其之二
――谷山での修行始めより幾日か過ぎた頃――
――硝石蔵の一角――
「っつかぁ!流石西国!暑くなってきたなぁ!」
「あん?そっか源四郎、おはん雪国暮らしじゃからこがなもんでも暑かか…夏が思いやられるの。」
「げ、そんなに暑いのか西国は。」
昼餉を食った後の昼休み、硝石蔵の詰所軒下で二人が語らう。
「時にさぁ又七郎ぉ?」
「あん?」
「半月後だっけか?蔵長が【暑気払い】で宴やるっていったよな?呑兵衛なことに。」
「あぁ、言ったのぉ。」
「そこでちょっと【出してぇモン】があんだよねぇ。」ニヤニヤ
何か企んだのかお得意の悪い笑顔で源四郎が言う。
「…また何か企んだか?ま、ええわ乗ったっど。」
「お♫話が早くて助かりますよ、又七郎くぅ〜ん♪」
「御託はええからなんぞ必要なんか?はよ言え。」
又七郎が訝しみつつ源四郎を急かす。
「そう急かすなって、まぁ物が入り用なんだけどな…差し当たって…【蓋付きの大きめな甕】と【黒糖】、それから…。」
「まだあるんか?それから??」
「それ。」クイ
源四郎が顎先で指し示す先には…
「それって………【松葉】ぁ???」
――硝石蔵併設厨――
「でぇ…げんしろぉ、【松葉】ば洗うのはこんなところで良かか?」
「おぅ♪あんま洗いすぎて表面の白い粉まで落としたら駄目だからそんなもんだ。」
「白い粉って…まぁたおはんお得意の【カビ】かぁ?」
「お?察しがいいな♫厳密には違うが…ま、流石付き合い長くなってきただけあるな。」
「…いっとれ。」
厨にやってきた二人はさっそく飯炊きの女将さん方に言って【大き目の甕(蓋付き)】を借り源四郎はそれを洗い(勿論真田の郷製石鹸を用いて)、又七郎は【松葉】を軽く洗う。
そんな二人を女将さん方が見て聞く。
「若、信濃の坊や。アンタたちそんな甕で何しようってんだい?」
「【梅干し】を漬ける時期はとっくに過ぎたよ?」
サイズ的には【梅干し】を漬ける用とも言える甕を貸した手前、やはり気になるのだろう。
そんな女将さん方に源四郎が答える。
「有り体に言えば【砂糖水】でござりまするよ、女将さん方♪」
「「【砂糖水】ぅ??」」
「そうでござりまする♪」
さらりと答える源四郎。
それに反し怪訝そうな顔になる女将さん方。
「あんたぁ…砂糖がどれだけ貴重か分からないのかい?」
「そうよ?いくら薩摩が【琉球】とやりとりしてて【砂糖】が手に入りやすいからって…」
やはり、と言うべきか…当然の反応をされる。
この天正年間は砂糖の一大産地たる【琉球(沖縄)】に於いても砂糖(黒糖)の精製技術は確立されたばかり。
その価値はともするとコショウなどの香辛料に並ぶものがあった。
だが…
「あっ大丈夫、大丈夫♪用意すんのこいつの実家だから♬」
「あぁん!?聞いとらんど!?!?」
「いいじゃねぇかよ?分家とは言え佐土原を預かる家久公だもん、少しくらいなら【砂糖】代もってくれるべ?」
「全くおはんは…ま、そもそも端から【砂糖】くらいおいが家からここば送られとるじゃろ。何せここは島津家そのものの硝石蔵じゃ、のぉ女将さん方?」
「えぇ若、【砂糖】そのものはそりゃあありますよ?ただやはり貴重ですから…」
「まぁまぁまぁ♫ですがね女将さん方…その【砂糖水】、世にも不思議な【砂糖水】なんだよ。なんと!口の中で弾けるのさ!!」
「「へ?」」
かかる後…
「おう源四郎ぉ、何が『試作品が出来たら味見させます故』…じゃ!にわかには信じられんぞ!?甕に【松葉】と【水】、【砂糖】ぶち込んでほっときゃその【弾ける水】ば出来るなんぞと!!」ギチギチ
「だぁ〜うっせぇな!とにかく蓋して油紙被せて後は瓷の口を紐でぐるぐる巻きにすりゃいいんだよ!!」ギチギチ
なんだかんだ女将さんたちから【砂糖(それもそこそこな量)】を分けて貰い水、松葉と共に瓷にぶち込み蓋を閉め紐で蓋ごと瓷の口を締め上げる源四郎と又七郎。
「で、こいはどんくらいほっとくとじゃ源四郎ぉ?」
「ひとまず三日くらいだな。」
「ほーん。」
「ただ作ったらさっさと冷やして飲みきらないと【どふろく】になっちまうんだ。」
「ほぉ〜そう言うもんか…さてこんだけギチギチに縛れば良かかの、仕事ば戻るど?」
「おぅ。あとは日なたに置いときゃいいんだしな。…んしょ。」ゴトッ
そう言って日なたに甕を置く源四郎。
そうして…
――3日後――
――硝石蔵――
「っっってぇえ!高橋の若、今日も人のことボコボコにしてくれやがってぇ!暇人のくせにぃ!!」ズル
「ホントじゃ!あんちくしょーめが!!いてて…」ズル
今日も今日とて早めに丁稚仕事が終わり弥七郎への【奇襲】を仕掛けるも…
やっぱりボコボコにされ今日も這々の体で戻ってきた二人。
「で当の本人は『日が落ちたらまた来るなどするなよ?俺はお前らみたいなガキ共を日に二回も相手するほど暇ではない。』とえらそうに!暇人だろうが!!」
「ほんにのぉ!!」
ぶりぶりキレながら水でも飲もうと厨へ向かう二人。
すると…
「あっ!ぼうや!!」
「ちょうど良い所に!!」
「?女将さん方??」
そこで女将さん方に声をかけられる。
「どうかなさりましたか?」
「いやね!あんたが日なたに置いてあった甕、少しどかそうと…」
「まさかひっくり返しましたか!?それとも割られました!?!?」
「そんな間抜けじゃありませんよ、薩摩の女は!」ペシッ
「いてっ!?」
食い気味に甕を割ったのか、だのと聞いたばかりに女将さんの一人に額を叩かれたしなめられる源四郎。
「なれば何が?」
「それがね、運ぶ時にちょっとした拍子に甕の口の紐がほどけてさ、そうしたら…【プシャ!】っと湯気?みたいなのが出てきて!」
「!それでその後はどうなされました!?」
「へ?すぐ蓋を閉め直してまた口んとこに紐かけたけど??」
「そいつは重畳!女将さん方、ありがとうござりまする!」
鼻息荒く女将さん方に礼を言う源四郎。
そんな源四郎を見て又七郎が問う。
「何をそんなに鼻息あろうしとっがじゃ源四郎?おいには何が何だか…」
「あああ、細かいことは後で教えたる!又七郎、蔵の端っこの方にすげー冷たい湧き水出てるとこあったよな?」
「お、おぅあるど??」
「そこに甕運んで半刻ほど冷やすぞ♫」
「あぁ?せっかく日当たりのいいところで温くしとったモンを冷やすとか?」
「いいから早くしろ!なぁに、中で出来上がったモン飲めば高橋の野郎にコテンパンにされた痛みや疲れ、たちどころに吹っ飛ぶぞ?」
「あぁん?ホントじゃろうな……」
そうして半刻後…
――硝石蔵、湧水場――
「げんしろおおおおお!おかわりじゃ!おかわりばよこさんかぁ!!!!」
「しー!叫ぶな馬鹿!蔵長にバレんだろうが!!」
「でも本当に美味しいねぇコレ♫」
「ほんにねぇ♫ぼうや、コレなんて言うんだったっけ?…さぃたぁ?」
「ははは♫【サイダー】ですよ、女将さん方。」
四人が湧水場にて冷やした【甕の中身】を味見する。
聡明な読者諸君は気づいていたろうが…
こうして源四郎が作り上げたのは【松葉サイダー】である。
これは松葉表面についた天然酵母に砂糖(黒糖)を餌として与え炭酸ガスを発生させるという手法で作り上げた簡単かつ材料や機材も戦国の世で入手できるモノでつくれる優れモノである。
「(まぁ、適度に【ガス抜き】しねぇと甕が炭酸ガスが生成され始めたら圧力で割れるってリスクはあるが…今回は女将さん方様々……だな♫)かぁあ!美味え!!」ゴクゴク
「おう源四郎!自分ばっか飲むんじゃなかと!!ほれ!!」
「だぁ〜〜〜!うっせぇな!今注いでやっから湯飲み出せよ!!」トクトクトク
甕の中のサイダーを差し出された湯飲みに注いでやる源四郎。
「しっかし源四郎ぉ、こいは確かに美味か飲みモンじゃが…蔵長達は呑兵衛ぞ??」ゴクゴク
「…酒の味知らねぇから仕方ねぇか。あのな又七郎……これで冷やした焼酎割ったらそれはそれは美味くなると思わんか?」
「…!!っぷはぁ!!なるほど!そいは良い!!源四郎ぉ、おはんやることに抜け目がなかっどな!!」
「あ〜確かに!ウチのも喜びそう。」
「そうねぇ!」
【松葉サイダー】を割材としたいわば【焼酎ハイボール】を供するとの源四郎の案に賛同する又七郎に女将さん方。
「そして又七郎く〜ん…次は【つまみ】作んだぞぉ〜?」ニヤリ
「………まだ何ぞするんか。」
――翌日――
――谷山の塩焼き小屋――
「こんにちわ〜。」
「邪魔すっど。」
「ん?おぉこれは若と…信濃の坊主!なんじゃ、女将さん方に塩買って来いとでも??」
塩焼き小屋の亭主が二人に気づく。
二人ともここいらでは【若】、【信濃の坊主】と呼ばれ界隈の者から可愛がられていた(二人としてもそんな谷山の民達の役に立とうと流れ者の悪漢などを【修行】がてら蹴散らしたりしている…それも子供とは思えぬほど徹底的、圧倒的に。そんな訳で二人は陰で【佐土原が対の化生】などとも呼ばれ始めていた。)
「うん、それもそうなんだが…おっちゃん、塩作る時に出る【汁】、貰えないかな?」
「んん?虫下しでもするのか??」
「まぁそんなとこ♫」
源四郎のいう【汁】、つまり【にがり】は戦国の世では虫下し…ようするに【下剤】として使われていた…普通は。
「ほいよ。竹筒二つもありゃ足りるか??」
「うん、ありがとうなおっちゃん♫さて、はよ帰るぞ又七郎!」
「おう。」
「(そんなに虫下しが必要な奴が出たのか?)気ぃつけて帰れよぉ。」
腹を壊した者が多量に出たのかと訝しむ亭主を他所に硝石蔵へと急ぐ二人。
この後源四郎が作り出す【大豆製品】のおかげでこの亭主を始め近隣の塩焼き小屋が忙しくなるのはまた別のお話。
――硝石蔵併設厨――
「あぁお帰り若、それに【源四郎】ちゃん。」
「言われた通り【水に浸した大豆】、タライに石臼乗せてウチの亭主共に引かせて、布袋入れて絞らせといたよ。あいつら『重てぇ!』なんてひーひー言ってたけど♫」
「おう。」
「ありがとうございまする女将さん方♫」
厨へ戻ってくるなり女将さん方に声をかけられる二人。
「では…それなる【汁】を鍋へ。」
「「はいはい♫」」
テキパキと源四郎が用意した鍋へ【大豆の汁】を入る。
「で、源四郎?これから沸かぬ程度にこん【汁】ば煮ていけばよかか?」
又七郎が竈に火を起こしながら尋ねる。
「そうそう♪」
「なるほどのぉ…」
源四郎の指揮のもと、皆がテキパキ動く。
そんな時だった。
「…たまに顔を見に来てみれば!おはんら!男児が厨に入り浸るとは何事かぁ!!!」
「「あっ!」」
「げー!?義弘叔父!?」
「ん?」
厨の入り口を見やる一同。
そこには義弘が仁王立ちしていた。
「お、お、お、叔父御どの!これには訳が!!」
「義弘様!どうか!どうか若を責めないで下さいまし!」
「そうです義弘様!これはわたくし達の手が足りず二人が…」
「…。」ポリポリ
必死に申し開きをする又七郎とそんな又七郎をかばう女将さん方。
そんな三人を尻目にこめかみ辺りをポリポリかく源四郎。
「…三人はこう申しておっとが、おはんは何か言いたげだの源四郎?」
「はい義弘公。」
「ほぉ、この期に及んでまだそったら態度か。では申してみせぃ。」
「まず我が祖父とは異なることを申されますな、と。」
「我が祖父…じゃと?」ピク
義弘の眉が上がるが気にせず源四郎は続ける。
「はい、我が祖父一徳斎にございまする。義弘公もご存じで?」
「無論じゃ!一徳斎殿の武名はこの薩摩まで届いとったわ!!よもや知らぬとか、源四郎!?」
「知りませぬ。それがしや兄弟には【孫思いの好々爺】と言う面しか見せぬじいさまでありますれば(マジか!じっちゃまの勇名は遠く薩摩まで届いてたか!!すげーな!俺誇らしいぜ全くよ…!!!)」
祖父一徳斎の勇名が遠く島津、その軍部の最高指揮官たる義弘の耳にまで届いていたことが内心誇らしくなる源四郎。
そこで続けて義弘が問う。
「して源四郎?在りし日の一徳斎殿はおはんになんち言うとったとじゃ?」
「はっ。祖父一徳斎は常々こう申しておりました…【家族を、家中のものを飢えさせるは武士の恥】と。そして我ら兄弟が腹が減ったと申せば自ら厨に立ちなんぞ作って食わせてくれました。」
「な、なんと!?かの一徳斎殿がか!?」
「はい。(…まぁ実際作れたのは焼きおにぎりにそばがき、団子汁くらいだけどね。)」
在りし日の一徳斎とその手料理を思い出す源四郎。
その不格好ながら温かみのある料理に幾度となく満腹にさせられたことか…
すると義弘が笑い出す。
「がはははは!確かに道理ぞ!!一時は泥にまみれ浪人に身を落としながらも家族を食わせ小県を取り返した一徳斎殿が言うなればなおのことよ!!!よかよか、存分に料理に励め源四郎!又七郎!!」
「は!(やったぜ、うまく治まった)」ニヤリ
「あ、ありがとうござりまする叔父御殿。」ホッ
「「ふぅ~…」」
上手く事を治めしたり顔の源四郎。
そして事の成り行きを見聞きしていた又七郎、女将さん方は胸を撫で下ろす。
が。
「じゃがの源四郎。」
「はい?」
「今なんぞ試しに作っとるんじゃろ?わしにも食わせぃ!」
ズルッ
一同が義弘の食い意地にずッコケる。
「わ、分かり申した。」
――壱刻後――
「出来ましたよ義弘公♫」コトッ
「うむ!…って源四郎、これは?」
源四郎が小さい鉄鍋と板皿、小鉢で供したそれは…
「【厚揚げ】と【木綿豆腐の湯豆腐】、それに湧き水にて冷やしたる【絹ごし豆腐】…【冷奴】にござりまする!」
「こ、これらが【豆腐】となぁ!?」
義弘が目を丸くする。
無理もない、当時の豆腐と言えば中国で食されるような水分量の少ないモノであったが源四郎の作った【木綿】、【絹ごし】はそれらとは一線を画すいわば【食えるオーパーツ】なのである。
「まぁまぁまぁ!ささっ、義弘公。冷めぬうちにまずは【厚揚げ】をば♪」
「む、むぅ…これはなんとも茶色いが?」
「えぇ、これは【揚げ物】と言う技法にござりまする。」
「【揚げ物】?」
「熱した多量の【菜種油】に食材を泳がせる技法、とでも申しましょう♪」
「な、なな、ななな…なんと!?おぬし!【菜種油】はあかりば灯す貴重なモノぞ!?そいを食いもんば泳がすのに使ったとな!?!?」
またも驚く義弘。
【菜種油】といえば当時は所謂【燃料】、しかも貴重品。
それを多量に調理の為に使ったのだから当たり前の反応である。
「まぁまぁまぁまぁまぁ!百聞は一見にしかずと申されましょう?」
「ぬうううう!これで不味かったら承知せぬぞ!全く…ん?しかし何とも香ばしい匂いじゃ!それに上に乗せたるはネギにすりおろした生姜とな?そこに【垂れ味噌】ばかけたと見える…まぁよい、頂くか。」バク
「…。」
義弘が【厚揚げ(揚げたて)】を口に運ぶのを見守る源四郎。
そして…
「…!んー!んーー!!」バクバクバク
熱かったのだろうか?それでも箸を止めずバクバク食べ進める義弘!
「…………熱い!なれど美味し!!!」
「ひひひ♫」グッ
義弘の「美味し!」の言葉にガッツポーズを決める源四郎。
そこへ…
「ほんに美味かったど源四郎!…いささか熱かったけどの。」
「あー!又七郎てめぇつまみ食いしたなぁ!?」
又七郎が器に盛られた…【がんもどきの煮物】を持って現れる。
「まぁえぇじゃろうて。しっかしこの【がんもどき】なるモンの煮物は面倒じゃのぉ!おはんが『煮る前に湯ばかけろ』なんて言うからじゃっど?」
「ばーか!そうしねぇと脂っこくなっちまうんだよ!」
「そういうもんかのぉ。」
「なんじゃなんじゃ!まだあるのか源四郎!?【がんもどき】とはなんじゃ!?」
「はっ、義弘公。聞いての通り【がん】、その【しんじょ】を【豆腐で真似てつくったモノ】でありまする♫」
「ほほぉ!それも食わせぃ!」
「その前に…又七郎、【タレ】持ってきたか?」
「おう!叔父御殿、これなる【タレ】にてその【湯豆腐】を食うてみるとよか………とのことです。」コト
又七郎が【タレ】の入った椀を義弘の前に置く。
「コレは…んん!【垂れ味噌】に橙ば搾ったものか!?」
「御明察でござります義弘公♫」
「うむ!では…ハフハフ。」
少し冷めたとはいえまだ熱さの残る【湯豆腐】を頬張る義弘、そして…
「…うん!これまた美味し!先の【厚揚げ】と同じ【大豆】ば使ったモンとは思えんど!!」
「そうでござりまするか♪」
義弘の反応に嬉しくなる源四郎。
「さて次は…この【冷奴】なる豆腐を…これも【垂れ味噌】をかけるのじゃな?」
「はい♫」
「なればこのくらい…では!」
「あっ!義弘公…」
ポロッ
源四郎が言うより早く、義弘の箸から【冷奴】が落ちる。
「な!?なんと脆い【豆腐】じゃ!」
「叔父御殿!お召し物が!!」
「あ〜よかよか。召し物など後で拭えばよかよ…では改めて。」パク
食い意地が勝るのか、召し物が汚れたのも気にも留めず【冷奴】を食す義弘。
「…ぬうううううう!」
「お、叔父御殿!?」
「なんたることじゃ又七郎!こいは…【絹ごし】はこっちの【木綿】とちごうてつるりと滑らかな口当たりぞ!!そしてやはり美味い!!!」
「なんと!?」
「ニシシシシ♫」
目を丸くする義弘と又七郎を見てニカっと笑う源四郎。
そんな源四郎に義弘が問う。
「源四郎!これなる食いもんはみな先ほど煮たてておった【大豆の汁】ば使って作ったんじゃろ?」
「はい、左様にござりまする。」
「なれば何故!?何故かように全く違う出来映えに!?!?」
生まれて初めて見て、そして味わう【木綿】と【絹ごし】への当然の疑問を源四郎にぶつける義弘。
そうして源四郎は答える。
「ふふ♫それはですね義弘公…煮立ててから【固める】工程に違いがありまする♪」
「んん?」
「まず【大豆の汁】を煮るところまで一緒でありまするが…【木綿】はその煮立てた汁が少し冷えたところで塩を作る際に出た出がらしの汁…【にがり】を加え少しほっておき、かたまり始めたポロポロしたものを掬いその名の通り木綿布を敷いた木型に入れ重石等で水気を飛ばしつつ押し固めまする。」
「ほうほう。」
「対して【絹ごし】は【にがり】を加えた後すぐに木型に流し入れて固まるまで待つだけにござりまする。」
「なんと!つまり【木綿】は寄せ集め、【絹ごし】は汁そのまま…と言う事じゃな?」
「その通りでございまする!」
「がははは!なれば先程の口当たりの違いも納得よ!」
義弘が製法の違いだけで【木綿】と【絹ごし】、全く違う食感の違いを生むことに感服しつつ笑う。
そこに源四郎が続ける。
「では義弘公、そろそろ【がんもどきの煮物】に味が染みて来たところでありますれば…」
「うむ!頂こう!」パクッ
今回作った【がんもどき】は割と大きめながら、それを一口で食べる義弘。
そしてやっぱり…
「うーーーーーーーーーーーまーーーーーーーーーーい…ぞーーーーーーーーーーーー!」
「…どっかで聞いたことあるの出ちゃった。」
義弘、今日イチの美味いが飛び出す。
そしてかかる後…
「で…如何でございましたか?義弘公??」
「…ふっ!みなまで聞くでないわ!みな美味であったわ!!」ズズズッ
試作の【豆腐料理】の感想を聞く源四郎。
それに対し茶を啜りつつ「是非もなし!」と言わんばかりの返答をする義弘。
「それは良ぉございました♫」
「だが源四郎よ、これなる料理は暑気払いの宴に出すものよな?お主の事よ、まだ何ぞ出すのであろう??」
「おやおやバレましたか♫」
「この期に及んでまだ何か作るとか?」
義弘の勘ぐりに素直に答える源四郎。
それを傍で聞いていた又七郎が問う。
「まぁな。だがそれは当日までのお楽しみ、って奴だな。」
「かっかっか!それは楽しみじゃな。暑気払いにはおいやあにょどんも来るからな?楽しみにしとるぞ!ではおいは行くとする、馳走になった!!」スッ
「はい。それがしも楽しみにしておりまする。ではお気をつけて(ちょ!?義久公来るとか聞いてないけど!?!?)」
突然の義久来訪を聞き動揺しつつも義弘を送り出す源四郎であった。
――半刻後――
――硝石蔵厨――
「ったくいきなり義久公も来るとか言うなよな。」ジャッジャッ
諸々の片付けを終え源四郎が鉄鍋を煽りつつ一人呟く。
「………で?おはんはまたそんな【大豆汁の搾りかす】ば使って何しとんじゃ??」
鉄鍋を振るう源四郎を見ながら又七郎が問う。
「あぁん?いいか又七郎??この絞りかすこそ【身体づくり】にゃ大切なんだよ。でこれはそれを煎りながら味付けてんだ…よし、出来た。」
そう言うと源四郎は【大豆の絞りかすことおから】で手早く【ふりかけ(干しアミと炒り胡麻入り、垂れ味噌味)】を完成させる。
「ほーん、まぁよか。とりあえずその出来上がったもん食わしてみるとじゃ。」
「へいへい。したら飯持ってこい。」
「おぅ。…ほれ。」サッ
作っているものが飯のおかずと分かっていたのかそばに置いてあったお櫃から飯をよそい源四郎へ渡す又七郎。
「かぁ〜!食い意地張ってんなぁ!ほれ」パラッ
義弘同様の食いしん坊ぶりに呆れつつ飯に【ふりかけ】をかけてやる源四郎。
「ほっとけ!では頂くど。………。」ガツガツ
そう言って一口食べた途端ガツガツとかき込み始める又七郎。
「…とりあえずまだあるから好きなだけ食え、俺は出てくる。」スッ
そう言うと小さめのお櫃に【ふりかけ】を入れ出かけようとする源四郎。
「んぉ?どこば行くとじゃ??」
「高橋んとこ。」
「んぁ!?あのバータレにも食わしてやるとか!?!?そこまでしてやる謂れはなかぞ!」
「じゃあ聞くけどよ又七郎ぉ…」
「んぁ?」
「そこに積んである【おから】、この硝石蔵の人たちだけで食い切れると思うか??」
今回の【豆腐料理】の作成で出た山盛りの【おから】を指差し源四郎が言う。
「う゛。」
「畑に巻くって手もあるけど…ここら辺に今肥えの必要な畑ないだろ?」
「ぬぅううううううううううう。」
「な?」
「あああああ!なんとも嫌味な奴じゃのおおおおおおおお!!好きにすればよか!!」
源四郎がド正論パンチで又七郎を攻め立てる。
そうして堪らず折れる又七郎。
「とりあえず鍋の中身は食い尽くしてもいいけど…食べ終わったら洗っとけよ?じゃ、行ってくる。」タッ
そうして厨を後にする源四郎。
そこからしばらく後…
――古寺の庵前――
「さて、それでは頂くとするかの。」
「おぅちょっと待て。」
弥七郎が夕餉に手をつけようとしたタイミングの良いところで源四郎が到着する。
「なんじゃ源四郎?又七郎はどうした??」
「又七郎も飯食ってんだよ。ほれ。」グイッ
そう言いながらお櫃を差し出す源四郎。
「ん?これは??」
「飯のおかず、食い終わったら洗ってかえせよ?」
「ほほぉ、殊勝な奴じゃの。相手してもらってる礼か?」
「そんなとこ。つーか【毒】入ってねぇかとか聞かねえの?」
「ははははは!おぬしらの気性を考えればいらぬ心配であろう?」
「まぁね。じゃまたね。」ザッ
そう言い残し庵を後にする源四郎。
「さてと、なれば食うてみるか。……んん!これは中々甘辛くて飯が進む♫」パクパク
そう言いながら【おからふりかけ】をかけた飯を頬張る弥七郎。
こうして源四郎の暑気払いの宴へ向けた準備は着実に進むのであった。
…なんか某グルメ漫画の様相を呈して来ましたがご覧の小説は【信濃の修羅】です(;・∀・)
さて、次回は宴回となります!
刮目して待て!




