃって……」

「そ、か……」


 嬉しいけれどその優しさに一層胸が痛んだ。こんなに優しい人がどうしてこんな理不尽な目に遭わなきゃいけないの? 絶対に呪いを解いてみせるわ。こうなったらお祖父様の別邸を訪ねてみようかしら。顔見知りの使用人が残っているなら忍び込めるかもしれない。先生に相談してみようかしら? 先生の名を出せば父も拒まないでしょうし、もしかしたらお祖父様の残した資料を見ることも出来るかもしれない。あんな父だけど権威には弱いから。


 手掛かりになりそうなことが出来て少しだけ気が楽になった。夕食の時にでも先生に話してみよう。今はどんな小さなことでも手掛かりがほしいから……





「アリー、古代文字というものは、実はな……」


 懐かしい声に心が温かくなった。お祖父様の少し掠れた優しい声。いつも私を膝に乗せて本を読んでいたお祖父様。私も古代文字の研究をしたいと言ったらとても喜んでくださった。結局父の意向で魔術師になる道しかなかったけれど、今ならそれも適うかしら……その先は何を言おうとしたの? すごく気になるのだけど……それにしても、温かいわね。いえ、暑いくらいだわ。それに、なんだか身動きが出来ないのだけど……


「……ひぇっ!?」


 意識が一気に浮上して、固まった。背には誰かがいて、お腹には手が回されていて、抱き込まれていた。な、な、何が起きているの? 後ろにいるのは、だ、誰なの!?





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