其之三
――【暑気払いの宴】、四日前――
――硝石蔵宿舎――
「う〜ん美味か美味か!…おかわり!」ガツガツ
「はいはい♫朝からよく食べますねぇ若。」スッ
宿舎での朝餉。
又七郎が朝から四杯も飯をおかわりし、宿舎詰めの女将さんに再度よそってもらう。
「ホントよく食うなぁオメェ。そんなに気に入ったのか【納豆】が?」
「ははは!言うてやるな源四郎ぉ!」ガツガツ
「そうじゃ!おいかてはじめは『腐った豆ば喰らうとな!?』と言うとっとじゃが…今じゃホレ!みな朝の【納豆汁】ば飲むのば楽しみにしとんじゃ!おぉ美味え!!」ズズズ
又七郎の食い意地に呆れる源四郎。
それを制し【納豆飯】や【納豆汁(無論豆腐入り)】に舌鼓を打つ硝石蔵詰めの旦那衆。
無論口にしている【納豆】は源四郎お手製で「そう言えば久しく【納豆】食ってねぇなぁ…大豆手にはいるんだし作っか♫」と作って食べていたところを又七郎に見られ始めは「うげぇ!源四郎ば腐った豆食うとる!!」とドン引きされたものの…
今では【納豆汁】含め大好物である。
そんな二人を見ていた硝石蔵の面々も「頭ば打ったか!?腐った豆ば食いおって!!」と始めは二人が【納豆】を食うのを訝しんでいたが…
いつしか一人また一人と【納豆】の美味しさに取り憑かれ、今では蔵長すら「おい!今日の【納豆汁】は納豆の量ば足らんぞ!!」と言ったりするほど皆【納豆】が好物となった。
「(まぁ【納豆】が流行るのは良いことか、免疫力が上がって皆病気しなくなるし♪)そうでありまするか♫ちなみにこの【納豆】、垂れ味噌とみりん、少量の砂糖で伸ばし餅と和えた…【納豆餅】も絶品でございまするぞ?」
「んぉ!?なれば正月はおやっどんに頼んで佐土原からもち米ば持ってきて貰うとじゃ!!」ガツガツ
「…又七郎ぉ、行儀わりぃから食うか喋るかどっちかにしろ。」
そう言って又七郎を諌める源四郎。
ドッと笑いも起きている。
「して源四郎ぉ?」コトッ
「んだ?」
「こいで飯ば食い終わったらどこば行くち言うとったか?」
「んぁ?蔵長の許しも得たからな…山一つ越えて知覧まで。」
「…知覧んんんんん!?」
かかる後…
――硝石蔵宿舎前――
「おい早くしろよ又七郎ぉ!日暮れまでに戻って来れなくなっぞ!?」ザッ
「だああ!やかましかっ!おはんが急に知覧ば行くと抜かすからじゃど!」ザッ
二人が女将さんに昼飯の握り飯を用意してもらい宿舎前に来る。
すると…
「なんじゃお主ら?今日は硝石蔵の丁稚仕事はないのか?」
「「げっ、高橋。」」
なんと弥七郎に声をかけられる。
ここ最近弥七郎は内城下はもとよりこの谷山にまで足を運ぶようになっていた。
「なんぞ使いにでも行くんか?」
「なんでおはんにそんなこと教えねばならんのじゃ!」
「…ちょいと知覧までな。」
「な!?源四郎ぉ!?!?」
弥七郎に問われ悪態をつく又七郎に対し素直に治乱へ赴くと言う源四郎。
「おい源四郎!?なんでこいにば行き先告げるとじゃ!?(ボソッ)」
「あ?そりゃ上手くのせりゃあ知覧から鶏持ってくる時の頭数にゃなんだろ?うまく使うんだよ!(ボソッ)」
「…なんぞ謀か?なれば俺は乗らんぞ?君子危うきに近寄らず、というでの。」
「謀とまではいかねぇよ、ちょいと荷物運び手伝ってくれねぇか高橋の?」
「荷物…とな?」
ここで源四郎は洗いざらい【暑気払いの宴】のことなどを話す。
すると…
「うむ。源四郎、おぬしについていけば何ぞ美味いものが喰えそうであるな…よし!この高橋弥七郎、助力いたそう♫」
「ったく食い意地張っとるのぉ!」
「………おめぇが言うか、又七郎。まぁいいや、じゃ二人とも…これ!」ズイッ
そう言って源四郎が二人に差し出したのは…
「「天秤棒ぉ〜!?」」
――谷山街道――
「ふたりとも遅ぇぞぉ!【連続歩調】の掛け声すっか!?」タッタッタ
「いぃ!?あれは恥ずかしいぞげんしろぉ〜…」タッタ
「な、なんじゃその…れんぞくなんちゃらとは?」タッタ
「【いち!いち!いちにぃ!そーれ!】などと言う掛け声じゃ!それを『胆力つくぞぉ♫』などとあん馬鹿と走り込む時は叫ばされるんじゃ!」タッタ
「…それは恥ずかしいのぉ。」タッタ
【天秤棒】を担いだ三人が軽快に街道を走りゆきながら話す。
「何が恥ずかしいだボケぇ!男児たるもの人前で大声出せずに戦場で声が通るか!!」タッタッタ
「…一理あるな。」タッタ
「おぅ高橋ぃ!乗っかるな!こん馬鹿が調子のっど!!」タッタ
「時に源四郎ぉ!」タッタ
「何っ!?」タッタッタ
「なんでわざわざ自ら【天秤棒】持って鶏を取りにいくのじゃ?」
「「洒落かよ!」」タッタッタ
「そういうつもりで言ったのでは無いわ!」タッタッタ
不意に弥七郎から飛び出た洒落に二人して突っ込む源四郎と又七郎。
「鍛錬だ、鍛錬!ゴチャゴチャ行ってねぇで速度上げろ!昼までに川辺峠越えるぞ!!」タッタッタ
「「うひぃ〜…」」
――川辺峠頂上付近――
「っぷは!中々根性あんな二人とも!」ゴクゴクッ
「お、おう…舐めるでないわ源四郎。」
「そうじゃあ…舐めんなぁ…」
一人割と余裕そうな体で水を飲む源四郎、それを尻目にそこそこ息も絶え絶えな弥七郎と又七郎。
「飯食って腹落ち着いたら出発すんぞ二人とも?」モグモグ
「よ、よく入るのぉげんしろぉ…」
「なんだ又七郎?食べぬと力が出ぬぞ??」モグモグ
「だぁあああ!分かっとるわぁ!!」ガツガツ
持たせてもらった握り飯を頬張る源四郎と弥七郎、そして又七郎であった。
――知覧、田園地帯――
「思ったより早く着いたなぁ♫」
「ほんにのぉ!」
「…おぬしら【膝】はなんともないのか?俺は少しキテるぞ?」
「「全然。」」
「どんな鍛錬しとるんだ全く。」
田畑広がる田園の中を三人が進む。
知覧出身の鉄砲衆に予め教えてもらった(今で言う)養鶏農家を目指して。
「しっかし源四郎よ?」
「ん?何??」
「おぬし、手回しもなしにいきなりいって鶏が貰えるのか???」
「そこはほら…俺の料理の腕でも見せれば何とかなるだろ??」
「おぉ!またおはんば飯が食えるとな!?」キラキラッ
農家に料理の腕を見せて渡りをつけると言う源四郎に目を輝かせて又七郎が食いつく。
「んだよこの腹っぺらしがよ!!」
「まぁまぁ喧嘩するでないわ。それにわしもおぬしの料理、期待しておるぞ源四郎♫」
「…腹っぺらしがもう一人いやがった。」
――田園地帯一角の農家前――
「ごめんくださーい!」
「御免。」
「邪魔すっど。」
戸口に立ち挨拶をする三人。
すると奥から女将さんらしき女性が現れる。
「おやおやお武家様、今日はどのようなご用で?」
「ちと【鶏】を譲ってもらいにね。亭主はおられるか??」
「はい、丁度。…あんたぁ!あんたぁ!!」
「おぅ?」モゾモゾ
奥で蓑か何かの手入れをしていた亭主(旦那)が現れる。
「おはつにお目にかかるご亭主。手前薩摩は島津家の縁者であるが…少々【鶏】を分けて頂きたい。」
「ほぁ〜…よろしいですが…いかほど入り用で?」
「ん〜…15羽ほど。」
「んな!?そんなに一気に持っていかれては…それに失礼ですがお武家様?」
「ん?」
「きちんとした包丁人はおられるのですか?流石に丹精込めて世話した鶏でありますれば…」
十五羽もの鶏を一気に、しかも(島津の縁者を名乗ってるとは言え)どこの馬の骨とも分からぬ若造に分けてくれと言われ訝しむ農家の亭主。
「あぁん!?島津のモンじゃと言うとるにうたぐるちか!?」
「まぁまぁ待てよ又七郎…」
島津の者と言ってるのになおも訝しむ亭主に凄もうとする又七郎を制す源四郎。
「ご亭主、その【包丁人】…かくいうそれがしでありますれば………この腕前、見せましょうぞ。」
「ほぉ?なればお武家様、どのように??」
「差し当たって…ひとまず一羽分、なんぞ作りましょうぞ。」
「なれば丁度一羽、若鶏ば捌いたのがありますぞ?」
「それは重畳♪ちなみに…その【骨】はございますかな?」
「「「骨ぇ???」」」
――農家厨――
「で、源四郎?骨ば煮出してどうすっとじゃ??しかも煮立てずに時ばかけて。」
「まぁまぁ焦りなさんな又七郎♫」
源四郎の指示により鶏ガラを煮立てない様に番をする又七郎が問う。
それに対し焦るなとなだめる源四郎。
「源四郎よ、こちらはどうじゃ?」
それとは別の竈で【水で伸ばした酒粕】を見ている弥七郎が問う。
「あ〜…そっちもまだかかるかな?」
「そうか。しかしこれは【甘酒】ではないのか?」
「まぁそうだけど…ちょいと考えがあってね。」
そうこうしていると…
「お武家様ぁ、ネギはこんなもんでよぉございますか?」
ネギを何束か抱えた亭主がやってくる。
「すみませぬなご亭主。さすれば…」トトトッ
源四郎はそんな亭主からネギを受け取ると斜めに切り分ける。
「おぉ…やはり手慣れたもんじゃのぉ源四郎。」
「へへっ♪そうかよ。」
又七郎に褒めらいい気になる源四郎。
「これ源四郎、それくらいでいい気になってはすぐ調略に引っ掛かるぞ?又七郎もそんな下手な持ち上げで相手を揺さぶれると思うな??ふふっ。」
そこへすかさず弥七郎がド正論を言う。
「「うっせバーカ!」」
声を揃える二人。
「「(この三人、仲がいいのか悪いのか…)」」
そんな三人のやりとりをみる農家夫婦は胸中で至極真っ当な反応をするのであった…
そしてしばらく後。
「おおおお!こりゃ見事な黄金色じゃあ!」
「うむ!」
又七郎と弥七郎が見る先…
【差し水】をしながら煮込まれた鶏ガラの入った鍋に【黄金色のシャンタンスープ】が出来上がる。
「うっし!【出汁】は完成だな。」
「ほぉ〜。ん?お武家様、これでまだ【出汁】ですと??」
「おぉ、そうでありますが?」
黄金色に輝くシャンタンスープの抽出を以て完成と思っていたのか農家の亭主が尋ねるもあくまで【出汁が取れただけ】と返す源四郎。
「したら高橋の。その【のばした酒粕】の鍋くれ。」
「おう。…ほれ。」グッ
先程まで自身が源四郎の指示で焦げないようにアルコール分を飛ばした【水でのばした酒粕】の入った鍋を手渡す弥七郎。
「おっ!いい感じだな、あんたも中々料理の心得あんな♫」
「おぉそうかそうか♫」
「…さっきちょいと持ち上げられたくらいでいい気になるな、などと言ったヤツの態度ではないのぉ。」
「…。」ゴチン!
「でっ!?」
源四郎に持ち上げられ鼻高々な弥七郎にカウンターで嫌味を言うも…無言の拳骨を喰らう又七郎。
「理不尽じゃ!こいは理不尽じゃっど源四郎!!」
「だぁああ!うっせぇな、もうすぐ出来っから黙っとけボケ!!!!」カッカッカッカッ
そうこうする間に源四郎は先程の【酒粕】に【垂れ味噌】、【シャンタンスープ】を混ぜ【割り下】を作り鶏肉とネギを煮立て、仕上げに卵を碗で溶いていた。
「な!?源四郎、いくら鶏を飼っている農家と言えど【卵】をそこまで使うとな!?!?」
弥七郎の驚愕も無理はない。
現代日本のような養鶏設備、技術のない戦国の世。
いくら鶏を飼っている農家と言えどそれは同じこと。
「まぁ良いじゃねぇかよ♪つーかこの卵代含めて…義久公にここんちの年貢割り引いて貰えばいいだろ、なぁ又七郎??」
「げっ!?おはんはまた勝手に!」
「けど実際俺たち銭の持ち合わせねぇぞ?それに…今度硝石蔵に義久公も来るんだろ??だったら俺の料理振る舞ってそれだけの価値があると思わせりゃいいだけよ♫」
「…まったく、どんだけ自身あるんじゃおはんは。」
「まぁまぁ又七郎。それより女将さんとご亭主が囲炉裏端にて待っておられるぞ?」
二人が今回の支払いの件でいいあうも弥七郎が制し囲炉裏端へと促す。
「へーへー分かってますよ…」
「全く腹っぺらしじゃの。」
「ははは、言ってくれるな♫」
――農家囲炉裏端――
「さて皆様お待たせいたしましたな…では。」トローッ
囲炉裏端に集まった皆の前で仰々しくそういいながら源四郎は自在鉤に吊るされた鉄鍋へ仕上げとばかりに溶き卵を流し込み蓋をする。
「おおおおお!?なんじゃ源四郎!打ち卵なら溶くことも無かろうに!」
「違うんだなぁ又七郎く〜ん…これぞ【親子丼】よ!ほれ、飯よそって器貸せ。」パカッ
充分に蒸らされたであろう鍋の蓋をとる源四郎。
そこにはしっかり煮込まれた【あたま(丼の具の部分)】があった。
「「「「【親子丼】んんんんん??」」」」
そう、源四郎が作りたるはまさしく【親子丼】、であった。
「(まぁ本当は【醤油】に【みりん】が欲しかったところではあるけどな…それに衛生管理がしっかりしてないから【半熟トロトロ】は無理だし。)ほら、とっとと貸せ。」
「お、おぅ…」スッ
初めて見る【親子丼】(のあたま)に尻込みしつつおずおずと飯の入った器を渡す又七郎。
「ったく、普段の食い意地どこいったんだよ?ほい!」ドバッ
「あん!?汁ごとかけるとか!?!?そいでは【汁かけ飯】ではなかか!おいは【北条】じゃなかっど!!」
恐るべくは北条氏政、その好物たる【汁かけ飯】の話は遠く薩摩にまで轟いていた。
「あんな行儀わりぃのと一緒にすんな!これはちゃんと料理として完成してんだよ!」
「はぁ…ってお武家様!これで完成ですと!?」
「おぅ♪」
「「「「えー…」」」」
皆が一様に驚くのも無理はない。
本来【丼もの】が食卓に上がるようになるのは江戸の文化年間に【うな丼】が誕生する…言ってしまえば【二百年以上】は後なのである。
いわばこれ(親子丼)も【食えるオーパーツ】である。
「ぬぅうう…なんか【汁かけ飯】のようで……ちょっとのぉ。」
さしもの食いしん坊たる又七郎も顔をしかめる。
「うぬぅ…確かにこれで料理として完成と言われてものぉ。」
さらに弥七郎も顔をしかめる。
「だぁああ!ガタガタ言わずにやってみろって!…おぉ!美味え!!」ガツガツ
訝しむ皆を尻目に親子丼をかき込む源四郎。
「まぁまぁお二方…頂いてみようではありませぬか。」パク
「そうねぇあんた。美味しそうな匂いもすることですし。」パク
【汁かけ飯】に抵抗がないのか、農家夫婦が親子丼を口に運ぶ。
「ぬうううう…なんか腑に落ちんがのぉ、ええい!頂きます!」パク
「うむぅ…いただきます。」パク
そんな農家夫婦に促される形で親子丼を口にする又七郎、弥七郎。
そして…
「「「「………。」」」」
「んあ!?どーした!口に合わんかった!?」
「「「「…………!」」」」ガツガツガツガツ!
源四郎が心配して問うも全くの杞憂!
無言で親子丼をかき込む四人!!
「美味い!こいは美味かっど、源四郎!!」ガツガツ
「うむ!甘みに塩っけ!全て丁度よいぞ♫」ガツガツ
「うーん!永らく鶏飼って食ってきたが…かような料理は食ったことがありませぬぞ!大した包丁人であられますなお武家様!!」ガツガツ
「えぇホントに!!」ガツガツ
そう言いつつ食べる手を止めない四人。
そして!
「「「「おかわり!!!」」」」
ほぼ同時に四人が器を源四郎に差し出す。
「…美味く出来たのは分かったから飯よそってくれるか???」
「「「「あ。」」」」
――農家前――
コッココココ。
籠に入れられた【鶏(15羽)】を天秤棒の両端に背負い又七郎が言う。
「では亭主、叔父御殿に言うて年貢割り引くでの!」
「はい若様♪」
親子丼を食べ終えたのち【島津の若】と身分を明かした又七郎に最初は驚いたものの、源四郎の料理の腕もあり亭主は快く【鶏】を分けてくれた。
「おーい又七郎!早くしねぇと日が暮れるぞぉ!」ザッ
「そうだぞ又七郎ぉ。」ザッ
「わーっとるわ!では亭主、達者でな!」
「はい若様、お気をつけて♫」
亭主に見送られ谷山への帰路に着く三人。
「さぁて!帰りも駆け足だぞ二人とも♫」
「「やっぱりか。」」ガックシ
元陸上自衛隊員の性か、帰りも駆け足と言う源四郎。
それを聞いた又七郎と弥七郎は力なくうなだれるのであった。
――再び川辺峠頂上付近――
「おぉ♫なかなかいい足並みじゃねぇか。これなら日没までに谷山着くぞぉ?」
「げ、げんしろぉ〜…」
「ひ、ひとまずひと休みせぬかぁ??」
来たときと同じペース(しかも籠に入れた【鶏】を担いで)で川辺峠頂上まであっという間に戻ってきた三人。
しかし、流石の又七郎に弥七郎といえどくたびれたのか休憩をしようと源四郎に進言する。
「あぁ?ったく、しょうがねぇなぁ。少しだ…」
言いかけた時だった。
シュ!
「んお?」ヒョイ
木々の間から【礫】が飛ぶも事もなげに躱す源四郎。
すると…
「ち!感のいいガキだ!!」ガサガサ
「小僧ども!武家の輩とは思うが…身ぐるみ剥がされたくねぇならその【鶏】、置いてきな!」ガサガサ
木々の間からいかにも人相の悪い連中がゾロゾロと、ざっと八人ほどだろうか?出てくる。
言わずもがな【野盗】である。
しかもお決まりに凄んでくる。
「あ゛?」
「あ゛あ゛ん?」
「ふむ…。」
しかし三人はとても涼しい顔をして野盗達を見る。
「じゃとよ源四郎、高橋の。どうすっとじゃ?」スッ
「みなまで聞くかぁ又七郎ぉ?」スッ
「是非もあるまい…」スッ
「はっ!そうじゃの〜…やることは一つじゃの!」
「「「徹底抗戦と行くか!」」」
端から腹の内は決まっていたのであろうか、三人が思い思いの構えをとる。
そんな中…
「ん!?源四郎、おはん【槍】は心得あるとか?」
又七郎にそう問われた源四郎は天秤棒を手に左半身で構える。
「おぅ。まぁ厳密には槍そのものじゃねぇけどな。」
「あぁん?大丈夫なんか??」
「でーじでーじ!似たような武術やってきたんだよ。」
「いつまでくっちゃべってんだ餓鬼が!!」
そう言いながら野盗どもが襲い来る!!
「来るぞ二人とも!」
「「分かってらぁ!」」
弥七郎の声に応えながら二人は散開する。
「死ねぃ餓鬼がぁ!」
「遅ぇよ。」ドスッ
「がッ!?」
野盗の一人が源四郎に向かってくるも源四郎は鮮やかな【刺突】をその鳩尾に叩き込む。
「(おっ!やっぱ身体が覚えてるもんだなぁ…【銃剣道】をよぉ!!)」
そう、源四郎が見せた刺突。
それは【槍術】のそれではなく、陸上自衛官の間で広く訓練科目として取り入れられている【銃剣道】のモノであった。
「てめぇ!」
「ふん!」
「げふっ!?」
今度は背後から斬りかかられるが天秤棒の反対側を腰の捻り、そして後足の踏み込みを利用し叩き込む。
「ほぇ〜源四郎、ほんにおはんは不思議なやつじゃのぉ!刀の扱いはからっきしなクセに槍は心得があるとな!!」ゴスッ!
「ギャッ!?」
「ははは!ホントにな!俺に【夜襲】を仕掛けるときなど体捌きと太刀筋がてんでバラバラだというに!」バコッ!
「うげっ!」
又七郎、弥七郎もまた野盗どもを天秤棒で打ち据えつつ源四郎の槍さばき(実際は【銃剣道】、【銃剣格闘】)を褒める。
「ほっとけ!」
そうして三人はあっという間に野盗共をノシてしまうのであった。
――谷山――
――硝石蔵宿舎前――
「かぁ〜!あの野盗共のせいで遅くなったな!」
「そ、そうは言うが…げ、源四郎ぉ〜…ハァハァ。」
「あそこから…完全に日が落ちる前に帰って来れただけ……まだマシ…ぞ……ハァハァ。」
野盗を撃退し大急ぎで谷山まで戻った三人。
「ったく!しっかし面倒な野郎どもだったな!」
「ほんにのぉ…って、げっ!」
「ん?どーしたまたしち………げっ!」
二人が視線を送った先には…
やはり、と言うべきか…権左が待ち構えていた。
「おそかっどおはんら!なんばしょっちょった!?」
「く、蔵長…ちょいと峠で一悶着ありまして。」
「そ、そうじゃっど蔵長!」
「なーにが一悶着じゃ!どうせおはんら…」
「まぁお待ちくだされ蔵長殿。」
源四郎と又七郎が申し開きをしそれに権左が返そうとしたところで弥七郎が間に入る。
「ん?お若いの、おはんは?」
「申し遅れましたな、手前は弥七郎。親族のツテを頼りこの薩摩へやって来た浪人にありまする。」
「「(何が浪人だよ!いけしゃあしゃあと!!)」」
弥七郎の素性を知る二人は腹の底でツッコむ。
それを気にも留めず弥七郎は続ける。
「この二人とは…ちょいとした一件で知り合いましてな。夜な夜な稽古をつけておりまする♫」
「「(何が稽古だ!一方的にボコボコにしてくるくせに!!!)」」
「ほほぉ!こ奴らの相手はさぞ疲れましょうぞ、お察し申す。」
「これはお心遣い、痛み入りまする。」
「「(片手で余裕綽々のくせしくさりやがって!!!)」」
「さすれば…弥七郎殿、と申されましたな?近々【暑気払いの宴】を催すゆえ…【鶏】を運んで頂いた礼として是非お越し下され。」
「はぁ!?」
「げぇ!!」
権左からの提案にあからさまに嫌な顔をする二人。
そりゃそうである、なんだって都合よく使って終わりにする予定だった弥七郎がガチで招待されたのだから。
「なんじゃおはんら!人様に世話になっちょっとに礼もしたくなかとか!!」
「い、いえ蔵長………」
「そ、そういうわけではなかっど蔵長ぁ………」
権左の一喝に(頭に【超】と付くレベルで)歯切れ悪く返す源四郎と又七郎。
「ならばよかでないか!…とまぁ、そういうわけでお待ちしておりますぞ弥七郎殿?」
「ははは!なればご相伴に預かりまするか、では日も暮れて来た故………またの、源四郎。又七郎。」ザッ
「「へーへー」」
そう言って宿舎を後にする弥七郎をやや悪態ついて見送る二人であった…
――数刻後――
――宿舎内寝所――
「のぉ源四郎…」
「あ?」
「不味いことになったのぉ…」
遅めの夕食(と言っても残ってた飯に味噌汁かけた【マジモンの汁かけ飯】)を食べ終わり横になった二人。
そして又七郎が源四郎に、先の権左と弥七郎のやりとりのことを問う。
「そうだなぁ…」
「おやっどんや叔父御殿はおそらく奴が主膳正の倅と知ってなお泳がせちょる。それを差し引いてもそんな奴が硝石蔵ば足踏み入れたとなればどうなると思うと?」
「そりゃ袋叩き…ですみゃいいが下手したら……」
そこまで言って言葉を濁す源四郎。
「あん奴ば首は………おいかおはんで取りたいのぉ。」
「そうだな…出来れば【宴】の場ではなく【戦場】でな。」
「ホンにのぉ…」
【戦場で弥七郎に引導を渡したい】。
それは普段ボコボコにされ続ける源四郎、又七郎の切なる願いである。
だが…そうも言ってられない事態になってしまったことに少々頭を抱える二人。
「まったく弱った、弱ったど………」
珍しく頭を抱える又七郎を尻目に源四郎も一人物思いにふける。
「(島津家としちゃあ【宴】の場で高橋をヤッちまうのが一番手っ取り早い。それは分かる。けど………それじゃあ俺と又七郎はやられっぱなしで終わっちまってモヤモヤしたままだ。ていうか、大人数で囲んだところであの化け物じみた御仁を倒せるのか?それこそ………本多殿クラスの化け物だぞアイツは?確かにこっち側にも義弘公いるし場所は硝石蔵、やりようは幾らでもあるだろうけども。まぁ…思案してても仕方ねぇ、か。いざ当日、義久公達の動き次第かな。…俺としてもアイツとの幕切れはそんな形にしたくはないがな)。」
そんな状況ではあるが時は無情にも過ぎていく。
果たして源四郎と又七郎は無事に【宴】を乗り越えることが出来るのだろうか?
なんとも大胆不敵な弥七郎(;・∀・)
はてさてどうなることか。
次回を刮目して待て!




