其之四
――【宴】当日――
――硝石蔵併設厨――
「源四郎ちゃん!鶏は【塩水】に浸けておけばいいの!?」
「はい、女将さん!」
「源四郎!三日前に仕込んどった【サイダー】、そろそろ冷やすど!?」
「あぁよろしく又七郎!」
「源四郎ぉ、鶏はあと6羽ほど潰せばよいか?」
「…なんでアンタいんだよ高橋の?」
「そういうてくれるな。」
その日は早々と仕事をきり上げ【宴】の支度に勤しむ源四郎達。
そしてそこにはしれっと弥七郎の姿も。
「ほんにのぉ!何しれっと紛れとるんじゃおはんは!」
「なんじゃなんじゃ、人手はいるじゃろ?」
「それはそうだが…」
「いいじゃないの源四郎ちゃん、若♪」
「そうよぉ?それにこんな男前の浪人さんと知り合いなら早く言えばいいのに♫」
「はは、そう褒めても何も出ませぬぞ?女将さん方。」キラリッ
「「はぁ。」」ポッ
「「(旦那衆に怒られるよ女将さん方…)」」
弥七郎はやっぱり美形なのか、ちょっと色目を使うとうっとりとしだす女将さん達。
これで浮名を流してはいなかったと言うのだから歴史書や社会の教科書等もアテにならないものである。
「まぁいいや、取りあえず潰しといて。又七郎ぉ。」
「んぁ!?なんじゃい!!」
「甕運び終わったら【木綿】の水気を更に切るからな?完全に潰れない程度に重石追加しといて。」
「おう。」
「あと高橋の。とっとと潰してこっち手伝って。」
「ん?何をするんじゃ源四郎??」
「包丁研いどくんだよ、ちょっと面倒な工程入るから。」
「「面倒な工程ぃ??」」
しばらく後…
「で?源四郎ぉ??」トントントントントントントントン
「あ?何っ!」トントントントントントントントントン
「この【叩き】はいつまでやると?」トントントントントントントントン
「ん〜…肉に粘り気が出て【軟骨】がかなり粉々になるまで!!」トントントントントントントントン
「なかなかに骨が折れるの…」トントントントントントントントン
「「また洒落かよ」」トントントントントントントントン
「そういうつもりでないわ!」トントントントントン
三人がやいのやいのしながら一心不乱に捌いた【鶏(軟骨含む)】を叩く。
「(ここは【例のアイヌの呪文】言っとくか?…いや、あれはただの呪いだしそもそも色々問題ありそうだな)。」トントントントントン
在りし日の日本で読んだ【民族風習モノなのか冒険ものなのかグルメ漫画なのかバトルものなのかよくわかんない北海道舞台のある漫画】の作中でヒロインに主人公達が「(肉や魚を叩く時は)言え!」と言われていた【ある呪い】を思い出す源四郎。
「ん?どーした源四郎??」トントントントントン
「少し速度が落ちとるど?」トントントントントントン
「…なんでもねーよ。」トントントントントン
そんな魂の故郷を思い出しつつ、源四郎はまた一心不乱に鶏を叩くのであった。
そしてまたしばらく後…
「んでここに塩と小麦粉と水気切った木綿と…又七郎ぉ!」
「わーっとると!」トロー
大きめのすり鉢に鶏と各種材料を入れた所へ又七郎が別のすり鉢であたっていた【自然薯】を流し込む。
「おぉ〜贅沢よな。源四郎よ、これはおぬしが掘ってきたのか???」
「へへっ、まぁね。結構苦労したよな又七郎?」
「おぉ!だが上手く掘ったもんじゃろうて!」
「しかし…源四郎よ?」
「ん?」
「これはまさか手で捏ねるのではないか?」
「…。」ピタッ
自然薯を流し込んでいた又七郎の手が止まる。
そりゃそうだ。
喰う時にも唇の周りが痒くなる自然薯を加えた所に手を突っ込んだらどうなるか。
想像に難くない。
「おいは嫌だど源四郎!?」
「お、俺もごめん被る!」
「あー!?なんだよ根性ねぇなぁ…ちなみに女将さん方…」
「「あたしたちもやーよ!」」
「やっぱり…」
みんな痒くなるのは嫌なのである。
「仕方ねぇ!女将さん【酢】ある!?」
「酢?あるけど??」
「それで酢水を作って下され!」
「あん!?源四郎、芋の痒みに酢水が効くなんぞ聞いたことなかっど?」
「まぁ見てろよ!!」
「はい、源四郎ちゃん。」コトッ
「ありがとうございまする♪…では!」ドバッ
言うなり女将さんの持ってきた【酢水】に手を突っ込む源四郎。
「ほぉ?端から酢水に手を浸すとな?」
「あぁ、自然薯喰うと痒くなんのはその身に含まれる………わかりやすく言うなら【埃より小さいトゲ】みたいなもんが原因らしいんだ。けどそのトゲは【酸味のある液体】と【熱】に弱いって聞く、だからこうして【酢水】に手を浸して捏ねるんだよ!」コネコネ
そう言いながら源四郎は【タネ】を捏ねだす。
「おっ♪あっという間に手の温度で脂が溶け出してきたな!こりゃいい【鶏】だぜ!!」コネコネ
源四郎の言う通り、一般に高品質な肉類はその脂肪の中のオレイン酸等の不飽和脂肪酸の含有率が高く…
有り体に言えば脂が溶けやすい。
「おおぉ!?源四郎の手がテッカテカじゃあ!」
「手がてっかてか………ぷぷぷ」
「…今笑うトコあったか、又七郎?」
「さぁの??」
「………こほん。」
弥七郎の【笑いの沸点の低さ】に少々面食らう二人。
それを誤魔化すかのように咳払いをする当の弥七郎。
「しっかし本当に…痒ぅないとか、源四郎?」
「…………………………………………………………………………………………いや、かいいいいいいいい!又七郎、湯!ぬるま湯!はやく持ってきて!!!」
「「やっぱりか。」」
――硝石蔵内詰所――
――広間――
ガヤガヤ
ワイワイ
硝石蔵詰の旦那衆達、そして義久、義弘が今か今かと開宴を待ちわびる。
「義弘よ、本当におはんの言うように【源四郎の料理】は美味いんじゃろうな?」
「心配めされるなあにょどん!おいが舌ば信じもうせ!がはは!!」
事前に源四郎の料理を味わった義弘はともかく、それを伝え聞いただけの義久が訝しみつつ聞くも当の義弘は「黙って出てくるの待て!」と言わんばかりに笑い飛ばす。
「全くおはんは…じゃが他の者ならばいざ知らず、作っているのが源四郎なればな。あやつは一体どこでかような技(技法)や味を覚えてきたのやら。」
「そこは確かに。あやつに聞いてもはぐらかしよるとじゃし…【古土法】なんて恐ろしいもんば伝えたとにこと【飯】については大事なところはてんでしゃべろうとしもうさん!」
【古土法】などと言う(戦術的に)とんでもない価値があるモノを伝えたものの、こと【食】に関わるオーバーテクノロジーはとことん秘匿する源四郎を訝しむ義久と義弘。
そこへ…
「「皆様方、お待たせしました(待たせたの)!」」
源四郎が冷やしておいた【甕(無論中身は松葉サイダー、きちんと炭酸が出てるか確認済)】を又七郎と共に持ってくる。
「おぅ待っとったぞげんしろぉー!」
「早く呑ませろぃ!」
流石薩摩者と言うべきか、皆飲兵衛。
早く飲ませろと矢の催促である。
「まぁまぁ皆様方、逸る気持ちは抑えて!…ではまず蔵長!」
「おぉう!?バカタレ源四郎!ここはまず御屋形様に…」
「よかよか権左!今宵はこの硝石蔵の宴ぞ?まずおはんが一献やらずに如何するとじゃ?」
「そうよ権左!グイッといかんか!!」
「ははぁ!なれば…源四郎、おはんにいわれて【焼酎】ば冷やしといたど、ほれ」トクトクトク
権左がそう言いながら源四郎が(タンブラー代わりに作った)竹筒に半分くらい焼酎を注いで源四郎に渡す。
「だいたい【いい割水】があると言うちょったが…」
「はい蔵長♪…これにござりまする!」プシャッ!トクトク
「「「なっ!?」」」
そう言って【甕】を空けた途端炭酸が吹き出る!
初めて見る【炭酸ガス】に一同みな驚愕する!
それを尻目に竹筒に焼酎と同量くらいの【松葉サイダー】を注ぐ源四郎。
「な、なな、なんじゃ!?今の湯気のごたるもんは!?………んん!?み、水が弾けよるど!?!?」
そうして竹筒に入った【焼酎】、【松葉サイダー】が混ざり合い…【焼酎ハイボール】がパチパチと弾ける。
「さぁさぁさぁ!蔵長、グイッとどうぞ♫」
「ぬ、ぬううう…なんとも奇っ怪な酒じゃが………ええい!」グィッ
訝しみつつも腹を決めたのか、権左が一気に【焼酎ハイボール】を飲み干す!!
「………………………………。」
「ご、権左…?お、おい源四郎?」
「げ、げんしろぉ…おはん、なんぞ仕込んだとじゃ……」
義久、義弘がハイボールを一気飲みし終えたまま押し黙る権左を心配そうに見つつ源四郎に問う。
が!
「かぁああああああ!なんち清々しか酒じゃ!皆、はよやらんかっ!!」
「「「「「おおおおおおおおおお!」」」」」
「ニシシシ♫」ニカッ
権左の美味そうな顔してのひと言!そして起こる歓声。
その全てを予測してた源四郎は一人ニカッと笑う。
「な、なんと!?」
「がははは!源四郎ぉ!!おはん、なんち奥の手ば持っとるとじゃ!!なははは!!」
義久は驚愕し義弘は豪放に笑う。
「まぁまぁ義久公、義弘公!まずは一献呑んでみて下さいませ♪」スッ
そういうといつの間に用意したのか、二人分の竹筒に入ったハイボールを差し出す源四郎。
「む、むぅ…なれば!」グイッ
「どれどれ!」グイッ
そう言って竹筒を受け取り一気に流し込む義久、義弘。
そして…
「「かぁああああああ!何じゃこいは!?美味かっど!!」」
「うんうん♫」
やはり薩摩者の性か。
ハイボールを飲み干した二人が声を揃えて「美味い!」と言う。
「源四郎!もう一杯、もう一杯じゃ!はよう注げ!!」
「あ!あにょどん!抜けがけしもうすとか!?」
「まぁまぁまぁ!お二人とも、空酒は身体に悪ぅございますれば…又七郎ぉ!高橋の!」
「おぅ!」
「うむ!」
そう言う源四郎に呼ばれた又七郎と弥七郎が大皿に盛られた【厚揚げ】、そして…
「おぉん!?」
「な、なんじゃこの【茶色いの】は!?」
皆が目を見張る先にあるのは…
「ふふふふふ♫これぞ大陸にて食される鶏料理…【唐揚げ】にござりまする!!」
「「「「「「【唐揚げ】ぇ!?」」」」」」
またしても源四郎!【食のオーパーツ】をぶち込んでくる!!
しかも…ハイボールにぴったりな【唐揚げ】と来たもんだ!!
「こ、これも【厚揚げ】同様…揚げ物ち言うとか源四郎!」
「左様でございます蔵長♫ささっ!お熱いうちに!!」
「お、おぅ!」バクッ
源四郎に促され唐揚げを口にする権左。
「〜〜〜ッ!ハフハフ!」ガツガツ!グビッ!
やはり熱かったのだろうか、一瞬口元を押さえた権左。
だがその後すぐにガツガツと唐揚げを喰らいハイボールを流し込む!
そして…
「かぁああああ!なんちモンつくっとるとじゃ源四郎!!こいはやみつきになるど!」
おー!とどよめきが起こるや否や、旦那衆もガツガツグビグビやり出す。
「うはぁ美味え!源四郎、こいはどうやって作るとじゃ?」
「鶏のもも肉を【塩水】に漬け込んだ後、小麦粉をつけて揚げるだけでございます♪あ、塩辛くなるので漬け過ぎはだめでありまするが。」
「「「「「たったそれだけとな!?」」」」」
旦那衆が一様に驚愕する。
「えぇ、たったそれだけでありまする♫」
こんな感じで終始賑やかに【宴】は進む…
ハズもなかった。
なんたって…弥七郎がいるのだから。
「ささっ!義久公に義弘公も!」スッ
そう言って唐揚げの盛られた皿を持っていく弥七郎。
「ふむ…」
「おう!すまぬの…」
「「高橋統虎。」」
「「ブーッ!?」」
義久と義弘が口を揃えてがっつり【高橋統虎】なんて呼ぶもんだから傍で唐揚げをつつきながらサイダーを飲んでいた源四郎、又七郎は思わず吹き出す!
「「「「「「高橋統虎ぁ!?」」」」」」ガタッ!
それを聞いた旦那衆、そして権左が一気に立ち上がる!!
「大友が重臣、高橋主膳正ば倅とな!?」
「だ、誰が招いたとじゃ!」
「く、蔵長ぁ!?」
「わしも知らんかったとじゃ!…源四郎ぉ!若ぁ!!」
「「え〜とその…順を追って委細話させて下さい。」」
観念したのか二人揃ってシュンとなる源四郎と又七郎。
そこから佐土原は石崎川での出会いから今に至るまでの【夜襲(と称した稽古)】の事を話す。
「………なるほどのぉ〜。曲がりなりにもこやつめは源四郎と若の【兄貴分】、というわけじゃな。しかし、それを差し引いてもこやつは大友重臣が小倅…如何なさいまする御屋形様?」
「「(兄貴分にしちゃあ容赦ないけどな!)」」
権左の兄貴分発言に内心イラつく二人。
そして旦那衆たちと共に委細聞いていた義久が権左からの問いに答える。
「…ここで【斬る】が一番簡単、ではあるかの。」
「「!!!!!」」
「(やはり、か。…さて、どう立ち回るかの。)」
義久の容赦ない【斬る】発言に驚く源四郎、又七郎。
対して弥七郎は即座に【この状況をどう打破するか】に考えを巡らせ始める。
シーン…
一瞬の沈黙。
それを破ったのは意外にも…又七郎だった。
「まっちょくれ叔父御殿!!!!!」
「なんじゃ又七郎?まさか庇い立てするつもりとか??」
「兄貴分として稽古ばつけてもろうてるうちに情が湧いたとか??」
義弘、義久が訝しむ。
何せ島津家の教育方針【郷中教育】に照らし合わせれば…
目上の者、ましてや当主たる義久に異を唱えるなど言語道断なのである。
が!又七郎はなおも続ける!!
「おいを舐めるなよ叔父御殿!!!!!」
「なっ!?」
「ぬぅ。」
「おぉ?」
「…。」
又七郎の気迫にそれぞれが違う反応を見せる。
「確かにこん男においも源四郎も世話んなっとがじゃ!じやっど…そいとこいとは話が別じゃっど!なれば…なればこいの首は戦場にておいか源四郎が必ず取ります故!どうかこの場は!どうか!」ザッ
平伏し豊久、義弘に乞い願う又七郎。
が!又七郎がそこまで言ったのに…
我らが源四郎は空気を読まない!!
「いやまてまてまてまて!又七郎く〜〜〜〜ん?」
「あ!?なんじゃい!?!?」
「何がお前か俺が高橋の首獲るだよ!俺の主家たる武田と高橋の主家たる大友はことを構えちゃいねぇぞ!!」
シーン…
またしても一瞬の静寂。
そして…
「ふっ…ふははははははは!」
「た、確かにそうじゃが……だはははは!」
「げ、源四郎…い、今はそう言う話じゃ……ぷぷっ!」
「へ?俺、正論言っただけだけど??」
「「げんしろぉ〜…」」
源四郎の空気読まない発言で場が更に混沌としたことを恨めしそうな目で訴える又七郎と弥七郎。
そんな三人を尻目に義久はいう。
「高橋の。」
「…はっ!」ザッ
立膝をつき正対する弥七郎に義久は続ける。
「おいは源四郎ばおかけでほとほと毒気ば抜かれた…この薩摩におる間はおはんに手出しはしもうさん。」
「ありがとうございまする。」
「ただし!筑前に帰りし後は…ゆめゆめ覚悟せよ?」
「それも承知しておりまする。」
「なれば今宵はこの奇縁、存分に楽しむがよか。」
「はっ!ご配慮痛み入りまする!」スッ
弥七郎は即座に頭を下げる。
やはり高橋家にしろ島津家にしろ…武辺者故に通ずるものがあるのだろう。
「あ〜…話はまとまりましたかな?」ポリポリ
顔をかきながら源四郎が尋ねる。
「おはんがややこしくしといて何ばいうとるとじゃ源四郎!」
「なぁ!?もとを辿ればおめぇが人の主家が武田家だってのに勝手に巻き込むからだろぉ!?」
「あぁん!?今もって薩摩の島津ば身をおく男が何を言うとるんじゃ!おはんはもう島津ば頭数じゃっど!」
「!」
又七郎の「島津ば頭数」に一瞬たじろぐ源四郎。
「そうじゃっど源四郎!おはんはもう【信濃ば薩摩隼人】よ!」
「おうさ!義弘公の言う通りよ!」
「なんならこのまま島津へ仕官すりゃいい!なぁ蔵長!!」
「ばぁたれ!そいは御屋形様ば決めることよ!………が、おい自身は悪くなかぞ源四郎?」
そして義弘や旦那衆、権左もまた源四郎に遠回しに「島津に残れ、島津に来い」と言う。
「ははっ!皆様ありがとうございまする、しかしながらこの源四郎…信濃に愛する妻を残しておりますれば♫」
それらをやんわりと断る源四郎。
やはり源四郎の行動原理、いや【世界の中心】は最愛の妻みおなのである。
「ぬはははは!やはり言うと思っとったど源四郎!」ニヤリ
その返しを見透かしていた義久がニヤリと笑う。
「たははは…さて、では引き続き【宴】を楽しみましょうぞ!」
「「「「「「うむ!」」」」」」
そうして【宴】の席がまた活気づく!
そこからしばらく後…
「「皆様!追加のつまみですよ♫」」
女将さん方が大鍋を持ってくる。
その中身は…
「お?」
「ふむ?」
「「「「「な、なんじゃこの鍋は?」」」」」
そこには【ぶつ切りにした鶏】、【様々な根菜】、【青菜】、【油揚げ】、そしてさっき源四郎達が懸命に叩いた【鶏つくね】が浮かぶ。
「これぞ【ちゃんこ鍋】にござりまする!さて、仕上げに♫」ポンッ
そういうと源四郎が持ってきた小瓶の蓋を開ける。
瞬間【ごまの香ばしい香り】が広まる。
「なっ!?源四郎!そいは【ごま油】では!?!?」
「はい義久公、その通りでございまする♫」トロー
そう言いながら源四郎は【ちゃんこ鍋】に【ごま油】を回し入れる!
「おいおいおいおい!【灯り】ば油をそんなに!?もったいなか!」
「そもそも喰えるんとか!?」
「いや!ごま自体食えるが…」
たちまち旦那衆からも声が上がる。
なにせごま油も菜種油同様この時代は【燃料】、とにかく貴重である。
それを鍋に入れて食そうというのだから…そりゃ勿体ないなんて声も漏れる。
が、そんなことはどこ吹く風と源四郎はごま油を入れ続け…
「さて出来ました!これぞ【ごま塩ちゃんこ鍋】にござりまする♪」
「「「「「ご、ごま塩ちゃんこ…」」」」」ごくりっ
なんやかんや言っていた一同が生唾を飲む。
そりゃそうだ。
なにせごま油の芳醇な香りが食欲を直撃しているのだから!
「では蔵長♫」スッ
「お、おう…」
そそくさと権左の分のちゃんこを取り分けた器を差し出す源四郎。
「なれば…」パクッ
そう言ってまずは【鶏つくね】にかぶりつく権左。
そして…
「!!!」ガツガツガツ
その美味さに衝撃を受けたのか、無言で食べすすめる権左。
「ぬうううう!源四郎!権左の食いっぷりを見れば美味いのはわかった!分かったからはよ盛らんか!」
痺れを切らした義弘が矢の催促!
「そうじゃそうじゃ!」
「はよ盛らんか!」
旦那衆たちも便乗!
全くもって食い意地の張っている人々である。
「…源四郎、わしにも早うもらぬか。」
義久までこの始末である。
「だぁああ!分かりました!又七郎、高橋の!盛るの手伝え!!」
「おう。」
「うむ。」
こうして三人でまるで炊き出しのごとく【ごま塩ちゃんこ】を盛る。
「うほぉ♪この【鶏の団子】、ふわふわしておる!」
「汁じたいは【あご(トビウオ干し)】と…鶏の骨ば煮出しよるとか!贅沢じゃのぉ!!」
「それでいてしっかり菜っ葉も取れるとか!考えておるのぉ源四郎!!」
旦那衆や義弘が絶賛しながらちゃんこを食べすすめる!
「いやはや♫お褒めいただき光栄で…って、てめぇら!何俺より先に喰ってんだよ!!」
「んあ?」パクパク
「んぉ?」パクパク
盛り付けの隙をついて自分たちの分をよそいちゃんこを喰らう又七郎と弥七郎。
「いやぁホンに美味かっど源四郎ぉ♫」
「ほんにのぉ!いやぁこんな美味い汁、産まれて初めてぞ?源四郎、おぬし本当に包丁人に…」
「くっちゃべってねぇでとっとと喰って代われ!俺も喰いてぇんだよ!!!!!」
その一言でどっと笑いが起きる。
そうして【宴】の夜はふけていき…
――数刻後――
――硝石蔵前――
「いやはや、馳走になったわ権左!源四郎!!」 ザッ
「がははは!こんな楽しか【宴】久しぶりじゃったわ!また呼ぶがよかっど!」ザッ
「ありがとうございます御屋形様、義弘公!」
「お褒めいただき恐悦至極!またお待ちしておりまする♫」
義久、義弘の一団を見送る権左と源四郎。
「いやぁ〜、一時はどうなることかと。」
「そいはおいが台詞じゃっど源四郎!」ペシッ
「いてっ!?」
そう言いながら源四郎を軽く叩く権左。
「全く…まさか高橋主膳正ば倅を招き入れる事になるとは夢にも思わんかったど?」
「すみませぬ蔵長…」
「まぁ済んだことば気にしてもしかたなか!おいは戻るで片付けば任せる!」ザッ
「はい、お休みなさいませ蔵長」
そう言って宿舎に向かう権左を見送る源四郎。
そしてその姿が見えなくなると…
「よっし!さぁて…お楽しみ!【鍋〆】やっかな♫」
そうして詰所へ戻る源四郎であった。
――硝石蔵詰所――
「おぅ!蔵長帰ったか?」
「で、源四郎よ?【鍋〆】とはいったい…」
片付けに駆り出された又七郎と弥七郎が囲炉裏に残され火にかけられた大鍋の前に陣取る。
「だぁあ!腹っぺらし共が!………これだよ。」スッ
源四郎が厨に隠してあった【それ】を持ち出してくる。
「「なんじゃあ!?この【黄色い麺】は??」」
源四郎の持ち出したる【それ】とは…
所謂【中華麺】であった。
「あぁ?これはな大陸で食される麺でな。小麦粉に樫の木灰混ぜてかき回して…その上澄みたる【カンスイ】って水と捏ねるとこう黄色くなんのよ♫(まぁ今の日本の小麦じゃせいぜい【中力粉】、中華麺打つのにゃ【強力粉】がベストだから中々試作が上手くいかなかったけどね)」
「ほぉ〜…おはんはホンに灰ば使うのがうまかのぉ。」
「うむ。まさか灰にそんな使い道があるとはな。」
「物事なんでも使いようだっての。さて…そろそろ煮えたかな?ほれ」スッ
そうこうするうちに煮えた【〆のらーめん】を二人によそう源四郎。
「おぉ〜美味そうじゃ!いただくど♫」ズルズル
「いただくぞ源四郎。」ズルズル
「おぅ。」ズルズル
そうして三人揃ってらーめんを啜る。
そして…
「「「うんめぇえええええええ!」」」
やはりこうなる。
やはりラーメン、ラーメンは全てを解決する。
「なんじゃこの麺は!?ちぢれとるからか?よく汁ば絡んで美味かっど!!」
「うむ!それに打ち粉や麺自体の小麦粉が溶け出すのか!?この麺を入れる前とは汁の味わいがまるで違う!!」
「ほほぉ、二人ともそこに気づいたか♫まぁそういうことよ、あ〜美味え!!」
そうして三人はあっと言う間にらーめんを啜り…
「「「いや〜食った食った♫」」」
ものの見事に鍋は空!
「さて…源四郎、又七郎。」スッ
「ん?」
「お?」
弥七郎が二人に正対し頭を下げる。
「今宵は助かった、礼を言う。」
「いやよせよ。俺はなんもしてねぇよ?礼なら又七郎に言えって。なぁ?」
「ばっ!?おいもただ【おはんの首はおいのもんじゃ!】ち言っただけっど!顔ば挙げんか!!」
「………全く、可愛げのない奴らじゃの。頭の下げ損な気がしてきたわ。」
「「ほっとけ!」」
そうして一時の沈黙の後…
「は、ははは!」
「ははははは!」
「だっはっはっは!」
誰ともなく笑い出す三人。
佐土原は石崎川にて奇妙な【縁】に結ばれた若武者達は今宵の宴でその【縁】を更に深めたのであったが…
時代の奔流はこの若人達に関係なく、その流れは止まるところを知らない。
それは源四郎も分かっていた。
「(今はこうして笑いあってるけど…又七郎はともかく、高橋の奴とはもしかしたら………いや、今は考えないでおこう。今はこの男との【縁】、とことん利用して強くなってやる!そう………【みおの妖刀・魔剣】になる為に!!)」
かくして無事【暑気払いの宴】を乗り切った源四郎。
そんなこんなで薩摩での修行の日々は波乱を含みつつも
過ぎていくのであった。
――第三章、完――
いやぁ書いてるこっちも唐揚げやちゃんこ食べたくなりましたね(≧▽≦)
さて次回は打って変わって血なまぐさい話にする予定!
刮目して待て!




