第4話 (SIDE 瑠偉)男子になりすました結果、思わぬ副産物に気付きました
小さな頃から、『瑠偉ちゃんは可愛すぎて心配ねえ』と散々言われてきた。
幼稚園に入るちょっと前、知らないおじさんに連れていかれそうになった。
それから、両親は私に女の子ではなく男の子の格好をさせるようになった。
脩くんと出会ったのは、ちょうどその頃のことだ。
『……おまえ、いつもひとりだな』
名前も『瑠偉』で男の子っぽい。
見た目も男の子の格好。
幼稚園のクラスの女の子からも男の子だと思われていた私は、女の子のグループに入れてもらうことができず。
じゃあ男の子と仲良くしたかというと『おまえ、ナヨナヨしてておんなっぽい!』と言われて、男の子のグループにも入れてもらえなかった。
だから自然と一人で遊ぶことが多くなってしまった、そんな私に、声をかけてくれたのが脩くんだった。
『しゅうくん、まって〜』
そう言って私がよたよたとついてまわっても、脩くんはいつも嫌な顔ひとつせず私に付き合ってくれた。
『わぷ』
『おまえ、どんくさいなあ』
『ねえ、しゅうくん。おおきくなったら、るいとけっこんしてくれる?』
『ばかだなあ、るい。おとこどうしはけっこんできないんだぞ』
そう言いながらも、私のことを守ってくれる脩くんのことを、いつしか私は大好きになっていたのだ。
◇
『えっ? 脩くんが有明高校に?』
『そうみたいよ』
その話は、たまたま母親と話していた時に聞いた。
小学校に上がる頃から両親について海外に行った私は、幼稚園以来脩くんと会うことはなかった。
でも、私の中ではずっと心残りだったのだ。
本当は私も、脩くんと同じ小学校に行きたかった。
中学校も、高校も。
脩くんが有明高校に進学することを知った私は、決めた。
そして、両親を説得した。
私も、高校は有明高校に行く――と。
当然、親には大反対されたけど、粘りに粘って何とか許可を得ることができた。
有明高校が伯母が理事をしている学校だったというのも後ろ盾として強かった。
どうやら脩くんの入学情報もその関係で入ってきたらしい。
男子校に入るというアクロバットも、伯母に頼み込み、伯母の力を使って捩じ込ませてもらった。
ついでに――、脩くんと同じ部屋にしてもらうのも。
他の誰でもない、この人と一緒の部屋が一番安全だから、とプレゼンして。
あの時は必死だったからなりふり構わずだったけれど、振り返ってみるとよく許してもらえたなと思う。
馬鹿げている――、とは私だって思う。
女の子が、男の格好をして男子校に行くなんて。
大体きっと、脩くんだって私のことなんて覚えてない。
だって、幼稚園で一緒だっただけで、その後連絡もほとんど取っていないのだ。
でも――。
◇ ◆ ◇
「……あれ? 俺たち初対面、だよな」
「塩浜幼稚園……、真瀬……瑠偉。あー! あのルイかあ!」
脩くんが私のことをちゃんと覚えていてくれたと知って、もの凄く嬉しかった。
脩くんが来るまで一人で寮部屋で待っている間、とても緊張したけど、無理をしてでもきてよかったと心から思えた。
そして――。
(ううう、やっぱり脩くん、大好きすぎる……!)
心の中でじたばたと悶える。
かわいい、かっこいい、かわいい、そしてかっこいい。
誰が何と言おうと私の中では最高に格好いいし、最高に可愛いのだ。
一つ。まず雰囲気が好き。
二つ。なんだかんだ優しいところが好き。
三つ。全部好き。
あああああ〜〜〜〜〜〜!
これから脩くんと一つ屋根の下で生活できると思うと……!
大丈夫かな?
私、死んじゃわないかなあ?
死なないけど!
脩くんとの同室生活なんておいしすぎる状況で、絶対に死なないけど!
脩くんに、『脩くんのこと、脩、って呼んでいい?』と尋ねたらあっさり許してくれた。
――脩。
えっ、なんか付き合ってるカップルみたいで萌える!
どうしよう……。
しゅう、って響きだけでもう可愛くない?
はわわ…………!!
脩くんと再会した瞬間から、萌えが止まらない。
私の頭の中は常に大フィーバーだ。
嬉しいことは他にもあった。
実際にこの有明高校に来てみて、予想外の副産物があったことに気付いた。
まず一つは、他に女の子がいないということ。
当たり前だけど、敷地内には男の子しかいない。
なので、脩くんが他の女の子から好かれる可能性が皆無なこと!
そして私が脩くんを独り占めできること!
これは本当に、脩くんに『男子校を選んでくれてありがとう!』と思ったことの一つだった。
ライバルがいない。
世間では、競争相手の多い場所をレッドオーシャン、少ない場所をブルーオーシャンと言うらしい。
だとすると、ここはまぎれもなくブルーオーシャンだ。
だって、競争相手となる女子がいない。
こんなに綺麗すぎるブルーオーシャン、他にある?
私の他に可愛い女子が脩くんを狙うのをみて、ヒヤヒヤハラハラすることの全くない聖地。
ああ……!
無理をしてこの学校に来て、本当に本当によかった……!
そしてさらにもう一つ。
この学校にきてよかったと思ったこと。
それは――男の子のふりをしていれば、どれだけ脩くんにくっついても、合法的に許されるということだ。
ちょっとくらい距離が近くても、『男同士だし別にいいじゃん!』で押し切ればいける。だいぶいける。いや結構いける。
最初は少し様子見しながら脩くんにぴとぴとくっついてみたが、『しょうがないやつだな』みたいな顔で苦笑しただけでなんだかんだ受け入れてくれた。
――え、天国?
試しに色々とくっついてみたけど結構いける。
脩くんの優しさにつけこんでいる自覚はあるけど、これは思わぬ副産物だった。
でも、こないだ思い切って『朝のハグしよう』と言ってみたけど、それはやんわりと『保留』と言われた。
でもいける。アレはいけるね。多分押せばいけるやつだ。
挫けずにまたトライしてみよう。




