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2歳の息子と異世界転移——賢者と呼ばれた我が子の隠された秘密  作者: 梅丸みかん


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第49話 目覚め

 星空が広がる寝室で、私はベッドに横たわる理玖の頭をそっと撫でた。

「理玖……あなたは、私を助けてくれたんだよね」

 あの瞬間の光景が、頭の中によみがえる。


 魔獣が飛びかかってきた時。

 理玖は結界をいとも容易く越え、私の方へと走ってきた。


 そして――

 小さな体から放たれた、眩しいほどの光。

 足元に広がった幾何学模様の魔法陣。


 目の前の魔獣を弾き飛ばした、光の結界。

 きっと、あれが――


 理玖の、賢者としての力なのだろう。

 でも、どうして……。


 理玖はまだ文字も読めない。

 魔法を教わったこともないのに。


 ただ、小人族の子供たちと遊ぶうちに、ほんの少し魔法が使えるようになったにすぎない。

 それだけでも十分不思議だったのに――

 いきなり、あんな大きな力を発するなんて。


 理玖……。

 あなたの身に、いったい何が起こっているの?


 私は胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じながら、穏やかな寝息に包まれた小さな寝顔を見つめた。

 こんな子が、あんな力を使ったなんて――信じられない。


 ふと、胸の奥に重い記憶がのしかかる。

 あの時。

 もし私が、家を飛び出さなければ――


 こんなことには、ならなかったのかもしれない。

 私のせいで、理玖までこんなわけの分からない世界に来ることになってしまった。


 もしかしたら――

 理玖の未来を、私が奪ってしまったのかもしれない。

 そう思うと、自分の無力さを感じる。

 どうすることもできないやるせなさが、静かに広がっていった。


 それでも――

 私は、この子を守る。


 たとえ何の力もなくても。

 自分のすべてをかけてでも。

 そう心に誓った。


 それから――

 理玖は、二日間眠ったままだった。


 村のみんながお見舞いに来て、不安になる私を励ましてくれた。

 そのおかげで、なんとか心を保っていられた。

 そして、三日目の朝。


「……かあさん?」

 理玖の隣でうとうとしていた私は、かすかな声で目を覚ました。


「理玖!」

 慌てて顔を上げる。


「起きたの?」

 瞳に涙が滲み、理玖の顔がぼやける。

 理玖が瞼をこすりながら口を開く。


「どうして、かあさんが……ここは……?」

「ああ、よかった……」

 こみ上げたものに、思わず息が詰まった。


「あなた、二日も目を覚まさなかったのよ」

 私は思わず、理玖をぎゅっと抱きしめた。

 その温もりに、息子がここにいると実感する。


「なにが……どうなってる……?」

 理玖はまだ状況が分からないらしく、戸惑った様子で辺りを見回している。


「理玖、ありがとう。母さんを魔獣から助けてくれて」

「まじゅう……?」

 理玖は首を傾げ、きょとんとした顔をした。


「覚えてないの? ほら、あの――」

 そこまで言って、私は口をつぐんだ。

 思い出させる必要なんてない。


「……ううん、いいの。思い出さなくていいわ」

 そう言って笑いかけると、理玖はまだぼんやりと私を見つめている。

 その時だった。

 理玖がふと、自分の手を見つめた。


「……ちいさい」

 ぽつりと呟く。

 思わず、くすっと笑ってしまった。


「ふふ、そうね。まだ三歳だもの。理玖の手は小さいわ」

 すると理玖は、なぜか衝撃を受けたように固まった。


「……三歳……」

 小さく呟く。

 どうしてそんなに驚いているのか分からない。


 次第に理玖の顔が歪んでいく。

 うつむき、体を震わせる理玖。

 もしかしたら、私が魔獣に襲われそうになった時のことを思い出したのかもしれない。


「理玖……?」

 心配になって声をかけると、理玖はゆっくりと顔を上げて私を見た。


「かあさん……わかい……」

 呆然とした顔でそう言う。


「え? 理玖?」

 若い?


 今、若いって言った?

 そりゃあ私はまだ二十代。


 若いと言われれば若いとは思うけど――

 三歳の子が言う言葉とは思えない。

 私がじっと理玖を見つめていると、理玖は慌てたように言った。


「に、にいちゃんがいってた」

 ああ、なるほど。


 ラウロの言葉を真似したのね。

 私は納得して、ふっと微笑んだ。


「そうだ、理玖。お腹空いたでしょう?」

 私は立ち上がる。


「いつ理玖が目を覚ましてもいいように、卵がゆを作っておいたの」

「……かあさんの……たまごがゆ……」


 理玖が遠くを見るように呟いた。

 まだ寝ぼけているのかもしれない。


「理玖? 大丈夫?」

 声をかけると、理玖はぼんやりと私の顔を見つめた。

 みるみるうちに理玖の瞳に涙が溢れてくる。


「理玖?」

 今頃になって、魔獣を見た時の恐怖を感じているのかしら……?


「もう、大丈夫よ。何も怖いことはないから。さあ、行きましょう」

 私は理玖を抱き上げる。


 すると理玖は、ぎゅっと私にしがみついた。

 その小さな体の温もりに、私は静かに息をついた。

 理玖が私の胸の中で呟く。


「かあさん……」

 まるで、何かを確かめるように。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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