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2歳の息子と異世界転移——賢者と呼ばれた我が子の隠された秘密  作者: 梅丸みかん


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第47話 眠る理玖

「イオリ様ー! 本当にご無事で……!」

 理玖を抱いたまま結界の内側へ戻ってすぐに、ロッソさんは顔を歪め、ぽろぽろと涙をこぼした。


「イオリ様、いったい何が……」

「リク様のご様子が……」

 気づけば、ロッソさんの背後には小人たちが集まり、不安げな眼差しをこちらへ向けている。


「ロ、ロッソさん……ごめんなさい。それに、みんなも……こんなに心配をかけてしまって」

 胸が締めつけられる。


 ——私のせいだ。


「いや、それよりもリク様は……」

「大丈夫よ。ただ眠っているだけみたい」


「そうですかい。ならば、まずは工房へ向かいましょう。長老にリク様をお見せしたほうがいい。あの方なら、魔力の状態を見て様子がわかるはずです」


 そう言うとロッソさんは、“風の便り”で伝言を飛ばし、周囲の小人たちに「リク様は眠っているだけだ」と声を張って伝えた。


 すると、小人たちの表情がわずかに緩む。

 私はロッソさんに促され、理玖を腕に抱いたまま歩き出した。


「イオリ様、ご無事でしたか。リク様は……」

 食品工房の休憩室に足を踏み入れた瞬間、長老が声をかけてきた。


「……あの、本当にごめんなさい。これは、私のせいで……」

 理玖の温もりを感じながら、私はうつむいて答える。


「イオリ様、どうか落ち着いてくだされ。まずは椅子に座ってお休みなさい」

 長老に促されるまま腰を下ろすと、彼は理玖の顔を覗き込み、ほっと息をついた。


「……どうやら、リク様は眠っておられるだけのようですな。ロッソ、何があったのか詳しく話しなさい」

 長老はそう言って、ロッソさんへと視線を向けた。


「ええと……これはですなぁ……」

 席に着いたロッソさんが、先ほどまでの一連の出来事を語り始める。


「なるほど。先ほど感じた、あの尋常ではない魔力の波は、それでしたか」

 話を聞き終えた長老は、納得したように深く頷いた。


「はい……私を助けようとして、さっき大きく魔力を放ったんです」

 私がそう告げた瞬間、長老はぴたりと動きを止め、目を見開いた。


「なるほど……覚醒した、ということですか」

 ――覚醒。

 その言葉に、胸がどくりと大きく鳴った。


 理玖が――覚醒した。

 その事実が、胸の奥に重く沈んだ。


 ずっと予感はしていた。

 けれど、それを認めることだけは、どうしても避けたかった。


 今の理玖は、ただ静かに眠っているようにしか見えない。

 けれど――本当に何の影響もないとは、とても思えなかった。


「イオリ様、ご安心くだされ。いまも理玖様の魔力はわずかに滲み出ておりますが……おそらく、想定を超える魔法を使った反動で、身体が回復を優先し、眠りに入っているのでしょう」

 長老は、こちらを気遣うように穏やかな声で続けた。


「かつて先代賢者様も、同じように力を使い果たし、深い眠りにつくことがありましたゆえ」

 先代賢者も――。


「あの光は、強い守りの波動。もしかすると、遠くにいる者にも観測された可能性がありますな」

 そう告げる長老の表情は、わずかに硬い。


 遠くにいる者……。

 その言葉に、私は反射的に窓の外に見える山脈の向こうへと視線を向けた。


 頂上付近は、相変わらず白い万年雪に覆われている。

 何事もなかったかのように、雲はゆっくりと稜線を越えていった。


 ――まさか。

 足元から、じわじわと冷たいものが這い上がってくる。

 何か得体のしれないものが背後からゆっくりと近づいてくる感覚。


 理玖……。

 抱きしめる腕に、思わず力がこもった。


 ――体に紋が刻まれて。

 アロアさんの言葉が、不意に脳裏に蘇る。


「イオリ様! リク様が倒れられたと聞いたのですが!」

 そのとき、勢いよく扉が開き、飛び込んできたマーラさんの声に思考を遮られた。


「イオリ様、大丈夫ですか?」

「イオリ様、リク様に何があったの?」

 続いてアロアさんとシュシュが駆け込み、さらにマーシャがサーシャを抱いたまま、不安げな視線を向けてくる。


 ――彼女たちにも、心配をかけてしまった。


「みんな、心配かけてごめんなさい。私は大丈夫。理玖も、ただ眠っているだけだから」

「そう……よかったわ。私たち、夜雫葉を採りに行っていたの。そのせいで気づくのが遅れてしまって……でも、無事で本当によかった」


「ええ、小海の方から強い光が弾けたときは、何が起きたのかと驚いたわ。でも、イオリ様もご無事で……」

 そう言って、彼女たちはほっとしたように息をつく。瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。


「みなさん、私も理玖もこの通り大丈夫です。駆けつけてくれて、ありがとうございます」

 理玖の顔がよく見えるように腕をゆるめ、安心させるように微笑む。


「では、イオリ様。お疲れでしょう。リク様も、ゆっくりお休みになられるとよい」

 長老の言葉に甘え、私はそのまま帰路につくことにした。


 家に戻ると、理玖をそっとベッドに寝かせる。

 そして――これからのことを、考えずにはいられなかった。


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