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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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第14話:思いがけない協力者が現れました

フィンに手伝ってもらう――それは彼の寿命を縮める可能性があるから避けたかった。


「なんだ、あんた、呪われているのか?」


 後ろからかけられた声に肩が揺れた。そういえば店主さんが一緒だった。呪いを前にすっかり忘れていたわ……どうしよう、呪いを信じていない方なら不審に思われてしまうかもしれない

……


「ああ、そうなんだ。運悪く呪われてしまってな。呪いを解く手がかりを探す旅の途中なんだ」

「フィン?」


 自分から話してしまうなんて、どういうつもりなの? 店主は怪訝な目でフィンを見ている。もし自警団に通報されてしまったら、捕まってしまうかもしれないのに……


「……そう、か。あんたも、大変なんだな」

「……え?」


 まさかそんな言葉が返って来るとは思わなかった。呪いを信じていないように思えたから。


「わしも呪いなんぞ夢物語だろうと信じていなかったが……井戸が枯れてからはわしも家族も体調がすっきりしないし、家にいても落ち着かないんだ。もしかしたら、そんな話もあるのかもしれん、という気にもなる」


 肩を落として語られた言葉には諦観が込もっていて、彼の複雑な心情が窺えた。


「わしでは出来んか?」

「店主さんが?」


 その申し出にも驚いた。呪われたものに触れたがる人なんていないから。


「そこの兄ちゃんには出来ないんだろう? だったら、わしがやってもいい」

「いいのか?」

「このままじゃ、店を再開することは出来ん。今は、僅かでも可能性があるなら与太話でも縋りたい気分なんだ」


 そういうことならお願いしたいわ。フィンにお願いするのはさすがに避けたいもの。彼はまだ自分の状態をはっきりとわかっていない。だからどう止めようかと思っていたけれど、店主が手伝ってくれるのなら有難い。


「では、お願いします。触れても大丈夫なよう、事前に手に結界魔術を掛けます。これで少しは呪いの浸食を防げますから」

「そうか。じゃあ頼む。手の一本で店が再開出来るなら安いもんだ」


 店主のその一言で解呪が決まった。湯に入りたいから今すぐ片付けようとフィンが言い、店主も遅らせる理由はないからと同意してくれたわ。店主の手に結界を掛ける。私がどこまで出来るかわからないから、取り出すタイミングはフィンに決めてもらうことになった。


 深呼吸をして心を落ち着け、目を瞑って井戸の奥底に意識を向けた。呪いの波動がその場所を示してくれる。魔力を練って魔石へと伸ばしていく。呪いが私の魔力を拒むのを感じた。ここにあるのね。抵抗する力に抗い、練った魔力の網をゆっくりと呪いの元に絡みつけていく。これくらいで大丈夫かしら……私の魔力量が弱いから、やり過ぎると引き上げるのが難しくなるから加減が難しい……ゆっくりと、慎重に引き上げる。呪いの元が重力に従って落ちようとするのを必死に止めて引き上げていく。一瞬でも気を抜いたら落ちてしまうわ……もう少し、もう少しだから……


「今だ!」


 フィンの声に呪いの元が近くまで引きあがったのだと知った。だけどここで緩めるわけにはいかないと、最後の力を振り絞った。


「ルカ! もういいぞ!」


 フィンに言葉に目を開いた。目の前には……短い雑草の間で禍々しい気を放つ元凶が確かにあった。よかった、ちゃんと出来たのね。一気に肩の力が抜けて座り込みたくなった。


「こ、これが……こんな、石ころが……」


 店主が戸惑いを口にした。目の前にあるのは真黒くて親指と人差し指で作った輪と同じくらいの石。だけど……


「これ、魔石か?」

「ええ。ただの石に呪いの元になる力なんてありませんから」


 しかもこんなに長い間なんてあり得ないわ。それなりの魔石に呪いをかけてこの井戸に放り込んだのでしょうね。


「手を、見せてください」

「え?」

「浄化しますね」


 男性の手を取って解呪に使う浄化の魔術を掛けた。呪いの影響は殆どないけれど、長年呪いに晒されて身体に滲み込んだ呪いを消すことが出来る。これだけで体調不良も消えてくれるはず。


「どうですか?」

「どうって……別に……」


 魔術も呪いも信じていなかったようで、変化は感じないようだった。だけど、魔石を直接触っても問題なかったのならいいわ。


「石を浄化します」


 しゃがみこんで魔石に手をかざす。これくらいなら妖精眼を使わなくても解呪出来るわ。単純な術式は素人にしては綺麗だから魔術師の知識がある者がやったのでしょうね。


「ああ、水が戻ってきたようだぞ」

「おお! ほ、本当だ……み、水が……」


 フィンが井戸を覗き込んでそう告げると、店主も一緒になって井戸の底を見つめていた。もう効果があったのね。よかったわ、ちゃんと水が戻ってきて。だったら……


「井戸も浄化しましょう」

「大丈夫か?」

「これで終わりです。さすがにちょっと、疲れました」


 魔石を持ち上げるのに思った以上に力を使って魔力はごっそり奪われたけれど、先に浄化しないと安心して使えないわ。


「無理するなよ」

「水に呪いが残る方が嫌ですから」


 そんな水飲みたくないし、そんな水で湯あみもしたくないわ。それに食事だって……最後の力を振り絞って井戸を浄化した。今日はよく働いたわ。誰か褒めて……


「水が……本当に戻るなんて……ああ、何て礼を言ったらいいか……」

「いえ、呪いがある方がおかしいのです。無事に解呪出来てよかったです」


 解呪だけなら簡単だった。魔石を取り出す方が大変だったわ。だけど、期待を裏切らずに済んでよかった。途方もない安堵感と充足感を感じた。やっぱり解呪は楽しいわ。


「ところで、呪いの心当たりはあるのか?」

「……正直、今でも信じられないが……もしかしたら、兄、かもしれない……」


 フィンの問いに店主が俯き、絞り出すように告げた。


「兄が?」

「……兄は、この宿を継ぐ予定だったんだが……その、真面目に働くことを馬鹿にするところがあって……それで両親は俺に継がせることにしたんだ。それからだ、井戸の水が出なくなったのは……」


 沈んだ声に苦しい胸の内を感じた。家族が、こんなことを……


「ああ、すまない。つまらんことを話した。確証はないんだ。忘れてくれ」


 店主が力なく淡い笑みを浮かべた。家族の裏切り……その事実に胸が痛んだけれど、その直後、店主の家族が出てきて騒がしくなった。彼らはひとしきり井戸を覗き込み、水が戻ったことを喜んでちょっとした騒ぎになったわ。呪いなど質の悪い冗談だと思っていた息子夫婦も驚きの中にも安堵を滲ませ、これで宿が再開出来ると涙ぐんでいた。このままだったら店を畳むしかないところで、半年ほど前からは他の店に働きに出ていたのだとか。


「本当にありがとうございました!」

「このご恩は一生忘れません」


 息子夫婦が口々に感謝の言葉を述べて、その後彼らは嬉しそうに宿の準備に向かった。直ぐに湯あみと食事の準備をしてくれると言うので、準備が終わるまで宿屋の食堂の入口で待つことにした。さすがにこの格好で部屋に入るのは申し訳ない程度には汚れていたから。髪なんて灰色になっていたから、今知り合いにあっても気付かれない自信があるわ。


「大丈夫か?」


 フィンが気遣わしげに声をかけてきた。こんな風に心配してもらえるのにまだ慣れないわね。


「大丈夫よ。魔力はしっかり持って行かれたけれど、よく働いたなって気分だから」

「そうか。だったらいいんだが……」


 フィンって意外と心配性なのかしら?


「大丈夫よ。解呪自体は大したことがなかったもの。魔石を持ち上げる方が疲れたわ」

「そうか。無理をしていないのならいいんだ」

「ふふっ、大丈夫よ。魔術院じゃ、この三倍は働かされていたから」


 あの頃に比べたらずっと楽だわ。あの頃は睡眠時間を削るのが常だったし。


「明日は無理に発たなくてもいいだろ? もう一泊してから行くか」

「大丈夫なの?」

「ああ。ここの宿に口止めしておけばいい。もっとも言わないと思うが。水が戻った理由は適当に誤魔化してもらえばいい」


 そうね、その方が安全かもしれない。呪いを信じない人もいるし、魔術師が聞きつけて調べられるのも面倒よね。上司や父が私を探すことはないと思うけれど、利用しようとする者が現れないとも限らない。フィンの呪いが解けるまでは目立ちたくない。


 程なくして部屋とお湯の準備が出来たというので、店主の娘さんの案内で部屋へ向かった。たくさん部屋は空いていると言われたけれど、フィンは安全のためもあってベッドが二つある部屋がいいと言うのでその通りにした。私も呪いで異形になっているフィンを一人にするのに不安がある。万が一の時に対処出来るようにと同室にしてもらった。


「先に湯浴びて来いよ」

「いいの?」

「こういうことは女性優先だろ?」


 当然のことのようにそう言われた。いかにも騎士らしいわね。俺が気になるなら外に出ていると言われたけれど、さすがにそれも心配だったから止めたわ。認識阻害の術も万能じゃないし、もし魔術師が近くにいて絡まれたら面倒だから。


 替えの服と下着を手に湯浴みの部屋に入った。狭いけれど人一人が楽に入れる湯船があって湯気をあげていた。それだけのことなのに感動してしまった……久しぶりの湯あみに心が躍る。服を脱いで盥のお湯を汲んで身体に掛けた。気持ちいいわ……ちゃんと石鹸が置いてあってまた感動してしまったわ。髪、顔、身体と洗って最後に湯に浸かった。全身から力が抜けて宙に浮く様な心地だわ。指先まで血が巡って強張ったところが解れていく。魔力が奪われたせいで怠さがあるけれど、よく働いたとの実感が溢れてくる。幸せ……


 眠ってしまいそうになったので慌てて湯から上がった。髪も金色に戻ったわね。もっとも私のは色が淡いから妹と比べて色が抜けた出涸らしのような髪だなんて言われたけれど、大好きなお祖母様と同じ色だから私は好き。


「フィン、お待たせ」

「ああ。って……ルカ、か?」


 何かしら? フィンがこちらを見て驚いているように見えた。




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