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吉田偶然  作者: 森山企劃
3/5

3.このクネクネは……


 雑居ビルの入り口は二階へと続く細長い階段だけだった。

 その横には熟女スナック店の扉と灰皿。唄声とシャンシャンとタンバリンの音が漏れてる。

 すると勢い良く扉が開いて全身ピンク色のタイトすぎるスパンコールの衣装のおばさんが飛び出てきた。

 思わず声が出てしまった。

 「ひっ!」

 「あらぁ? ミ〜オちゃん〜こんばんわぁ〜」

 「あ、レイナさん! ただ今戻りました!」

 ジャージの女は敬礼した。仲良いのか……

 「どう? 繁盛中?」

 「んもう、モリモリよ〜! 私の身体みたいにねぇん」

 そう言うとおばさんはクネクネと身体を波打ち始めながら、煙草に火をつけた。僅かな光も反射するスパンコールが眩しい。

 それにこのクネクネ。なんか凄い。何かに似ている気がする。何だっけ……

 あ! そうだ! この前テレビでやってた特番で二夜連続だった『深海の謎の解明! 〜水圧を知らない生物たち〜Vol.3』でやってた深海魚の光るヒラヒラの部分だ。

 その動きにそっくりだ。名前何だったっけな。

 あとおばさんの顔もなんか凄い。特殊メイクなのかな。普通の人より顔のパーツが飛び出て見えた。

 「アッハッハ! その動きいつ見ても面白い〜!」

 ジャージの女は腹抱えて笑っている。

 「そうでしょ〜。一日一回だけのレアなダンスなんだから〜。拝みなさぁい。……その子……だぁれぇ?」

 クネクネしながら私を見るおばさん。私は半歩下がってしまった。

 「わ、私は……」

 「この子はお客さん! じゃあレイナさん! またね〜!」

 「はぁ〜い。まったねぇ〜」

 「ほらっ、こっち。階段上がるよ!」

 「は、はい。で、では……」

 「かんわいい子ねぇ〜。チュッ」

 投げキッスされた。

 扉の横にある階段はとても狭い。二人並んでは登れなかったので、ジャージの女の後ろについた。

 登り始めると一気にカビと煙草のヤニの染み付いた臭いに変わった。小学校の職員室の臭いだ。

 「三階だからね」

 「へ、へい」

 臭いに集中しちゃってたから変な返答しちゃった。完全に気が動揺してる。

 二階まで登ると一つの扉があった。というか、三階へと続く踊り場にドアが1つあるだけ。相当狭いな。このビル。その扉は上半分がガラスだった。

 少し覗いてみると中から冴えない男達が全員死んだ魚の目でこっちを見てる。思わず「うわぁ……」と言ってしまった。

 「……あ! シー! 負けちゃうよ!」

 小声で言いながら目を大きく見開きながら手招きしてる。早く登れって事か。

 「……負け?」

 「ここの法律事務所、凄い優秀らしくて、必ず裁判で勝っちゃうんだって! だから敵に回したら負けちゃうんだから! 後で話そ!」

「は、はぁ」

 あんな冴えない男たちがそんなに優秀なのか。四人位いた気がする。

 でも確かに冴えないのって敵に回しちゃいけないかも。動物的に。

 ちょっと反省。第一、私も冴えないし。

 三階の踊り場に着いた。二階と同じ扉だけど、ガラス部分は擦りガラスになってるので中は見えなかった。

 「すーっ」

 なんで深呼吸してるんだろ。

 「じゃ、開けるから!いいね!?」

 「……はい」

 なんで聞くんだ? 自分が勤める会社じゃないの? 

 それにジャージの女の様子がおかしい。怖い人でもいるのか? たしか謝りたいって言ってたし。

 「じゃあ開けまーす」

 扉を開けると思いのほか、ちらりと広い空間が目に入った。

 「ちょっとまだ入らないでね。話してくるから」

 「はい……あ」

 「あ?」

 この時、私は知らない人に素っ気ない態度をとっている事に気付いた。

 普段、職場で一番のペーペーだから、周りの空気や、顔色を伺いながら仕事をしていたからだ。

 生理中の女上司や、女性郵便局員とイチャイチャしてる中の男上司との業務の引き継ぎ連絡を行う時。あの時の「お前、邪魔すんなよ」って顔。描けるから。今、描いてやろうか!? あー、なんか腹立ってきた。

 「今、『あ』って言った?」

 「あ……言いましたけど」

 「驚かさないでよ! 開けちゃ駄目って事かと思ったじゃん!」

 「……うるさいわよ〜。ドア開けたなら閉めて〜」

 誰かの声がした。女の人だ。


 「気づかれちゃった〜。じゃあそのままで待ってて〜」

 「は、はい……」

 ジャージの女は中に入ると扉を勢いよく閉じた。怖っ。


 ポツンと一人取り残された。これは逃げるチャンス?


 

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