2.ダサいジャージの女
私はめいいっぱい目を閉じ、しゃがんだ。顔文字だと>_<。
死が確定したので、どうでもいい事を考えていた。まだ車は来ないみたい。
でも私はもう思い返す事など無かった。だってそうじゃん。
地方に飛ばされ、会える人にも会えなくなったんですよ。初対面の繰り返しで、仲良くなる人なんていない。ジジババばっかり。これじゃ結婚も無理!
あー、嫌な事考えちゃった。
嫌な事考えた時って叫びたくなる。あの時の自分何なの? って思った時とか特に。
だから私は叫んだ。
「わぁん! もう!」
「え!?」
「……え?」
気付くと私は大通りではなく、路地裏にいた。薄暗く狭い路地裏だ。夜になると怪しい雰囲気だから怖いと思っていた路地裏。この前ここで吐いてる人見て嫌な気分になったの思い出した。
すると視界にひょいと、わりと結構近目に私の顔が何者かに覗かれた。
「おーい。大丈夫?」
「……私……生きてる?」
そうだ。スポーツカーだ。目を閉じてしゃがんだんだ。
んで……今か。
……おかしい。変だ。もしや死後の世界?
「ここは何処ですか? 私死んだはずですよね」
「何言ってるの? 私が間違えて死にそうにはなってたけど、ちゃんとキャンセルしたから平気! 死んでないよ!」
安堵した顔をしながら言った。スポーツカーの運転手だろう……? 女の人だった。うっすーい水色のジャージ姿。直感的にダサいなって思った。でも顔は私より美人……か、同等。
私は連鎖的に自分のスーツを見た。スーツの左肘の所が少し擦れていた。でもこの擦れは元々あったやつ。めっちゃザラザラした壁に擦った後。昔の家にあるザラザラの砂みたいな壁。あの壁嫌い。
ってかなんなの? この状況。
「は……? 何……?」
私はジャージの女を再び見た。ニコニコしている。何故だ。すると結構な早口で言う。
「ちょっと説明っていうか、なんというか〜。とりあえず状況が分からないだろうし、ウチの事務所まで来てくれないかな?」
「え……事務所? 私、なにがどうなって……」
さ、流石に怖い。怖すぎる。もうどうしたらいいか分からない。
すると明るい表情をしながら私に話した。
「ごめんね。何があったかも分からないよね。偶然作ろうとしたらミスっちゃって。信じられないかもしれないけど、取り敢えず私の職場まで来て! こうなったのも私のせいだし、落ち着いたところで口封……謝りたいから!」
「え……偶然?」
ってか今、口封じって言った。
「取り敢えず! すぐだから! すぐ終わるから!」
そう言うとジャージ女はニコニコした表情で私の手を引っ張る。
当然ながら抵抗する私。
「や、な、何なんですか……!」
「お……結構力あるね……でも……私……! 負けないから……!」
薄暗い路地裏で女二人が手を引っ張り合う。こんな体験二度とないよ。
私はもう何が何だか分からなすぎて何に抵抗しているのかも分からなくなっていたし、実際何が起きたのか知りたくもなってきた。心変わり早い方なんで。
「わ、分かりました……手を……」
「ふぅ。分かってくれた〜」
手を離し、お互い一呼吸を置いた。見れば見るほど変な色のジャージだなぁ。何処で買ったんだろう。
「……あの、それで場所って……」
「……此処だよ!」
変な色のジャージは斜め上を指した。目で追うと五階建ての古ぼけた雑居ビルの看板があった。
一階「熟女スナック 熟れた果実[Juicy]」
二階「前田法律事務所」
三階「(有)吉田清掃工業」
四階「馬肉専門店 馬二郎」
五階は……テナント募集中みたい。
馬二郎は行ってみたいな。窓から煙がもくもくしてる。
「じゃあこっち来て〜」
「は、はぁ」
私達はその異様な雰囲気の雑居ビルに入った。
もうどうにでもなれ。
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