第57話 魔導機工房での集会
工房の周りには、いつの間にか大勢の小人たちが集まっていた。
「え……? こんなに……どうして……」
思わず言葉が漏れる。
何かあったのだろうか。
まだ午前中のはずだ。本来なら、みんな持ち場で仕事をしている時間なのに。
「みんな、イオリ様とリクを心配して集まってきたんだ」
答えたのはラウロだった。
「心配……?」
思わず聞き返す。
確かに、理玖がなかなか目を覚まさなかったことは気にかけられていた。
けれど——理玖が倒れた後、長老が様子を見て、ただ眠っているだけだと判断されたはずだ。
魔力切れによるもので、休めば回復する、と。
だから、もう心配はいらないと長老だって、そう皆に伝えたはずなのに。
……どうして?
改めて周囲を見渡す。
工房を囲むように集まった小人は、明らかに数が多い。
——まるで、村全員の小人たちが集まっているかのようだった。
「イオリ様、リク様、ご無事で何よりです。白狼族と接触したと聞きましたよ」
人混みの中から、マーラさんが勢いよく駆け寄ってきた。
「それより、魔獣に襲われそうになったとか……小海の方から強い光が見えたときは、本当に何事かと。無事でよかった……」
その後ろから現れたアロアさんは、ほっとしたように目を潤ませている。
「イオリ様、リク様、大丈夫ですか?」
「だいじょうぶですか?」
続いてマーシャとサーシャも駆け寄り、不安げな声を重ねる。
「イオリ様がご無事で……」
「リク様も元気になられて……」
あちこちから安堵の声が上がり、気づけば周囲は温かな空気に包まれていた。
——みんな、本気で心配してくれていたんだ。
その想いが伝わってきて、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「えっと、みなさん。ご心配をおかけしました」
私は深く頭を下げてから、顔を上げる。
「でも、見ての通り——私も理玖も元気です。もう大丈夫ですよ」
できるだけ安心してもらえるように、精一杯の笑顔を向けた。
「ああ、イオリ様。お呼び立てしてしまい、申し訳ありませんな。リク様も元気になられたようで、何よりです」
人混みの中から長老が姿を現し、穏やかな笑みを浮かべながら理玖へと視線を向けた。
その目が、理玖と交わる。
——その瞬間。
長老が、ほんのわずかに目を見開いたように感じた。
「なるほど……賢者としての魔力が、さらに高まっておるようですな。それに……」
言いかけて、長老は一度だけ私へと視線を移す。
そしてすぐに、再び理玖へと目を戻した。
「……まあ、今はよいでしょう」
その言葉に、思わず首をかしげる。
——何か、気になることがあるのだろうか。
長老の態度に、かすかな違和感が残った。
「さて、イオリ様。白狼族のことで、お話があるのです」
長老はそう切り出すと、背後を軽く示した。
「後ろにある魔導機工房に場を用意しております。そちらで詳しくお話ししましょう」
そこまで言うと、今度は周囲に集まった小人たちへと向き直り、声を張る。
「皆の者。この通り、イオリ様とリク様はご無事ですよ。まあ、そう言っても、白狼族のことも気にかかっておるようですな。これよりイオリ様にご相談しますので、気になる者は後ろの魔導機工房へ集まってくだされ。同席を許しますよ」
「魔導機工房……」
その言葉に導かれるように、私は視線を向ける。
工房群の中でもひときわ大きな建物だ。
長老が扉の方へ進むと、両手の平をかざす。
最初にここへ来たときから閉ざされていた場所がゆっくりと開かれる。
「さあ、イオリ様、リク様、中へどうぞ」
長老に促されて、足を踏み入れる。
魔導機工房の内部は、想像していた以上に広かった。
かつて先代賢者が小人たちと共に魔導機の開発をしていたと聞く。
彼の体格に合わせた造りなのだろう。
いくつもの大きな作業台が並び、それに合わせるように、高さを補うため脚を長くした小人用の椅子が整然と配置されている。
その中にひとつだけ、人間用の椅子があった。おそらく——あれが先代賢者の席だったのに違いないだろう。
石を積み上げた壁の二面には、L字に棚が設けられている。
そこには見たこともない魔導機らしきものが、整然と並べられていた。
「イオリ様、リク様。目を覚まされたようで安心しましたよ」
奥からロッソさんが顔を出し、ほっとしたように笑みを浮かべる。
「ああ、あの時のリク様の防御魔法……まるで先代賢者様と同じで、驚きましたよ」
彼の後ろから現れたラフさんの言葉に、私は思わず引っかかりを覚えた。
——防御魔法。先代賢者と同じ。
まだ三歳の理玖が?
たしかに、あの場面で放たれた魔力だとしても……それにしては、出来すぎている気がする。
思考が深まりかけた、そのとき——
「さあさあ、イオリ様。こちらへどうぞ、腰をかけてくだせぇ」
ロッソさんの声に、はっと現実へ引き戻された。
「リク、お前はこっちで大人しくしてるんだ」
「おいで、リク様。サーシャもいるから、こっちで遊ぼう」
「おいで、リク」
ラウロが気を利かせて、私たちの邪魔にならないよう理玖を誘う。
続けてシュシュとサーシャも手招きした。
けれど——
「おれ、かあさんといっしょにいる」
理玖はきゅっと私にしがみつき、離れようとしない。
——無理もない。
あんな出来事のあとだ。不安が残っているのだろう。
「わかったわ、理玖。母さんのそばで、大人しくしていてね」
そう言うと、理玖は「うん」とうなずき、安心したように顔をほころばせた。




