9、異世界のお風呂は、魔法でお湯を張るのかしら?
美耶子は、グイッと身体に巻いた毛布を締め直すと、ちらりと空間の先を覗いた。
そこは
お風呂の脱衣所?
そんなに広くはないスペースだが、美耶子の家の脱衣所よりはグっと広い。
白の大理石の、大きな洗面台。
壁に備え付けられたような長方形のテーブルと、大きな鏡は、ベッドのポールと同じような燻銀に彫刻されたものに見えた。
その先に、竹のような仕切りがあり、その先がお風呂のように美耶子には見えた。
そのどちらのスペースにも、人の気配は感じられないようだった。
それでも、美耶子は、恐る恐ると、その脱衣所に見えるスペースへ足を踏み入り、さらにその先を仕切る、竹のような仕切りを、アコーディオンのように開いた。
「お風呂……。」
美耶子の目の前に現れたのは、すべてが白い大理石でできた豪華な浴室だった。
「……お湯、入ってないけど、私使ってもいいよね? 私には、使う権利あるでしょ?」
美耶子はそう、自分自身に言い聞かすように言うと、大きな大理石の浴槽に近づいた。
まるでどこかのホテルの大浴場のお風呂を、小さく豪華にしたような、そんなお風呂。
しかし、近づいてみて美耶子はハッとした。
このお風呂には、お湯を出す蛇口が無いのだ。
浴槽の淵に、ゴールドに輝く獅子のオブジェが座っていて、その大きく開かれた口からきっとお湯が出るはずなのだ。
けれど、それらしき蛇口もスイッチも、見当たらないのだ。
浴槽から離れたところにシャワーらしきものはあるけれど、シャワーから浴槽にお湯を入れるとは考えられないだろう。
「うそ? 魔法?」
たしか、男は美耶子のことを、異世界人。 異世界の巫女と呼んでいた。
ということは、ここは美耶子にとっても異世界なのかもしれない。
……異世界。
なにそれ?
シンデレラとか白雪姫とか、ファンタジーとか呼ばれる話の中に、魔法使いが良く出てきていた。
やっぱり、この世界にも魔法があって、みんな普通に使えるからお風呂のお湯も魔法で出すのかな?
美耶子はそう思うと、もしかしたら……
そう思って、うんっ!!?!!
念じてみた。
何も変化は無いようだった。
「うそー。 お風呂はいれないよー。」
美耶子はそう項垂れて、へなへなと大理石の床にしゃがみ込んでしまった。
『あっ、あのう……。』
そんな美耶子に声を掛ける者があった。
誰もいないと、油断していただけに、美耶子はビクッと、大きく身体を震えさせ、声のした入り口の方を急いで向くと、浴室の入り口から、淡いブルーのふんわりとした髪をした色白の青年が顔を覗かせていた。
キヤア―――っ!!
青年と目が合うと、美耶子は渾身の力で、発狂したのだった。




