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行き倒れを拾ったら騎士でした。しかも呪いつきです  作者: 灰銀猫


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第12話:解析するも…後悔しました

 それからはフィンが寝ずに番をして私が眠り、朝になったらフィンが眠って私が呪いの解析をすることで話が付いた。もう夜中を過ぎている頃でしょうね。疲れ過ぎて眠れそうになかったけれど、寝袋に包まったらあっという間に記憶が途絶えた。


 目覚めた時、まだ視界の先は暗かったけれど、いい匂いが漂っていた。眠り過ぎた後のような怠さのせいか頭もすっきりしない。それでも起き上がって外を見ると、フィンが火に鍋をかけていた。もう食事の時間? そういえば、お腹が空いたわ……


「ああ、起きたか」


 明るい森を背にこちらを向いたフィンは普通の青年に見えた。顔以外は。むしろ明るい中では浅黒くなった肌も、毒々しい色合いの文様も目立つ。呪いだとわかっているから怯むことはないけれど、一般の人が見たら恐れるのもわからなくもない。それくらい酷い呪いだった。


「腹は減ってないか? 食べられるなら飯にしよう」


 掠れて割れた声でも機嫌の良さが窺えた。何かを吹っ切ったようにも見えるけれど、そう決めつけるのは失礼よね。私だって割り切ったつもりで割り切れていないもの。フィンの向かい側に石があったので腰を下ろす。鍋の中には何かが踊っていた。


「ああ、さっき兎を見つけたんで狩ってきた」

「え? 兎って、そんなに簡単に獲れるものですの?」

「敬語」

「あ……」


 ダメね、気を抜くとつい……


「まぁ、遠征に出ると補給が追いつかなくて自前で狩りをすることはあったからな」

「自前で……」


 騎士も楽じゃないのね。食料を自分で確保しなきゃいけないなんて。


「騎士になりたての頃は食料の調達が主な仕事だった頃もあった。ちゃんと血抜きして捌いて、調理するところまでセットでな」

「騎士が、そんなことを……」


 知らなかったわ。私が知っている騎士は華やかな正装に身を包んで王宮に控えている姿しか知らなかったもの。


「騎士も、大変なんですね」

「はは、実際は泥臭い仕事が殆どだ。華やかな場にいるのは王宮にいる一握りの者たちだけだ」


 意外な一面を知ったわ。だけど、そこは魔術師も同じかもしれない。攻撃魔術や治癒魔術の使い手は持て囃されるけれど、それはほんの一握り。多くは地味な補助魔術や研究に膨大な時間と労力を費やしているもの。





「それで、俺は何をしていればいい?」


 食事を終えて片付けも済ませたフィンが尋ねてきた。これから彼の呪いの解析を始めるけれど……


「特には。そこで横になっていてくれれば十分です」

「横に?」

「はい。なんなら今のうちに寝てください」


 解析だけならじっとしていてくれれば出来るわ。起きていても暇でしょうから、寝ていてくれていい。その方が集中出来るもの。敷物の上に転がると、すぐに寝息を立てた。昨夜は一睡もしていないから疲れたのでしょうね。それに、呪いのせいで常に痛みがあるというし。せめて痛みと……あとは肌の文様と、あの爪を何とかしたいわ。それがなくなるだけでもずいぶん楽になるはずだもの。


「眩しいでしょうから、これを」

「ああ、助かる」


 目元にタオルを乗せた。眩しさを遮るためでもあるけれど、目を見られたくなかったのもある。まだ彼に話していいのかの判断が付かない。そこまで信じるのは難しく感じている。アマーリエさんの助言もあるし、先日のあの男たちのせいもあるかもしれない。フィンには関係のないことだけど、こちらの身の安全がかかっているだけに、すぐには決心がつかないわ。


 眠ったようなので目に魔力を込めた。眠ったおかげで完全とは言わないまでも魔力は六、七割ほど戻ってきてくれたように感じる。だけど十分じゃないから、効率よく進めないと。


 魔力が目に満ちたので、ゆっくりと目を開いた。幸いフィンの目はタオルで隠れたまま。そういえば、彼が目覚めた時、目が、って言っていたけれど……気付いていないわよね? 何も言ってこないからこちらからもわざわざ尋ねていない。だったら大丈夫かしら?


 彼の全身を包むように絡まり合う魔力の術式を一つずつ辿っていく。先日幾つかは解いたけれど、まだまだほんの一部でしかなかったと改めて突き付けられた。こんな数の呪い、しかも複雑なものをよく掛けたわね。掛ける方の労力も相当のものだったと思うのだけど。それだけの悪意の深さと強さに気が重くなる……




「うそ……」


 複雑に絡み合い、干渉し合う術式を読み解いて……思わず声が漏れた。信じられない思いでもう一度その術式を追いかけて……息を呑む。そこに記されていたのは、『死の呪い』だった。それも、期限は、一年……


 初めて目の当たりにした命に関わる呪いに背筋が冷えて指先が震えた。信じられないわ、こんな呪いに侵されていたなんて……解呪の手掛かりを求めてその術式を追いかけたけれど……術の始点も終点も見えない。わからないように細工されている。それほどまでに、彼を? どうして……しかも、似たような術式が幾つも重なる。どれが本物? いえ、すべて本物なのかしら? 解けないように重ね掛けした? 一体誰が? これだけの術を掛けるのは簡単ではないわ。相当な知識と魔力量が必要になる……


 呆然としていると、フィンが身じろぎした。慌てて目に込めた魔力を発散する。どうしたらいいの? ただでさえ冤罪と勘当で傷ついているのに、こんな話、出来ないわ……


「ああ、まだやっていたのか」

「ええ、今日はここまでにするわ。さすがに一度に全部は難しいわ」

「そんなにか……」


 今日一日で出来たらよかったのだけど、さすがに目が限界だわ。さっきから目と頭が心臓の鼓動に合わせて痛みを訴えてくる。


「ごめんなさい。早くとは思うのだけど……」

「いや、魔術の術式を追うのは簡単ではないだろ? 俺はそれなりに魔術が使えるが、視るのは無理だし」


 フィンは「視えない」の? だったらこの眼にも気づいていない? 


「自分でも呪いが質の悪いものだとはわかる。手の形が変わるほどだからな。こんな魔術があるなんて話、聞いたことねぇし」

「ええ、私もよ」


 実際は禁忌とされた古の魔術の中に獣の形になるものがあると聞いたことはあるけれど、確かな話じゃないから言えないわ。古代魔術なら私の手に余る。いくら術式が見えても、古代魔術は使われている術式が全然違う。それがわからなければ読み解くことも出来ない。始点と終点がわからないのもそのせいかもしれない。先生は古代文字を研究されていたわ。直接の関係はないけれど、何か手掛かりが見つかるかもしれない……


「フィン、ザクサーに急ぎましょう」

「は? あ、ああ、それは構わないが……」

「ザクサーに恩師がいるのです。先生のお力を借りることが出来れば、私一人よりずっと早く解呪出来るはずです」

「そうか。簡単ではないか……」


 がっかりさせてしまったわね。あの時の自分を叱りつけたいわ。


「ごめんなさい」

「何がだ?」

「簡単に、解けるようなことを言ってしまって……」


 期待させてしまったわよね。私の失態だわ。この眼があればどうにかなると、いい気になっていたかもしれない。慢心していたわ。


「それはあなたのせいではないだろう? 俺は魔術師じゃないが、解呪が簡単ではないことくらいはわかる」

「そう言ってくれると、助かります」


 これまでに見た人の中には、早くしろと急かすどころか怒鳴ってくる人も少なくなかった。


「道中も少しずつ解析を進めますね」

「まだかかるか」

「ええ。思った以上に複雑でした」


 気が重くなるけれど、ここで負けるわけにはいかないわ。彼の命がかかっているのだから。


「まぁ、気に病んでも仕方がない。今まで無事でいたんだ。今すぐ死ぬわけじゃないんだろう?」

「え、ええ」


 それは大丈夫だと思う。ただ。古代魔術の中身は何とも言えないわ。とにかく注意深く見ておかないと。


「さて、そういうことならさっさと移動するか」

「え、ええ」


 そうね、出来ないことを数えても仕方がないわ。出来ることを考えないと。




 それから馬に乗って街道を北上した。フィンはフード付きのマントを羽織り、顔をスカーフで隠して馬を駆る。私は彼の後ろでその背に掴まっている。前の方が安定しているとフィンは言うけれど、後ろにいた方が呪いの解析が出来ると言うと渋々認めてくれた。実際、彼を視界に入れていれば術式を視ることが出来るわ。周りに人がいなければ魔力を目に集めることも出来るし。


「次の町に寄るか?」

「そう、ですね……」


 どうしようかしら? フィンの服を買い足したいし、食料もそろそろ買っておかないと心もとないわよね。


「寄りましょう」


 王都を離れれば離れるほど物が減るとアマーリエさんが言っていたわ。


「ああ、見えて来たな」


 身体をずらしてフィンの向こうを見ると、前方に町があった。ローグほど大きくないのね。どんな町なのかしら?


「フィンは、どうする?」

「そうだなぁ、ここじゃ近くに森はないし……」


 そうね、隠れる場所がないわ。あまり離れるのも心配だし……


「だったら、一緒に入りましょう」

「いいのか?」

「認識阻害の魔術をフィンに掛けます」


 服は一般人のそれだから顔だけで十分だわ。魔力もそんなにいらない。


「なるほど、その手があったか」


 相手が魔術師なら効かないけれど、一般人なら問題ないわ。こんな小さな町なら大丈夫のはず。


 町のすぐ傍で馬を下りて二人並んで町の門に向かった。門番が二人立っている。フィンを見てどう思うかしら。緊張感が高まって心臓がうるさい。胃がキリキリと痛む……


「こんにちは」


 なるべくにこやかに、平静を装って彼らの前を通り過ぎる。お願い、このまま見過ごして。心の中で祈りながら町に入ろうとしたけれど……


「おい、お前、ちょっと待て」


 門番に呼び止められた。思わず肩が強張る。どうして? 認識阻害の術が効いていないの?




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