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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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第19話:想定外の危険が待っていました

 それからは速度を落とし、ゆっくりと村に向かった。まだ日が沈み切っていない街道は明るい。


「この時間帯なら仕事に出ていた人たちの往来があってもよさそうなんだが……」


 フィンの呟きに不安が増していく。何かしら? 盗賊? 獣害? まさかこんなところで魔獣なんか出ないわよね? フィンの警戒ぶりからこれが普通じゃないのは伝わってきた。


「村に行ってみる?」

「ああ。この状態で野営は危険だ。まずは情報がほしい」


 その通りね。理由がわからなければ対処の仕様もないわ。それに、どれが理由であっても野営は遠慮したい。いくらフィンが騎士で強くても二人じゃ危険すぎるわ。


 村は街道のすぐ脇にあって森が近くにあった。森があると何かと便利ではあるけれど、獣や盗賊の隠れ家にもなる。村の周囲には木で作った柵がめぐらされていて街道の側には門もあった。その前に二人が立っている。この村の人たちかしら?


「すまないが、ここで一泊出来るか?」

「何だ、お前らは?」


 警戒心を剥き出しに問われる。かなり気が立っていそうね。


「ザクサーの恩師の元に向かっている者だ」

「ザクサー? あんな遠くにか?」

「ああ。どうしても外せない用事があってな。ところで、前に通った時と比べて人の姿がないけど、なんかあったのか?」


 フィンがぐいぐい突っ込んだ話をしていく。穏やかな口調だけど押しが強いのね。


「ああ、実は最近、この辺で魔獣が出たんだ」

「魔獣? こんな王都の近くでか?」


 フィンが驚きを露にしたけれど、同感だった。こんな近くに出るなんて聞いたことがないもの。


「嘘じゃねぇよ」

「あ、ああ、悪い。あまりにも意外過ぎて……」

「ははっ、だろうな。だから王都や領主様に言っても信じちゃくれねぇんだ」


 門番の一人が肩を落とした。どうやら本当のようね。それにしても王都はまだしも領主までなんて知らん顔だなんて、信じられないわ。


「どんな魔獣なんだ?」

「は?」


 え? フィン、まさか退治するつもりなの?


「兄ちゃん、悪いことは言わねぇ。退治しようなんて思うな。人間が勝てる相手じゃねぇ」

「騎士様ならまだしも、一般人が手を出していい相手じゃない」


 かなり強いようね。弱い魔獣なら数人がかりで何とか出来ると聞くし。


「そうは言うが、どんな魔獣かわからなきゃ、領主や騎士に言っても信じてもらえないだろ?」


 フィンの言葉に二人が顔を見合わせた。戸惑っているようにも見えるけれど、フィンの言葉に一理あると感じたようね。


「……牛だ」

「牛?」

「牛の形をした魔獣だ。捩りあがった角と真っ黒で普通の牛よりもでけぇ。しかもあいつが歩いた後は草や木が枯れるんだ」

「な……」


 フィンが言葉を失ったけれど俄かには信じられなかった。そんな魔獣、聞いたことがないわ。嫌な予感が胸を過る。それって魔獣じゃなくて呪われた牛なんじゃ…… それとも新種の魔獣なの?


「ルカ……」


 フィンが私を振り返った。言いたいことはわかる。わかるけれど……


「見てみないことには、何とも言えないわ」


 呪いの可能性は高いと思うけれど、これだけじゃ確信は持てないわ。


「その魔獣にはどこで会える?」

「何だ、兄ちゃん、まさか退治しようってんじゃないだろうな?」

「やめとけ、大怪我どころか死ぬかもしれねぇぞ」


 門を守る男性が止めに入った。それだけ危険なのね。


「ただ見るだけだ。もしかしたら何か解決策が見つけられるかもしれないと思ってな」

「見るだけなら村で見られる。毎晩村に押しかけてくるからな」

「村に? それじゃかなりの被害が出ているんじゃないのか?」


 村の周りの柵はそのためのもの? だけど普通の牛より大きいのなら防ぐのは容易ではないわ。


「あいつらは火を怖がるから一晩中篝火を焚いているんだ」

「それで防げるのか?」

「何とかな。けど、皆寝不足で参っている」


 そうなるでしょうね。夜通し番をしているなんて大変だわ。長く続けば病気になってしまう。


「そうか、だったら一泊させてくれ」


 そう頼むと二人は顔を見合わせた。余所者を入れることに抵抗があるらしい。村長に聞いてみると言って一人が村に戻っていった。門の外で待つ間、残った男がその間魔獣について教えてくれた。魔獣が現れるようになったのは一月半ほど前で、最初は今の半分くらいの大きさだったという。時間が経つにつれて徐々に大きくなって、今は普通の牛の五割増しくらいだとか。村に入り込むと言っても人を襲うわけではなく、ただ毎夜同じような場所を走っているようで、その道中に村があるのだろうというのが村長の見立てだという。


 暫くするとさっきの門番の男性が、年配の男性と三十代くらいの男性を連れて戻ってきた。この村の村長とその息子だという。


「お前さんたちかい、魔獣を見たいというのは」

「ああ。俺は一時騎士団にいたことがあったんだ。もしかしたら役に立てるかもしれないと思ってな」

「騎士だって……」


 男たちの表情が変わって、フィンをまじまじと見つめた。今は日焼けした普通の男性に見えるはず。いえ、顔が見えないから怪しく見えるかもしれないけれど。


「騎士か……」

「父さん、余所者の言うことを信じるのか? もし盗賊の仲間だったらどうするんだよ」


 村長の息子が声を荒げた。そんな風に見えたの? ちょっとショックなのだけど……


「そうは言うが領主様も王都の騎士団も信じてくださらん。それに村の皆もそろそろ限界だ」

「だからって……」


 どうやら息子は警戒心が強い方のようね。どうしたものかしら、今から次の村に向かうのは危険よね。魔獣と鉢合わせたら逃げ切れないかもしれないし。


「他に解決策があるのか? 見て何かわかるならそれでも前進じゃ。それを領主様に添えてもう一度陳情することも出来る」


 村長の言葉に顔を顰めながらも誰も反対しなかった。それだけ追い詰められているのね。


「わかった。信じられないなら……こいつを預ける。大事な相棒だ」

「馬を……分かった」

「親父!?」


 是の意を示した村長に息子が声をあげたけれど、村長は首を振って反対を諫めた。その日は村長の家に泊まらせてもらうことになった。村長夫妻は好意的だったけれど、息子の家族は猜疑心の籠った目を向けてきた。居心地は悪いけれど屋根のあるところで眠れて食事も出してもらえるだけマシね。野宿も覚悟したから。魔獣が出るのは夜中だからと、それまでは与えられた部屋でフィンと仮眠を取ることにした。


「ルカはどう思う?」


 食事を終えて寝る準備をしているとフィンガ尋ねてきた。魔獣のことよね。


「何とも言えないわ。通ったところが腐る魔獣なんて聞いたことがないから、魔獣じゃないと思う」

「だろうな。俺も同意見だ。やっぱり、呪いか?」


 躊躇いながらも頷いた。


「呪いは術式によって色んな効果を作り出せるわ。どんな術式か見当もつかないけれど、出来ないことはないと思う」

「そうか」

「見てみないことには何とも言えないけれどね」

「だよなぁ」


 フィンも同じ考えだった。彼自身が呪いの多様性を体現しているものね。とにかく視てみないとわからないわ。寝袋に包まって仮眠を取った。妖精眼のこと、そろそろフィンには話した方がいいかしら?




「おい、そろそろだ」


 うつらうつらしていたら村長の息子がやって来て声をかけた。ダンと名乗った彼は相変わらず疑いの目を向けて来たけれど、何かを言うことはなかった。ダンの後に続いて村の外れにやってきた。村の周囲には篝火が焚かれ、男性が警戒に当たっている。皆疲れた顔をしていて生気がなかった。


 柵の近くに座り込んで魔獣が来るのを待った。大抵森の方からやって来て、その反対側に向けていくという。篝火を見つけると村の柵に沿って反対側に去っていき、来た道を戻るわけではないという。時間帯はほぼ同じだから、同じ道をまわっているのかもしれないとも。


「フィン」


 禍々しい気を感じて名を呼んだ。この感覚……すぐに呪いだとわかった。


「ルカ、お出ましのようだな」

「ええ。この感じ、間違いないわ」


 フィンも魔力耐性があるからすぐに気付いたのね。そんな私たちをダンが訝しげに見ているけれど、今は構っている暇も説明している時間もないわ。地鳴りのような音と共に何かが近付いてくる。ぶわっと肌が粟立ったけれど、フィンの呪いに比べたら大したことはないわ。ただ、掛けられている対象が大きいだけ。


 次の瞬間、暗闇から真っ黒な巨体が現れたと思ったら勢いよく柵にぶつかった。柵が軋み音を立てるけれどそれは尚も突破しようとぶつかってくる。そこにダンたち村人が火矢を放った。なるほど、これで怯ませて迂回させているのね。目元に手を当てて隠しながら魔力を集める。暗いし、ローブを被っているから気付かれないと思うけれど、時間との勝負ね。


「ルカ、どうだ!?」

「呪いだわ!」

「どうすればいい?」


 術式を視る。これって……


「フィン、あの大きさ、仕留められる?」

「何とか」

「剣に浄化魔術を掛けるわ。それで倒して」


 これで多分上手くいくはず。フィンが鞘から剣を抜いたので、刀身に浄化魔術を掛ける。浄化魔術で助かったわ。火の魔術を付与するのは苦手だからその時はどうしようかと思っていた。


「フィン、無理はしないで」

「この程度なら楽勝だよ」

「火矢を止めて!」


 そう叫ぶと村人の手が止まり、剣を手にフィンが駆けてひらりと柵を飛び越えた。それに気付いた魔獣がフィンに向かっていく。早い! あの巨体で? 大丈夫なの? フィンの言葉を真に受けて行かせてしまったことを後悔したその瞬間、フィンが飛び上がると魔獣目掛けて剣を振り下ろした――





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