第9話 白いレースの下着ならいいが、赤いレースは許しません
……これ、何の人だかりなんだ?
「あっ、来た……」
手近な誰かに尋ねようかと見定めていたら、俺たちが来たことに気付いた男子生徒が、こっちを見てそう言った。
……来た?
明らかに、俺たちを指して告げられた言葉。
すると、モーセの十戒みたいに、わさわさわさ〜〜っ、と人混みが開けた。
ええ……?
マジでこれ、何の人だかりなん……?
都合よく、谷とかがいてくれたら助かったんだけどな。
情報通の谷なら真っ先にこの状況を教えてくれただろうにと思いながらも、残念ながら目に付く範囲に谷は見当たらなかった。
そしてさらに残念なことに、話しかけられそうなクラスメイトも見当たらない。
「……なあ、これ。何で集まってんだ?」
端的に、誰にと定めずに、その場にいる全員に向かって問いかける。
この学校の寮は学年ごとに棟が分かれているので、現在俺たちがいるのは同級生しかいないのだ。
故に敬語はナシでタメ口である。
「……それが。どうも、洗濯室の中に女物の下着が落ちてたらしくて」
「女物の下着?」
俺の、その言葉に。
視線が、俺ではなく瑠偉に集中したのがわかった。
ああ――、なるほど。
なるほどですね。
さっき、俺たちを見て『来た』と言ったのは、俺に対してではない。
瑠偉に対してだったのだ。
女物の下着が出てきたことで、誰の物かが議題にあがり――。
一番可能性が濃厚そうな人物の話題を口にしていた。
そして、その人物が現れたので『来た』と言ったのだ。
差し詰めそんなところだろう。
「え……、何……?」
周囲からの視線が一気に集中したことで、瑠偉が怯えた様子を見せながら俺の後ろに隠れる。
「あのさ、お前ら、これに見覚えとかってあったりしないか……?」
そう言って一人の生徒が俺たちに向かって広げて見せてきたのは、真っ赤なパンツだった。しかもスケスケの。
ほとんどレースで出来ていて『これを履いても何も隠せないのではないか?』と思うほどの、大胆なやつ。
「俺たち、みんなで話してたんだけど。……真瀬くらいなんじゃないかって。このサイズのパンツを履けるここの生徒って」
……おい。お前ら。
なんちゅー話をしとんねん。
確かに、言わんとすることはわからなくはない。
そのうすっぺらい布切れは、普通の男子には到底履くことのできなそうな小ささだったし、そもそも履く想像さえしたくない。
しかし、だからといってそんな下世話な話に、瑠偉を議題に出されているのは憤慨ものだった。
いや、俺ももしこいつと赤の他人だったら言ってたかもしれないけど……。
「何言ってんだ。こいつがそんなの履くわけないだろ。男なのに」
故に、俺は堂々と言ってやる。
瑠偉が――そんな物を履くわけないと。
そもそも、こいつの洗濯物を一番見る機会が多いのは俺だが、こいつは普段もボクサーパンツで徹底しているのだ。
いや、俺だって時々、
『瑠偉? たまには女の子らしい白いレースのパンツを履いて、うっかり部屋に落としちゃったりしてもいいんだぞ? 俺、見なかったことにするし……』
とか思ったりもするが、残念ながらそんなラッキースケベは存在しない。
俺が最初に瑠偉が男か女かを確認した時もそうだったが、ボクサーパンツ以外のものが洗濯物の中から出てきたのは見たことがないのだ。
いいか悪いかはさておき、そういう点については非常に徹底しているんですね、コイツは。
……それに。それにだ。
うちの瑠偉が、そんな破廉恥な真っ赤なパンツを履くわけがないだろうが!
ふざけんな!
白いレースとかならともかく!
白レースなら許す!
白なら絶対似合うだろうし、絶対清純派っぽくて可愛いから!
なんなら今ちょっと想像して『見たい……!』とか思っちゃったよ!
でも赤は許さん!
お父さんは許しませんよ!
うちの子がそんな派手な色のパンツを履くなんて!
そう思いながら、俺が『ぐぬうぅ……』と周囲に睨みを聞かせていると。
「でも、よくよく考えると、こんなに可愛い男子、普通考えられないし。一回、本当に男子なのかちゃんと確認したほうがいいんじゃないかって話になって」
「どういうことだよ、それ」
「だから、その……」
俺がぴくりと反応をして見せると、もともと言いにくそうに発言していた男子生徒が、ますますもごもごと口籠もって見せる。
「真瀬が、本当に男かどうか、脱いで確認させてもらったほうがいいんじゃないか、って」
「はあ?」
男子生徒の言葉に――俺は今度こそはっきりと、怒気を含ませて言い返した。




