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4.そして現在、歴史家は語る(最終話)

 これにて、よう珪己けいきの少女時代は終わった。


 その後のことを時系列で語る。


 まず、警備団所属の一人の年若い武官が重傷を負った事実は枢密院すうみついんに確かに報告されている。彼のそばにいたもう一人の武官、そして現場に居合わせた枢密院事すうみついんじの証言により、加害者は湖国民ではないことは明らかとなっている。だが、犯人は姿を消し、その正体は今も不明である。


 犯人がなぜ紫苑寺などという無名の寺に押し入ったのかも、公には定かではない。


 芯国の大使の副官として湖国に滞在していた人物もまた、気づけば開陽から姿を消していた。これについては湖国側では記録を残しようもなく、現代人の我々がその後を追跡することはもはや不可能である。


 ほぼ同時期、えん仁威じんいが近衛軍第一隊隊長を辞する。これについては史書には一文しか書かれていない。つまり、隊長を辞したこと、次の隊長は司馬しばであるということ、それだけしか現代には伝わっていない。その後、袁仁威の名は史書はもとより、どのような記録にも出てこない。それはつまり、袁仁威が歴史の表舞台から姿を消したことを意味する。


 てい古亥こがいは多くの取り調べを受けることなく罪状が決まった。本人の予想どおり、死ぬまで牢から出られないことが確定した。その後、この老人がいつどこで亡くなったかまでは記録されていない。


 年が明け、貴青十一年、新たな人事が発表された。


 枢密副使すうみつふくしであった侑生ゆうせいが、まだ二十代半ばという若さで吏部りぶ侍郎じろうへと就任した。同位への異動ではあるが、それは名実ともにまれにみる昇進であった。枢密院から中書省への異動という、歴史的な第一歩である。隻眼の彼は吏部を改革する一助となり、やがて侍郎から尚書、参政さんせい……と出世の道を歩むが、それについてはまた別の機会があれば述べたい。なお、李侑生の人となりが史書に記されるようになったのは中書省所属となってからで、ここまで述べた枢密院時代については推測によるものが多くをしめる。だが、中書省の官吏となってからの彼は非常に有能な官吏であったらしい。


 この時代、皇帝・ちょう英龍えいりゅうは変わらず正しい覇道を歩んだ。国は乱れず、繁栄が続いたことがその証拠だ。ただ一つ、彼が即位時に召した三人の女人以外には妃を増やさなかったこと、この点だけは湖国滅亡後の権力者たちに嘲笑われた。


 皇帝の異母弟・ちょう龍崇りゅうすうは、兄に、国によく仕えた。生涯において正妃を娶らず、それは異母兄を模範としたからだと言われている。龍崇はその一生を宮城内、華殿で過ごした。



 ここからはごく一部の人物に関係すること、つまり私的な事実、しかし読者がもっとも興味あることについて述べる。



 貴青十年、開陽の街から楊珪己が消えた。


 後宮で女官を勤め、皇帝の寵愛を退け、李侑生との愛を育みつつもなぜか礼部の官吏補となっていた楊珪己が――歴史上、その姿を消した。


 その後また楊珪己は開陽に姿を現す。それが彼女の武官としての、剣女としての本当の始まりとなる。が、楊珪己の歩いた道のうち、十代の一時期が不明となっているのは事実である。


 開陽を離れている間、楊珪己がどのような経験をしたのか。それについてはわずかながらの証言が残されており、それを基に私は彼女の若かりし頃の一部を、今後も読者の方々に伝えたいと願っている。



 とにかく、これにて剣女の少女時代は終焉した。

剣女列伝5巻、読了いただきありがとうございました。

以下、作者の活動報告で述べたことと重複することもありますが、作品のみを読まれている方のためにも書いておりますので、ご了承ください。

また、本巻のネタバレを多数含みます。





本巻は2巻分の内容を1つにまとめ、前半と後半に分けて掲載しました。

後半のほうが内容がやや短めなのと、主人公の登場シーンがだいぶ少ないため、まとめて1つの作品としました。

本シリーズ最長の作品となりましたがおつきあいありがとうございました。


また、この剣女列伝はこの5巻をもって大きな区切りをつけました。

楊珪己の少女時代はこれにて終了となります。

また、楊珪己をとおして、多くの登場人物もそれぞれの変化を遂げました。

何歩も進んだ人もいれば、逆に退いたかのような人も、ただ右往左往としているだけのような人、色々といますがどうでしたか?

ですが誰もが、一定の変化を遂げることはできたかと思っています。

迷いも後退すらも決して無駄にはならない、そう作者は信じています。


最初のころから書いているとおり、私はこの作品を通して哲学的なことを考えることを楽しみたくて執筆を始めました。

おかげさまで、ここまで執筆したことで、色々なことを考えることができました。

自分で読みかえして、「ああ、そういえばこういう考え方もあるな(あったな)」と思い出し一人楽しんでいます。


一応お断りしておきますが、この作品で書いたことすべてが正しいわけでも最良なわけでもありません。

登場人物たちがそれぞれ見つけるであろう道を模索した結果がこうなった、というだけです。

そこは気軽な気持ちで読んでもらえれば……。

ただ、彼ら彼女らの誰かの言動のどこか一つにでも、少しでも胸に響く部分があったなら、それは作者としてはすごくうれしいです。

また、そういった点を感想等で教えてもらえると非常に励みになります。

ぜひ、教えてください。





さて。


この「剣女列伝」は、1巻の第一話に書いたとおり、楊珪己の生涯を記した作品、というスタイルをとっています。

そのうちの少女時代のことをここまでで書いてきました。

とはいえ、生涯すべてを書かなくても、作者や読者の方が満足感を得られるところまでを書こうと考えていました。

作者としては、この5巻まででその一定のラインには到達できたとは思っています。


ですがもう少し書きたいとも思っていて、準備しております。

それは、やはりこの少女の人生も、そして周囲の人物も、まだまだ道が続くからです。

あと、作者自身、この巻で終わるには中途半端な記述が多いことも自覚しているからです。


というわけで、今後の予定です。


まず一つ目。


この少女編である1巻から5巻については、しばらくしたら少しタイトルを改変します。

少女編であることが分かるような言葉を加えます。

たぶんおそらく、「剣女列伝 少女編」にします(ひねりを入れない場合)。


二つ目。


続編、楊珪己と袁仁威が開陽を出てからの話を書く予定があります。

とはいえまだざっくりとしたストーリー展開が頭の中にあるだけで、書き起こしてある特定の一場面はたったの原稿用紙十枚程度です。

ですのでこちらで公開するのはだいぶ先になると思います。

早くて春先、遅くて盛夏の頃でしょうか。

ですが、次は少女編に比べてテンポよい展開とすることを考えています。


三つ目。


楊珪己ではない人に焦点をあてた、いわゆる番外編を、続編の前に公開します。

短いものですが、今、三作品ができています。

この番外編は年明けには公開します。

少女編で敢えて詳しく書かなかった(書く必要のなかった)色々について書いております。

1巻から5巻までの内容を覚えている方であれば「あー、なるほど」と楽しめる内容になっていることと思います。


以上のとおりですが、公開はいつものように活動報告で予告しますので興味ある方はチェックしてください。


それでは、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 隼平さん、すごい良かったです! 侑生さまに「幸せをあきらめるな」と言うシーン、本当に良かった……。 侑生さまがあんなことになって、隼平さんが泣いてしまうシーンも好きです。 古亥師匠もかっ…
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