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2歳の息子と異世界転移——賢者と呼ばれた我が子の隠された秘密  作者: 梅丸みかん


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第84話 理玖は多種族間会議を開く

「それで、リク。お主はやはり“リック”なのじゃな」

 真夜中。


 村の広場には、静かな緊張感が漂っていた。

 集まっているのは、白狼族の長ラザと、その義弟ユラ。


 エルフ族の女王メイファと側近のガラン。

 そして、小人族の長ソールに、ロッソとラフ。

 焚き火の揺れる明かりが、それぞれの顔を赤く照らしている。


「ああ、そうだ。百年前、死ぬ間際に召喚術を施したんだ」

 俺は短く答え、肩をすくめた。

 今後の方針を固めるため、各種族のリーダーたちに召集をかけたのだ。


「……それにしても、なんか俺の正体を知るやつ、どんどん増えてないか?」

「そうですな。しかし、人間に対抗するのであれば、ロッソとラフにも知らせておくべきだと判断しましたので」

 長老が悪びれもなく言う。


「やはり、リク様は先代賢者様だったのですねぇ。しかも、召喚術まで成功させるとは……さすが賢者様ですぞ!」

「そうそう! おいら、改めて賢者様ってすげぇんだなって思いましたよ!」

 ロッソに続き、ラフまで目を輝かせながら持ち上げてくる。


「いや、成功とは言い切れない」

 俺は首を振った。


「まさか百年後に召喚術が発動するなんて……しかも、本来ならもっと年齢を重ねた俺を召喚するはずだったんだ。それに……母さんまで連れてくる予定はなかった」


「なんじゃ。其方、母上を連れてくるつもりはなかったのか?」

 メイファが面白そうに目を細める。


「てっきり妾は、其方が“マザコ――”……いや、母親恋しさ……ではなく、母親想いなのかと思っておったぞ」

「メイファ……」

 俺は深々と溜息を吐いた。


「言いたいことはわかったよ」

「なんじゃ? 文句があるなら勝負するか?」

 メイファがにやりと口角を上げる。


「もちろん剣でじゃ。魔法では其方に敵わぬからな」

 ……このエルフ、見た目に反して意外と好戦的だ。


 何かあると、すぐ勝負で決着をつけたがる。

 わかりやすい性格ではあるんだが、自分の得意分野に持ち込もうとするあたり、なかなかずるい。


「今はそんなことしてる場合じゃないだろ」

 呆れ半分でそう返すと、焚き火がぱちりと音を立てた。


「おお、そうじゃったな。ガラン」

 メイファが視線を向けると、ガランが静かに一歩前へ出た。


「リク殿。お久しぶりです」

 胸に手を当て、恭しく頭を下げる。


「我々は、あなたの魔力波を察知し、ここまで参りました」

 その声音は穏やかだったが、奥には切迫したものが滲んでいた。

 ガランは続ける。


「百年も経った今、生きているとしてもかなり年老いているだろうと推測しておりました。ですが、お亡くなりになる前に過去の自分自身を召喚するとは……」


「我らの国は、人間たちによって侵略されました。……あなたなら、きっと我々を助けてくださると信じております」

 そこで、ガランはわずかに目を細める。


「あなたは、そうせねばならぬと考えるはずのお方ですから」

 含みを持たせた言葉だった。


 ――やはり、知っているのか。

 彼らの国を滅ぼした原因の一端に、俺の作った魔導兵器があることを。


 胸の奥が重く沈む。

 だが、それでも。


「ああ、もちろんだ」

 迷いなく答える。

 過去から目を逸らすつもりはない。


「私も協力しよう」

 ラザが低い声で続けた。


「ふむ。其方は白狼族じゃったな」

 メイファが興味深そうに彼を見る。


「アクアウッドもまた、人間たちに侵略されたと聞いておるぞ」

「ええ」

 ラザは静かに頷いた。


「あらためて名乗ろう。私は白狼族の長、ラザ。そしてこちらは義弟のユラです」

 隣に立つユラが軽く会釈する。


「人間たちに苦しめられたのは、我らも同じ。この村を守り――できることなら、奪われた我らの地を取り戻したいと思っております」

 その言葉には、押し殺した怒りと覚悟が込められていた。


「そうか。つまり、利害は一致しておるというわけじゃな」

 メイファは納得したように頷く。


 焚き火の火が揺れ、その赤い光がそれぞれの瞳に映り込む。

 人間に故郷を奪われた者たち。

 種族は違えど、その胸に宿る想いは同じだった。


「――一つ、懸念事項がある」

 俺がそう口にした瞬間、広場の空気が張り詰めた。

 焚き火のはぜる音だけが、やけに大きく聞こえる。


「帝国の人間が、グラセナ山脈を越えてくる可能性がある」

「何……?」

 メイファの眉がぴくりと動いた。


「妾たちですら、精霊の力を借りてようやく越えてきたのじゃぞ」

 静かな声音の奥に、警戒が滲む。


「あの山は、人間が手を伸ばせぬよう、手つかずの森を守る壁として存在しておる。人間ごときが容易く越えられるはずがない。其方のように、“叡智の魔力”でも持たぬ限りはな」


 断言するメイファを前に、俺は思わず視線を逸らした。

 ……まずい。

 これを話したら、いくら冷静な彼女でも怒りかねない。


「……何かあるのじゃな」

 メイファの声が鋭くなる。


「リクよ。其方、何をした?」

 完全に勘づかれていた。


「いや、その……ちょっと、空を飛ぶ乗り物を開発したというか……」

「空飛ぶ乗り物?」

 メイファが怪訝そうに目を細める。


「ふむ。しかし、たとえそのようなものがあったとしても、あの山の上空には上位精霊たちがおる。それを掻い潜り、そう簡単に越えられるものでは――」


「そこなんだが……」

 嫌な汗が背中を伝う。


「一応、隠蔽術式も組み込んでて……あ、でも未完成だったし、そこまで簡単には――」

 言い終わる前に、メイファの表情がみるみる険しくなっていった。


「……其方。それがどういう意味かわかっておるのか?」

 低い声だった。

 だが、その静けさが逆に恐ろしい。


「そうですぞ、リク殿。これは由々しき事態ですぞ」

 長老までもが厳しい顔になる。


「そうだな。悠長に構えている場合ではない」

 ラザも腕を組み、鋭い視線を向けてくる。


 各種族の長たちの眼差しが、一斉に俺へ突き刺さった。

 ……そんなこと、俺だってわかっている。


 だからこそ、覚醒してからずっと考えていた。

 どうすれば、この世界を守れるのか。


 どうすれば、人間たちの侵略を止められるのかを。

 だからこうしてみんなを呼び出したのだ。

 きっと、力を合わせれば打開策が見つけられることを信じて。


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