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第41話 王都での一日(前半)

 宰相さんも仕事があるということで、食堂を出ていき、わたしはひとりぼっちになってしまった。お世話をしてくれる侍女のひとは何人かいるのだけれど……。

 そう、やることがないのである。

 王妃になったから、江戸時代の大奥みたいな女の世界が広がっているのかもしれないとビクビクしていたが、それは杞憂だったようだ。彼女たちはとても親切だし、同僚同士で嫉妬に狂う様子もみられない。とくに、決まった礼式があるわけでもないので、わたしも自由に過ごしてよいそうだ。


 だから、わたしは自由の身だ。しかし、自由すぎて、なにをすればいいのかわからない。そもそも、この世界には、スマホもないし、マンガもない。さすがに自由にショッピングに行くこともできない。

 暇なのだ。仕事人間だったわたしにとっては、暇というのは最も忌み嫌う時間だ。なにかしたい。

 貧乏性だといわれてしまうかもしれないが、そういう性格だからしかたない。


「本でも読みたいな~」

 椅子に座りながらわたしはひとりごとをつぶやく。たぶん、この世界の本は読むことができると思う。馬車からみえた看板の字はまんま日本語だったし……。

「なら、図書館にでも行きませんか?」

 突然の声にわたしはビクッとした。

「えっ……」

「あっ、申し訳ございません。つい、王妃様の声が聞こえてしまって……」

 侍女のなかでは一番若い子だった。たぶん、わたしよりも年下のはずだ。


「ごめんなさい、ちょっとビックリしただけです。ええと、」

「リリイと申します」

「そう、リリイさん。よかったら、図書館に連れていってもらえるかしら?」

「はい、よろこんで」


 図書館は、城の南館にあった。自分の寝室から、5分くらいの場所だった。

「こちらが、図書館です」

「ありがとう」

「どんな本を読みますか?」

「そうですね。この世界の歴史について書かれた本が読みたいかな?できれば、簡単なものがいいです。あと、料理の本」

「わかりました。では、用意してきますね。椅子に座って待っていてください」

「ありがとう」


 わたしが図書館に入ると、そこにいた者が驚いて、立ち上がった。

 しまった。わたしは有名人だった。

 みんな直立不動で立っている。

「みなさん、そんな気をつかわないでいいですよ。どうぞ、ごゆっくり……」

 とっさに出た言葉だったが、とても効果的だった。みんな緊張を解いて、再び本を読みはじめた。

 まさか、ここまでわたしが王妃に成りきれるとは……。来世は女優にでもなりたいかもなんて、思っていると、リリイが本を探して持ってきてくれた。

「いま、借りてきました! こちらで読みますか?」

 みんなの視線がちらちらと痛い。

「帰ってゆっくり読みましょう」

 わたしは視線に耐え切れず、そう言った。本当に王妃になってしまったんだな~

 謎の感慨にふけりながら、わたしたちは図書館を後にした。


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