⑥ あなただけの特別サービス
結局、この日は開店時間から閉店時間まで居座ることになったが、あれから特に大きな問題は起きることも無く終わった。
けれども、俺は仕事も終えたのに店の裏口に面した裏路地で、こうして一人ひっそりと佇んでいる。
深夜に近いこの時間では街も静かなもので、先程までの店内の賑やかさが嘘のように静まり返っている。
そんな中、耳を澄ませると上の方から悩ましい声が僅かに漏れ聞こえてきた。
この店特有のサービスであるお得意様への閉店後の深夜営業といったところか。
今頃、女給の二人がお得意様から色々と搾り取っていることだろう。
そして、俺も今日はその一人になるのかと思いきや、どうやら違ったらしい。
「お待たせしました」
露出の多い仕事着から着替え終わったメロイが出てきた。
男の劣情を煽るために拵えた衣服と比べるとさすがに見劣りする気もするが、彼女は普段から洋服を好んできているようだ。
この街でも隣国の文化が普及しつつあるらしいので、彼女のような者は少なくない。
胸元はともかく、下はだいぶ丈の短いスカートを履いており、ちょっとした風魔法でも使えれば下着が簡単に見えてしまいそうだ。
「あ、あの…変、ですか?」
「ん? いや…そういうわけじゃない」
少しジロジロ見過ぎたようで、視線に気づかれたようだ。
「そう、ですか…。良かった」
「え?」
「あ、いえ…。そうそう、先に銭湯へ寄ってもいいですか?」
「…あぁ、俺は別に気にしないが」
「私が気にするんです…!」
そう言い放った彼女はスタスタと歩き始めてしまったので、その後を追う。
「先に一人で行くと危ないぞ。またどんな悪漢が襲ってくるとも限らないからな」
「…その時は、また助けてくれますか?」
足を止めて振り向いたと思えば、なんて顔をしてるんだ。
「…あぁ、今日は家まで送り届ける残業らしいからな」
「ふふっ、だったら心配要りませんね」
こいつのこんな笑顔、初めて見たかもしれない。
この街の銭湯は深夜にも関わらず営業している。
夜中に帰ってくる冒険者こそ少ないだろうが、パラミたちのような夜の住人からするとありがたい限りだろう。
今日の俺たちもその例に漏れずありがたく使わせてもらったが、男湯は人がいなさ過ぎてもはや貸切状態だった。
女湯もこのくらい空いていたならこっそり侵入しても良かったのではないかと考えていた。
「何度もごめんなさい、お待たせしちゃいましたね」
「あ? あぁ…」
見慣れない女に話しかけられたので一瞬何を言っているのか理解できなかったが、聞き覚えのある声でもあったのでようやく理解した。
「髪、下ろしたのか」
「はい。…あ、そっか。見たことありませんでしたっけ?」
「あぁ、初めて見た」
彼女は接客中はもちろん、今日開店前に裏口で会った時もいつものように髪を二つに結んでいた。
なので、髪を下ろして少し大人っぽく見える彼女の姿がいつものイメージ像とはだいぶ違って見えたのだ。
「あの…結び直した方が良いですか?」
「いや? 別にいいんじゃないか、そのままで」
「そう…ですか?」
「あぁ。その方が新鮮だし、これはこれでいいからな」
「そっか。なら、このままで…」
普段客には見せない姿を見れるというのがまた優越感を感じられて良いものだ。
「じゃあ、行きましょうか」
先程とはまた違ったいい香りのする彼女は警戒もせず俺に近づくと、そっとその手をとった。
血に塗れて汚れ切った俺の手とは違う、しなやかな女の手だった。
しばらくメロイと夜の街を歩いて彼女の住まう宿に来た。
さすがにパラミほどの稼ぎは無いのだろうが、ランダと泊まるためにとった宿くらいには上等なところだった。
「いらっしゃい、用心棒さん。ここに男の人を招き入れたのはあなたが初めてです」
「そうか、それは光栄なことで」
招かれたとはいえ、小さな灯が灯るだけの薄暗いままでは歓迎されているのかも怪しいところだ。
しかし、そんな俺の考えとは裏腹に、ベッドの端に座った彼女から隣に座るよう促された。
「…今日はありがとうございました。あなたがあの切り裂きジャックだって話は聞いてましたけど、本当にお強いんですね」
それを知ったうえで自室にまで招くとは、なかなか肝の座っている女だ。
「怖くないのか?」
「…正直にいえば、怖いです。怖かった…です。でも、いつも影ながらお店を守って下さっているのは聞いてましたし、店長とお話してる姿を何度も見てましたから」
彼女はここに来る時と同じように再び俺の手をとると、そっとその手を握った。
「だから、今日のことも含めて、ちゃんとお礼をします」
そのしなやかな手に導かれて、ついに立派に育ったメロイへ触れる。
張りがあって程よく弾力もある良い肌だ。
「今夜はあなたの為に“なんでもします”。存分に楽しんでいってください」
「あぁ、その言葉を待っていた」
散々焦らされた末に蕩けた表情でそんなことを言われてしまえば、もう自分を抑えきれなくなってしまいそうだった。
「あっ、あんっ、んっ、ちゅっ…ちゅぅ…んぁっ、いきなり…そんな…んぁんっ…」
この手の女は仕事であってもキスは嫌がることが多いそうだが、むしろ向こうから強請ってきているように見えたので、顔を近づけ見れば案の定だった。
甘く潤う唇を貪る一方で、彼女の身体もさらに強く求める。
「あんっ、もう…だいたぁん…ぁ、あぁんっ…そこばっかりぃ…」
大きさはパラミほどではないが、なかなか感度は良好なようだ。
揉みほぐす度に甘美な声を漏らし、さらに劣情を誘ってくる。
そこで、下半身にも手を伸ばし、太ももから徐々に上へ手を滑らせて彼女の秘部へ到達すると同時に彼女の手によって止められた。
「待って。今日はあなたへのお礼なんだから、先に私からさせてくれませんか?」
「そういうことなら、かまわないさ」
「ふふっ、ありがとう」
そうして、彼女は一旦立ち上がると俺の正面へ来てその場に膝をついた。
「失礼します」
メロイは一言断ってから俺の服に手を掛けると、中から現れた息子を見るや否やその姿に驚く。
「すごい…おっきい…」
「それはお前の方だろ」
お世辞と共に目を見張る彼女へ冷静に言葉を返した。
身体の火照りが収まらない様子の彼女は自ら服をまくり上げ、男の前で肌を晒す。
着替えを覗いた時にも感じたことだが、やはり並の女の比ではない。
しかも、使い込まれているわりには先っちょが生娘のように淡いピンク色をしている。
ちょっと見惚れている間に息子を容易に挟み込んだ彼女は慣れた様子で唾を落とすと、そのままクチュクチュと水音を立てるように身を動かした。
「こういうの…お好きじゃないですか?」
「あぁ、嫌いじゃないな」
「ふふっ、素直じゃないですねぇ…」
柔らかく張りのある彼女に包み込まれて気持ち良くないはずがない。
しかし、それを自信に満ち溢れた彼女の前で言うのは躊躇われた。
「でも、知ってるんですよ。私のココ、いつも熱っぽい視線で見てたこと。ダメですよ、女の子はそういう視線には敏感なんですから」
自意識過剰だと言ってやりたいくらいだが、事実なので仕方ない部分はある。
「私以外の女の子にはそういうことしないように気をつけてくださいね」
その言い分だと、メロイに対してなら良いということになるが、それでいいのか。
「ふふっ…。大抵のお客さんはこうしてあげると、すっごい喜んでぴゅっぴゅしてくれるんですけど…。どうです? 気持ちいいですか?」
「あぁ…」
それはそうだろう。
デカいだけあって包容力は申し分ない上に、若くてかわいい女が自分の為にこんな奉仕をしてくれるのだ。
これならば大枚叩いた甲斐もあったと喜んでいる男どもの姿が目に浮かぶ。
「だが、今日はお礼をしてくれるんだろう? 他の男の話は聞きたくないな」
「あ、ごめんなさい。ちょっと無神経でした。…お詫びに、もっとイイことしてあげますね」
意外と素直に受け入れた彼女は小さくほくそ笑んで、自分の胸に顔を埋めた。
「んっ、ぢゅっ、ぢゅるっ、ぢゅっ、ちゅぷっ…」
彼女がさらに刺激をもたらしてくれたことにより、快感が増大して気分もいい。
「この方がよっぽどいいぞ。その調子で続けてくれ」
「ふぁい」
どことなく嬉しそうに返事をした彼女は男の欲望をさらに高めるべく奉仕に邁進する。
その甲斐あって、沸々と湧き上がる衝動はやがて限界を迎えることとなった。
「うっ!」
いつまでも浸っていたい快感だったが、その終わりを告げるように熱き衝動が迸る。
「んぷっ! ぐっ、んっ、んぅっ、んっ…んっ、んっ、んぅ…んっ、んっく…んっ、ぅん…ごっくん…」
彼女はそれを受け止め、そして苦しそうにしながらも何度も喉を鳴らして飲み込んでいった。
「え、へへ…、飲んじゃいました…。いつもはこんなことまでしないのに…」
「別に無理しないで吐いても良かったんだぞ」
「でも…この方が喜ぶって聞いたので」
「まあ、そういう男もいるだろう」
「いえ、あなたが喜ぶって…」
「え? あぁ、さてはパラミだな」
いつからそんなことを吹き込んでいたのかは知らないが、下手したら毎度の情事のことまで他の二人にも筒抜けなのではないかと疑念を抱く。
「まあ、今はいいか」
「んっ…、ふふっ…」
ランダに対していつもしているように頭を撫でてやると、メロイも満更ではなさそうに頬を緩めた。
「さて、これで終わりってわけじゃないんだろう?」
「もちろん、そんなつもりは無いですよ」
「じゃあ、次は俺がヤってやるか」
「あっ、ちょっと…」
彼女を引っ張り上げてベッドへ押し倒すと、僅かばかりの抵抗を見せる身体を開いてしまう。
「お前の身体、余すことなく堪能させてもらうとしよう」
「優しくしてくださいね…」
メロイの雇い主であるパラミからも許可をもらっていたこともあり、お礼と称して彼女の身体できっちり対価を支払ってもらった。
しかし、思わぬ誤算があった。
百聞は一見に如かずというか、女は抱いてみないと分からないというべきか。
毎日のように客相手に股を開いている女だと甘く見ていたが、想定以上にイイ具合だったこともあって随分張り切ってしまったのである。
これは自分の観察眼が鈍っていたと反省するべきか、日々自分を磨いている彼女を称えるべきか迷うところだ。
ともあれ、そのせいで――あるいは、そのおかげですっかり懐いてしまったメロイが未だ隣で寝ている。
「もう朝ですよ…。ふふっ、でもこんな幸せな気持ちで朝を迎えるのなんて、初めてかも」
「元々、お礼として一晩一緒に過ごすって話じゃなかったか? お前の方が夢見心地でどうするんだ」
「だって、ホントのことだもん。…そういえば、ジャックさんてお連れの女の子いましたよね。いいなぁ…、毎日こんな幸せな思いができるだなんて、羨ましい…」
「さすがに毎日この調子でヤってたら、俺の方が倒れそうだ」
「ホントですか? そうは思えませんけど…」
何やら過大評価までされてしまっているようだが、そこまでするには更なる肉体強化だけでなく魔法による補助も必要になるだろう。
「私も、もっとジャックさんと一緒にいたいな…」
媚びた視線と共にさらに身を寄せられて、悩ましい身体を押し付けられた。
「社交辞令じゃなければ嬉しい話だが、それだとあの店での儲けも減るだろ? チップありきで、儲かってるんだろうから」
「それはそうですけど…。今のが社交辞令なんかじゃないってこと…あれだけ情熱的に求めあった仲なら、分かって欲しいな…」
やや拗ねた様子の彼女は、人の胸板を指でなぞった。
「じゃあ、俺に養えって言いたいのか? 勘弁してくれ」
「あー、冷たいんだ。…じゃあ、この街に立ち寄ったりお店に来てくれた時に、また誘うくらいは良いですか?」
「あぁ、それなら構わない。金も払わずに抱けるなら、尚更な」
「ふふっ。そこはもちろん、あなただけの特別サービス…“なんでも”しちゃいますよ」
こうして、また一人俺に軽々しく“なんでも”と口にしてしまう女が増えたのだった。




