第2話 ルームメイトの、正体を確認します
――人間、一度気になりだすとどうしても気になってしまうもので。
「脩、あのさ。慣れるまで一人でいるの怖いから、なるべく一緒にいてくれる? いいよね? 幼馴染だし男同士だし」
潤んだ目できゅっと俺の袖を掴んで見上げてくるの、可愛すぎんか?
「脩、ちょっと耳貸して」
そう言って、両手を口元に当ててくるのも、やたら可愛い。
「しゅううぅぅぅ! やだぁぁ! 黒い虫が出たよお!」
驚いて、俺の背中に抱きついてくるの――以下省略。
いや!
無理だわ!!
もはや気になりすぎて寝れないのだが!
普通、男があんなに柔らかかったり華奢だったりするか!?
あんな……、あんないい匂いさせて……!
俺を惑わせるようにくっついてくるか!?
いや! 人によってはそういう男もいるかもしれんが!
……白黒はっきりつけよう。
これ以上このままでいたら、俺、どうなるかわからん。
というか、こいつに何しでかすかわからん。
だったらいっそ、はっきり『瑠偉は男だ』と確証が得られればもっとすっきりする。はずだ。
そう思いながら、夜中、寝静まった部屋の中、音を立てないように静かにむくりと起き上がる。
「うぅ〜〜ん……」
向かいのベッドの前に立つと、瑠偉は上掛けを半分まくり上げて、半身をさらけ出して寝ていた。
……こいつ、寝相悪いな。
でもなんか、そんな寝相の悪さというか、ちょっと口元に手を当てながら寝てるのとか、妙に可愛い……、っておいおい!
違うだろ!
俺は今、こいつが確かに男だってことを確かめに来たのだ。
正気を保て、俺……!
危うくまたルームメイトの可愛さに流されそうになった自分をぺしぺしと叱咤する。
……よし。ちょっと、胸とか見てみるか。
ちらっと。
ちらっとパジャマを捲ればいい
それで全てわかるはずだ。
そっと、さりげなく瑠偉の肩を押して仰向けにする。
「ん、っ……」
瞬間、瑠偉があげた声にドキッとする。
お前……! そんなやらしい喘ぎ声みたいなのだすなよ……!
ドキッとするだろうが……!
しかも、仰向けにさせたせいか胸を反らしながらもぞりとみじろぎしたのがなんだか妙にエロくて、思わず目のやり場に困る。
「ん〜……」
もうやだ……。
ん〜、じゃないよ、お前。
思わずいけない気持ちになりそうになるのを必死で我慢する。
……いっそ、上から触ってみるか? 胸を。
………………。
そろ、と瑠偉の胸元まで手を伸ばして、直前でぴたりと止める。
え……、どうしよ。
もうちょっとで触れる、けど。
……男だって。
男だって言ってたし。
大丈夫、だよな……?
呼吸で上下する瑠偉の胸に触れるか否かの場所で、黙考する。
――いや。
とりあえずは、一旦パジャマをめくってみよう。
きっとそこには、平たいただの胸がある。
うん。
逃げじゃない。逃げじゃないぞこれは。
戦略的撤退だ。
急いては事を仕損ずる、ってやつだ。
決してビビったわけなんかじゃない。
ないんだからな…………!
そう思いながら、今度は比較的しれっとパジャマをめくる。
………………さらし?
瑠偉の腹から覗き込んだパジャマの中には、胸元にきっちりと巻かれた白い布があった。
こいつ、なんでさらしなんて……。
そう思いながらよくよく見ようとするが、しかしやはりパジャマの裾から覗き込もうとすると残念ながらよく見ることができない。
……ボタン、外すか。
下から覗いていては見てもよくわからない。
そう思った俺は、うるさく鳴り響く心臓に静まるよう祈りながら、おそるおそる瑠偉のパジャマの前ボタンを外す。
なんか……、気持ち、胸元が盛り上がっているような……。
気のせいかな……?
男にしては腰が細すぎるような気もするし、お腹もぺったんこで筋肉も何もない。
目の前で、すべすべして触り心地が良さそうな白い肌が蠢いているのにごくりと息を呑む。
……さらし、取るか?
いやでも……、さすがにそこまですると、瑠偉も起きるよな。
しかもそれで、俺に実は女だって疑われてたって知ったら嫌な気持ちにさせるかもしれないし……。
となると。
残る方法は一つ。
――下だ。
とりあえず、まずはパンツを確認する。
うん。そうだ。
一応、念の為、男物のパンツを履いているかどうか確認するだけだ。
男が男のパンツを見て何が悪い。
だって男だぞ。
「…………ふう」
ことを起こす前に、心を凪にする。
心頭滅却せよ。
無だ。無になるのだ。
俺は一陣の風だ。
風に意志はない。
ただ吹いて、そこにあるものを見つめるだけ。
風は、エロいものを見ても何も感じないし、何も立たないのだ。
――よし!
ぐっ、と。
瑠偉のパジャマのズボンに手を掛ける。
「うぅ……ん」
瑠偉が寝返りをうつタイミングで、さっとズボンを下ろす。
そうして、そこから現れ出てきたもの。それは――。
「ボクサーパンツ……」
一応、見るに、男物には見える。
ということは、やっぱりこいつは男だった、ということか……?
……………………、うん。
だよな。そういうことだ。
瑠偉は男だった。
答えはそれが全てだ。
なんだか妙に、ボクサーパンツから伸びでる足が擦り合わされるのが色っぽくて艶かしく見えるのが気にならなくはないが、こういう男もいるんだろう。
悪かったな、瑠偉。
女だなんて疑って……。
そう思いながら、ふっ……、と悟りの境地に達した俺は、下ろした瑠偉のズボンを元に戻そうとした。
その時――。
「う、んん〜〜……」
腰回りを外気にさらしていたのが冷えたのか、再び瑠偉がみじろぎをした――その際に、瑠偉の股間が、俺の手首の辺りに触れた。
こしこしと――擦り付けられるように。
そうして。
俺は。
真実を知った。
(――――無い)
無かった。
アレが。
もう一度、念の為。
今度は確認のために、意志を持って本来男の逸物があるべきところに触れる。
しかし――。
(……無い)
念の為、小さすぎて確認できないのかと念入りに確認してみたが、そもそものアレが存在しなかった。
ひゅっ、と。
冷たいものが背筋を通り抜ける。
「ん……っ」
目の前には――、ベッドの上で、仰向けで。
パジャマの前ボタンを全開にして、悩ましい姿で寝息を立てる瑠偉。
ふっくらと柔らかく膨らんだ、そのさらしの下に何があるのか。
そんなのはもはや、わざわざ確認せずともわかることだった。




