表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2歳の息子と異世界転移——賢者と呼ばれた我が子の隠された秘密  作者: 梅丸みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/61

第18話 これも魔導機?

 さて、そろそろ帰ろうか――そう思ったときだった。

 薪が――ぷかぷか宙に浮いて近づいてくる。

 思わず、瞬きをした。


 ……いや、見間違いじゃない。

 けれど――理解が、追いつかない。


 あまりの光景に、思わず足を止めて見入ってしまう。

「なに……あれ……」 

 それ以上言葉にならない。


「かーたん、き、いっぱい」

 理玖は薪の山を見て目をまんまるにした。


「そ……そうだね」

 興奮したように両手を上げる理玖に顔を引きつらせてなんとか答えた。


「おっと、ラフが戻ってきたみてぇだな。おーい、ラフ!」

 私と理玖の様子で目の前の光景に気づいたロッソさんが大声で呼びかけた。


 え、ラフ……?


 すると、宙に浮いていた薪の山が、ばらばらと音を立てて地面に積み上がる。

 その後ろから、ひょこりと顔を出したのは、赤髪に赤ひげの男性の小人だった。


「おや? そこにいるのはイオリ様と小さな賢者様じゃないかい?」

 にこにこと笑いながら、こちらへ歩いてくる。


 えっと、この小人がラフ……さん?

 そういえば、マーラさんの弟はラフって名前だと言ってたっけ。

 今、ロッソさんがそう呼んでいたから、きっとこの小人のことなのだろう。


「えっと……ラフさん?」

 少し自信なさげに呼んでみる。


「おお、イオリ様がおいらの名を呼んでくださった! 覚えていてくれたなんて、光栄ですなあ」

 ラフさんは感激したように目を輝かせた。


 ……いや、ついさっきロッソさんが呼んでいたからなのだけれど。

 今さらそんなこと、言えるはずもない。


「ええ、まあ……」

 後ろめたさを覚えつつ、曖昧に微笑む。


「ラフ、薪は足りそうか?」

「あったりまえさ。おいらにかかれば、足りなくなるなんてことはありゃしない。まっかせとけって!」

 ロッソさんの問いに、ラフさんは胸をどんと叩いた。


「イオリ様。もうすぐ冬がやってきます。後ほど、賢者様のお住まいにも薪を運びますよ」

 ラフさんのその言葉で、賢者の家の広いリビングにあった、立派な石造りの暖炉を思い出す。


「ありがとうございます」

「ごじゃいましゅ」

 私が頭を下げると、理玖も慌てて真似をした。


「リク様は小さいのに、えらいですなあ」

 ラフさんは目尻を下げて理玖を見つめ、感心したように言った。


「おお、そうだラフ。お前、明日小海に漁に行くんだってな。ラウロから聞いたぞ」

「ああ。そろそろ貯蔵庫の魚が少なくなってきてな。それに、イオリ様とリク様に、とれたての魚を食べてもらいたいと思ってさ」


 貯蔵庫――。

 たしか長老が、“時間凍結冷蔵機能”が備わっていると言っていたのだった。

 便利すぎるでしょう、この世界。


「じゃあ、イオリ様とリク様も一緒に連れていってくれ。小海を見たいそうだ」

 ロッソさんがそう言うと、ラフさんは目を丸くした。


「一緒に? ああ、もちろん構わんよ。だがイオリ様、悪いが漁は朝早い。明日の朝、一の刻にこの畑の前に集合だ。起きられるかい?」


「一の刻……?」

「朝日が出たすぐあとだな」


「じゃあ……朝一番?」

「そういうこった。日が沈む頃が七の刻だ」

 私の疑問にロッソさんが答えてくれた。


 なるほど……

 細かい仕組みはわからないけど、とにかく朝早いということだけは分かった。


 ん?

 ということは…………時間、ちゃんと管理されてるんだ。

 なんだか、思っていたよりずっと“文明的”だ。


「えっと……時間って、どうやってわかるんですか?」

 そう尋ねると、ロッソさんはにやりと笑った。


「これだ。この腕輪に触れて“ケーライス”って言うんだ。いいか、見ていてくだされ」

 ロッソさんは、左手首を上げて私に見せると、そこに嵌めてある銀色の細いリングを触れながら「ケーライス」と唱えた。

 すると――



『五の刻半過ぎ』

 ……声?

 思わず腕輪を見つめる。

 遅れて、その意味が頭に落ちてきた。


「え……どういう仕組み?」

 ロッソさんはにやりと笑う。


「さあな。先代賢者様が開発した魔導機なんだ。時間が分かった方がいいだろうということでな。俺たちは文字が読めないから音声で伝わるようにしてくれたんだ」


「……これも、魔導機?」

「ああ、そうだよ」

 ロッソさんはまるで自分のことのように自慢げに胸をはった。


「でも、私、そんな腕時計持ってないし……」

「腕時計……? ああ、先代賢者様もこの魔導機のことをそんな呼び方してたな」


「おい、それより、ロッソ、確か魔導機工房にいくらか保管されていたはずだったな」

「ああ、そうだった、そうだった。よし、後で届けよう」


「いいんですか?」

「ああ、どうせ誰も使ってないやつだからな」


 だけど、その時間に起きられるかと言われれば正直自信がない。


 目覚まし時計があればまだしも、日本にいたころでさえ、目覚ましを三つセットして、そのうち一つはすぐ止められないように部屋の端に置いていたくらいだ。

 ここには当然、そんなものはない。


「……えっと……一の刻、ですよね……」

 私は確認するようにおずおずと尋ねる。


「ああ、そうだ。早朝の方が魚が獲れやすいからな」

「……朝一ってことだよね……」

 ラフさんの言葉に思わず溜息混じりに呟く。


 ロッソさんとラフさんが顔を見合わせているのが目に入った。

 その後ろで畑に広がる緑の葉がサワサワと風に揺れている。  


「うーんと……そうだな。おい、ラウロ。朝になったら、イオリ様とリク様を迎えに行ってやれ」

 私の言い淀んだ様子で察したのだろう。ロッソさんが助け舟を出す。


「ああ、いいよ。じゃあイオリ様、俺が起こしに行くよ」

 ラウロは、「準備して待っていて」とは言わなかった。


 ――きっと、私が一人では起きられないと思ったのだろう。

 ……否定できないのが、なんとも悔しい。


「じゃあ、明日よろしくお願いします」

「おねがいちまちゅ」


 私と理玖が頭を下げて帰ろうとすると、ロッソさんが「ちょっと待っていてくだせえ」と言って、畑の奥へ引き返した。

 ほどなくして、両腕いっぱいに野菜を抱えて戻ってくる。


「ラウロ、お前も一緒に届けてやれ」

「うん、わかった」

 すると、その様子を見ていたラフさんが口を挟んだ。


「おいおい、野菜だけじゃ味気ないだろう」

 そう言って、畑のそばに立つ大きな木のほうへ歩いていく。


 どこへ行くのだろう、と目で追っていると、ラフさんはその巨木の前で立ち止まり、幹に向かって両手をかざした。


 すると――

 木の幹の中央に、アーチ型の入口がふわりと現れた。


「え? なに……あれ」

「ああ、あれが貯蔵庫でさ」

 ロッソさんが当然だというように答えた。


 貯蔵庫……。

 なるほど、ここでは、木の中に倉庫があってもおかしくないらしい。


 呆然と見つめていると、ラフさんはそのまま木の中へ姿を消した。

 そしてすぐに、木箱を宙に浮かせて戻ってくる。


「ほれ、コッカーの卵と魚の塩漬けだ」

 差し出された木箱の中には、六つの卵と、数種類の魚の塩漬けがきれいに収められていた。


 今、ラフさんはコッカーとか言っていたけど、きっと鶏の一種だよね。

 見た感じ、昨日の宴に出てきた卵と同じみたいだし。


「ありがとうございます」

 私は深く考えるのをやめて慌てて礼を言い、木箱を受け取った。


「イオリ様、それも運んでやるよ」

「え……でも、こんなにたくさん持つの大変だよ」

「大丈夫さ」

 私の心配もよそに、ラウロは荷物の前に片手をあげると野菜の山と木箱をふわりと浮かせた。

 その周りには小さな光がキラキラと纏わりついている。


「こうして風の精霊魔法で運ぶんだ」

 ラウロが得意げに言った。


「すごいわね。じゃあ、お願いしようかな」

「ちゅごーい、にいたん、ちゅごーい!」

 理玖が興奮してぴょんぴょん跳ねている。


「当然さ、兄ちゃんだからな」

 ラウロが理玖を見て胸を張った。

 そんな様子にほっこりしながら、私はラウロにお願いすることにした。


 少し冷たい秋風の中、彼の後ろ姿をぼんやりと眺めながら、私は理玖の手を引いて賢者の家へと戻って来た。

 ホッと息を吐き、今日の濃すぎる一日を思い浮かべる。

 だけど、小海でまさかそれ以上のことが起こるとは、この時の私は思ってもいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ