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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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第16話:諦めかけた時、光が差しました

「ルカ?」


 半ば呆然としていた私を訝しんでか、フィンに名を呼ばれた。


「どうした?」

「え? あ……何でも。いえ、ちょっと気になることがあったの。そのままじっとしていてくれる?」

「ああ。でも無理するなよ」


 こっちを向かれると目を見られてしまうから慌ててそうお願いした私に、フィンは労わるような声をかけてくれた。そんな彼の優しさに胸が痛んだけれど、今はそれどころじゃないわ。フィンが動く気配がないので音をたてないようお祖母様の形見の鞄を開き、お祖父様の日記を取り出した。


 これは日記というよりも覚書に近い。引退した後は魔術の研究をしていたお祖父様。膨大な資料は実家に残されているはずだけど、その中でも特に大切なことはこの日記に記録していたそうで、亡くなる少し前、家族に内緒で私にと託してくださった。その中に……


(あった!)


 ローグの町を出た後、野営しながら解析した時に気になっていた術式。どこかで見たことがある気がしていたのだけど……これ、お祖父様の日記に記されていた術式と同じだわ。ただ、形は同じだけどその意味がわからない。これって古代文字、かしら? 魔術の師でもある先生の部屋で見た気がするから。私もいずれは古代文字を学ぼうと思っていたけれど、魔術院では膨大な仕事に追われてそんな時間がなかった。今にして思えば無理をしてでも学んでおけばよかった……いえ、今はそんなことを嘆いても仕方がないわ。


 見覚えのある懐かしい文字を追う。フィンの身体に刻まれている術式と似た形を求めていると、ページの終わりの方にそっくりの形を見つけた。呪いが解けるかもしれない期待に胸が張り詰めていく。術式らしい形に加えられたお祖父様の文字を追って……期待が急速に萎んでいった……肝心なことが書かれていない。この形は確かにフィンのそれに似ているのに……お祖父様にもわからなかったのかしら? やっぱり先生を頼らなきゃいけないみたいね。早くあの呪いを解いてあげたいのに……


 空しさと無力感に襲われる。こんなにも難しいと思わなかったわ。軽い気持ちで請け負ったあの時の自分を叱りつけたい。だけど、諦めたくないし諦めないわ。先生にお会い出来ればきっと解けるもの。嘆いている時間なんてない。残された時間は一年もないのだから……


 気を取り直して他の術式の解析を進めた。この二日の間に小さいものは粗方解析出来ている。他の術式と干渉し合っていそうなものはまだそのままにしているけれど、あと少しですべての解析が終わる。そうすれば……


 その後、夕食を取り、湯浴みをした後も解析を続け、その日が終わろうとする夜更け、ようやくすべての術式の解析を終えた。フィンは眠っているかしら。だったら解呪は明日に回した方がいい? 寝ている間に解呪してもいいけれど……身体に変化が出るかもしれないから驚かせてしまうかもしれないわね。だったら……


「ルカ?」


 今日はもう終えようと目に込めた魔力を散らすと名を呼ばれた。起きていたの? 


「大丈夫か? あんまり根を詰めるなよ」

「え、ええ。ありがとう。でも大丈夫」


 寝返りを打ってこちらを向く。ぱっと見は怖いし表情もわからないけれど気遣ってくれる言葉が嬉しい。こんな彼だからこそ早く解呪してあげたい。


「もう遅い。そろそろ休め」

「でも、解析は終わったわ。出来るものだけでも解呪したいのだけど」

「終わったのか?」


 ベッドを軋ませてフィンが起き上がった。よほど嬉しいのね。だけど当然だわ。だって、多少減ったとはいえ今も絶え間なく痛みが続いているのだから。


「少しでも、解呪したいのだけど」

「気持ちは嬉しいが……無理するな。明日でいいだろう?」

「でも、痛むのでしょう?」


 そう問うと俯いて視線を逸らされた気がした。やっぱり痛むのね。時々うなされていることもある。痛みのせいじゃないと言っていたけれど、呪いのせいなのは間違いないはず。


「まだ魔力も残っているし、私は大丈夫よ。その代わり、明日の朝ご飯は好きなだけ食べていい?」


 お道化るように軽く提案した。フィンよりもたくさん食べたあの時以降は人並みの食事量で済ませている。実際、たくさん食べられるけれど人並みの量で困らないし。でも、解呪した時などはお腹が空くのよね。ご褒美が待っていると思えばやる気が違ってくるわ。


「……朝から食うのか?」

「だって、解呪するとお腹が空くんだもの」


 食べ過ぎは身体に悪いとフィンが心配してくれるから控えているけれど、ここ二日間は我慢していたわ。食べ過ぎると集中出来なくなるのもあったけれど。


「わかった。でも、無理はするなよ」


 ようやく納得してくれたけれど……それって解呪じゃなくて食事量の方を心配している? 文様のせいで表情が読めないけれど。でも、それももうすぐ解消するはず。


「じゃ、始めるわね」


 フィンが少しでも楽になるように、出来ることなら死の呪いを解く手掛かりを掴むために。


「私の魔力をフィンに送るけど、もしかしたら変な感じがするかもしれないわ」

「ああ、わかっている。治癒魔術で経験しているからな。今のところルカの魔力を不快だと思ったことはないから大丈夫だろ」


 そう願いたいわ。魔力も相性があって、合わないと気持ち悪くなることもあるから。父や妹がそうだったわね。


「じゃ、始めるけど……」

「ああ、俺は寝てればいいか?」

「え? あ、うん……」


 もしかして、気付いている? 戸惑っている間にフィンは目を閉じてしまった。どうする? 目のことをフィンに話す? 彼のことは信用出来ると思える。騎士らしく義を大事にする人だし、口だって固そうだし……


「ルカ」

「な、何?」


 フィンのことを考えている最中に声を掛けられて声が上ずってしまった。変に思われた?


「話し難いことを無理に話す必要はないから」

「……な、なに……」

「お互い訳ありなんだ。言いたくないことは言わなくていい。騙すのは勘弁してほしいけどな」

「だ、騙したりなんかしないわ」


 そうは言っても言っていないこと、言えないこともあるから強く否定出来なかった。


「ははっ、わかっているって。ルカは卑怯なことが出来る奴じゃない。俺も騎士だ、その辺はわかるぞ」


 そんな風に言われたら話したくなってしまうわ。心が揺れる……どうする? 話すなら今かもしれない……


「話さなくていいって言っただろ? ルカがいいと思ったら話してくれ。俺もそうするから」


 俺もだなんて言われたら話せなくなった。これは彼なりの優しさかしら? ごめんね、でも、もう少しだけ待ってほしい……信じていないわけじゃないのよ。ただ、信じて裏切られるのが怖い。その覚悟が出来るまで、もう少しだけ待ってほしい……


 色んな感情が胸に湧き上がってきたけれど、フィンに再び促されて解呪を始めた。目に力を込めて術式を読み、簡単なものから無効化していく。解呪された後の残照が暗闇を儚く灯す。意味がわからない術式が死の呪いに絡まっているからそこには手が出せない。先生のご助力を得ないと……これを解呪したら直ぐにザクサーに向かおう。先生でも手に余る可能性もあるわ、時間に余裕を持って動かないと……




「……ぁ…………」


 どれくらい経ったのか、最後の術式を解くと薄暗い部屋の中でフィンの身体が一瞬だけど淡く光った。他の宿泊客のいない宿は静まり返り、鳥の声が微かに聞こえて来る。今出来る限りの解呪を終えた達成感と、どこまで彼の負担を、痛みを減らせたのかとの不安が増す。


「ルカ?」


 名を呼ばれて我に返った。


「起きていたの?」

「ああ、うとうとしていたんだが、ルカの魔力を感じて目が覚めた」


 起こしてしまった? それって、もしかして……


「え? 気持ち悪かった?」

「いやいやいや、言っただろう、ルカの魔力は大丈夫だって。なんか、身体が急に楽になったんだ」


 楽に? だったら……


「ろうそく、いい?」

「あ、ああ」


 机の上にあった燭台を手に取りフィンの元に戻った。その間にフィンが起き上がってベッドの端に腰かけていた。心臓が、鼓動が急いてうるさいくらい……どうか、お願い……


「ル、ルカ……手、手が……」


 フィンが自分の手を見下ろして呟いていた。灯を近づけて、ホッと安堵が胸に広がる。すべての呪いが解けたわけじゃないけれど、死の手はまだ彼を掴んだままだけど、それでも……


「も、文様が……消えているよな? ルカ、俺の、目の錯覚じゃないよな?」


 薄暗いろうそくの灯の下でフィンが声を震わせた。浅黒い肌が心なしか薄くなり、あの禍々しい文様も消えている。本来の姿を取り戻して呆然とするファンがそこにいた。だけど……






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