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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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第18話:更なる解呪を目指して旅立ちました

 結局、予想通りうつらうつらしたまま夜が明けてしまった。少しは眠れたと思うけれど、色んなことが浮かんで頭の中が忙しかった。これもフィンのせいだわ……あんなにかっこよかったなんて、反則じゃない……


 でも、今まで接してきた男性といえば家族や魔術院の人たちと呪いの解呪に来る患者くらい。魔術院に勤める人って殆ど運動しない人たちばかりで国に支給されたローブを着ているから体形はわからなかったし、患者もたまに騎士からの依頼が来るけれど私が担当するのは年配の男性か女性が殆どだった。男性でも綺麗だと思える人がいるなんて知らなかったわ。いえ、ずっと家か魔術院に籠っていたから世間が狭いのは自覚していたけれど……


「おい、ルカ! そろそろ起きろ」


 水の中を漂うような意識の中で名を呼ばれて、意識が覚醒に向かった。いつの間にか眠っていたみたい。なんだか頭が重いわ……変なところで起こされたせいね……って……


「フィン?」

「ああ、起きたか?」

「う、うん……」


 本当に顔や腕にあった文様が消えていた。昨夜は少し薄くなったように見えた肌は日焼けした農民の人の色で凄く健康的。髪は……こげ茶なのね。前髪が長くて瞳ははっきり見えない。髭もあるから顔の造形ははっきりしないわ。これなら隠さなくても大丈夫、かしら……いえ、それよりも……


「フィン、目を見せてくれる?」


 白めの色が気になった。昨夜は薄くなって見えたから白に戻っているのならいいのだけど……


「あ、ああ。これでいいか?」


 かき上げられた前髪の下にいたのは……黒っぽい瞳と、少し黄色味の残る白めだった。目元、やっぱり綺麗よね……って、何を言っているのよ!


「よ、よかった。白目も戻っているわ」

「は? 白目?」


 え? もしかして自覚、なかった?


「白めの部分、真っ赤だったのよ。ちょっと怖いくらいに」


 実際はかなり怖かったのだけど。でも、今は違和感ないわ。


「どうだったのか? いや、鏡を見ることもなかったからな。あちこちで怖がられたんだが、もしかして、それが原因だったか」

「多分……半分は」


 文様も怖かったけれど目も怖かったと思う。だけど、今は身なりに無頓着な普通の男性、よね。いえ、髭が伸び放題だから普通の範囲を超えているかも。


「あとで鏡を借りましょう」

「あ、そうだな」


 もし追われているのなら、顔が知れないようにしないといけないかしら。ローグの町で騎士だと名乗ったのは危険だったかもしれない。口止めしても騎士から問い合わせがあったら話してしまうかもしれないし。


「ほら、飯に行くぞ。今日は食うんだろう?」

「え? あ、うん」


 そうよ、今日は好きなだけ食べるのよ。寝不足分も補わなきゃいけないもの。身支度を澄ませてから食堂へ向かった。


「うわぁ、美味しそう」


 身支度している間に身体も起きて、さっきからお腹が鳴りそうだった。食堂は美味しそうな匂いが充満して、皿に盛られた料理が早く食べてと私を待っていてくれた。


「おはよう。今朝は野菜と鶏肉のスープにオムレツ、ソーセージとサラダ、パンだよ」


 宿屋の娘さんは朝から元気だった。井戸の水が出るようになって少しずつ客が戻ってきているという。だったらもう大丈夫よね。客が戻れば悪い噂も消えていくわ。


「で、これからどうする?」


 ソーセージを頬張りながらフィンが尋ねてきた。あ、このパン、柔らかくて美味しい……


「出来れば早めにザクサーに行きたいわ。そうしないとその爪も治せないし」

「ああ、そうだな。じゃ、すぐにでも出るか?」


 私はいつでも構わないけれど、大丈夫かしら? フィンの服とか、もう少し買った方がいい?


「私はいいけどフィンは? 準備することはない?」

「う~ん、この形なら野営しなくてもよさそうだしなぁ。最低限の用意で十分だから問題ないな」


 だったら今日にでも出た方がいいかしら? 追っ手の可能性もあるし、それに時間も惜しい。先生にも解けない呪いだったらまた手掛かりを探さなきゃいけない。ザクサーまでは馬で半月ほど。二人で乗ったらもう少し遅くなるわよね。それに、あの爪をまた切らなきゃいけないのは辛いはず。うん、早い方がいいわね。


「じゃ、道具屋で必要なものを買って出ましょう。いつまでもここでお世話になっているのも悪いし」


 井戸の解呪をしたら相場以上の謝礼を出されたのだけど、それを固辞してここに居る間の滞在費を無料にしてもらうことで折り合った。ずっといてくれてもいいと言ってくれるけれど、フィンの解呪を急ぎたい。


「わかった。じゃ、これ食ったら出るか」

「ええ」


 その後、娘さんにこの後出発すると告げたら凄く残念がられたけれど、フィンが呪われていることを知っているから引き止められることはなかった。干し肉などの保存食や消耗品を包んで持たせてくれたわ。


「またこっちに来たら寄ってね」

「はい、ありがとうございました」

「いやいや、あんたには世話になった。無事に戻ってくるんだぞ」


 店主と娘さんに見送られて、私たちは今度こそフィンの呪いを解くべくザクサーに向けて出発した。


 馬には前回同様二人で乗ることになった。幸い道具屋に大きめの鞍があったから買ったわ。ちょっと高くて痛い出費だったけれど、こちらにも馬にもこの方が快適だと言われれば買わずにはいられなかった。


「ね、馬も大人二人は大変だから、もう一頭いた方がいいのかしら?」


 二人で乗ると密着することになって落ち着かないから聞いてみたのだけど……


「一人で乗れるのか?」


 どうやらその選択肢は選べそうになかった。実際乗ったことないから無理よね。運動だって殆どしていなかったし。後ろに乗ると言ってもフィンは危ないからと言って却下されてしまった。呪いの解析をする時は後ろで何も言わなかったのに……ちなみに馬車の利用は時間がかかるし追っ手の心配があるからもう選択肢にはない。





 出立したのは朝と昼の中間くらいの時間帯で、街道に出ると既に人の姿があちこちにあった。この辺りはまだ王都に近いから魔獣などは出なくて比較的安全な方。次の町へは半日ほどで着くという。今夜も宿に泊まれそうね。


 それにしても……前に乗ると抱き込まれるようになるし、フィンが喋ると耳がくすぐったくなるから落ち着かない……食事の後、鏡を借りて自分を見ていたフィンは別の意味で驚いていた。どうやらフィンの髪は銀髪で、瞳も黒じゃなく薄青らしい。その色のフィンを想像してしまったせいか心臓が落ち着かない。今の黒髪黒目も素敵なのに……フィンは色が違えば追っ手が来ても俺と気付かないと喜んでいたし、顔を隠すために髪も髭もこのままにするといっていた。それを嬉しく感じてしまったなんて、フィンに失礼よね。フィンは命の危険があるからそうしているのに……うう、早くザクサーについてほしいわ……


「ルカ」


 後ろからフィンが呼んだ。フィンのことを考えていたから心臓が止まるかと思ったわ。よかった。馬の上で。


「何?」

「今日は次の町を飛ばして、その先にある村を目指したい」


 その先の村? どうして?


「時間は? 夕暮れまでに着くの?」

「ギリギリかな。だが、次の村には俺が所属していた騎士団の部隊がまだいるかもしれない。そこは避けたい」


 フィンがいた部隊が? いくら髪の色が変わっても知っている人なら気付くかもしれない。


「元々あの村の近くに騎士団の駐屯地があるんだ。この先は騎士が巡回していることもある。さっさと抜けてしまいたい」


 それは、困るわね。怪しまれる要素はないと思うけれど、追放された者同士、追手が皆無とは言えないわ。いえ、私はその可能性は低いと思うけれど……


「いいわ。飛ばして次を目指しましょう」


 二人では心許ないしフィンはまだ呪いが残ったまま、今は安全第一で行きたいわ。路銀も限られているしこれからは節約しなきゃ。呪いの謝礼、少しだけでも受け取っておけばよかったかしら? いえ、十分よくしてもらったからそんなこと出来ないわね。お昼過ぎに次の村まで来たけれど、そのまま通り過ぎて次の村を目指した。馬には負担をかけてしまったわね。だけどフィンに言わせると身体も大きくて体力もありそうだから問題ないだろうといった。だったら大丈夫かしら? せめてザクサーに行くまでは頑張ってほしい。フィンが言うにはこの馬なら十二、三日で着くという。


 その後も休憩は最小限にして、次の村へと急いだ。日が傾き始めて段々薄暗くなっていくけれど村が見えない。思ったよりも時間がかかってしまったかしら。


「変だな……」

「フィン?」

「もうすぐ村に着くが……人の姿がない」


 村が近いのに人が? そういえばさっきの村を過ぎた辺りから人の姿が減ったとは感じていたけれど……


「もしかしたら、何かあったかもしれない」


 何かって、何が? はっきりしないせいか嫌な予感ばかりが頭に浮かんできた。





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