8、王子というひと。
「んっ!? 王子、 朝からこの気の抜けようとは?どうされましたか?」
淡いブルーの髪を、ふわりとさせた青年が、王宮の中庭のベンチで佇む、金色の髪の王子に後ろから声を掛けた。
「……。」
王子は、ブルーの髪の青年にふわりと顔を向けると、大きなエメラルドの瞳で青年を一瞬見つめると、また元の方向に向き直ってしまった。
「王子?」
目は、口ほどモノを言うと言うが……。
ブルーの髪の青年は、そう思うと、王子の座るベンチの隣に腰を降ろした。
本来なら、従者が王子の隣に座るなど、無礼な行為なのだが、青年と王子は幼いころからの幼なじみ。
王子が無礼講だと思う時のみ、その行為は許された。
「巫女とはうまくいったのですか?」
青年は、とりあえず聞いてみた。
王子は昨日、突如現れた巫女との結納の義を終わらせた。
その後、巫女を連れ部屋へ引きこもり、青年が王子と顔を合わせるのは、今が初めてだ。
王子にそうは聞いてみたが、王子の表情、朝のこの時間帯にこんなとこで油を売っているとなると、巫女と上手くいっていないのは分かりきったことだった。
しかも、王子の抜け殻のような表情。
どうすれば良いのか分からず、困りきっているのが目に見えていた。
「……巫女を、抱いた。」
王子は、青年の方を向くでもなく、前という空間を見つめたまま、そう、ぽつりとつぶやいた。
「……そうですか。」
そういうこともあっただろう。
それは、青年の予測内のできごとだった。
反面、王子が、どれほど異世界の巫女を夢見てきたのか、幼なじみという立場で、青年は王子から、嫌というほど聞かされてきていた。
その夢に見た異世界の巫女に、あっさり手を出してしまったのか。という、残念な気持ちもあった。
そう思うと、青年は、こちらを向く気の無い王子の横顔を無遠慮に眺めた。
そうしてブルーの瞳を細めた。
これから青年は、王子に次の質問をしてみようと思っている。
王子から返ってくるだろう返事も、もちろん青年には予測付く。
しかし、質問しないことには始まらない。
だから質問をする。
「王子。 巫女とは、朝まで、ですよね?」
「そうだな。」
「巫女はまだ部屋ですよね?」
「そうだな。」
「部屋には、巫女に湯を勧めたり、食事を運ぶように侍女を手配していますよね?」
「……。」
やはり。と、青年は思った。
「手配は、していないんですね? ずっと憧れていた異世界の巫女との初夜だったのに。
あの……、もちろん巫女は初夜に同意されたのですよねえ?」
青年がそこまで言うと、抜け殻のようだった王子に精気が宿ったかのように、王子は突然がばっと立ち上がると、
「うるさいっ! ユリア。この国の王子である私が、なぜ女に承諾を得なくてはいけない? 相手はこの私なのだ。不服はないだろう?」
そう言って、王子は上からユリアと呼ばれた青年を睨みつけるが、そのエメラルドの瞳は、心なしか揺らいでいるように見えなくもない。
その揺らぎこそが、王子の真実の正体だと、長年の付き合いでユリアはしっかり承知してはいたのだが、
「それはごもっともです。 ―――ただし、それは、この国の女子限定でですが。
王子、巫女は異世界人なのですよ。王子の憧れの異世界人です。王子を王子だとは知らないっていうことはわかっていますよね?
……まさか? 巫女に見分……そもそも名乗っていないなどということは、ないですよね?」
「……。」
その場で固まる王子を残し、ユリアが弾丸のように飛んでいったのは、言うまでもない。




