7、心が揺れます。
イケメンの悲壮な表情は、胸を刺す効力があるようだった。
反則だわ。
美耶子は思った。
泣きたいのはこっちなのに……。
「だいたい、あいつ誰なの? ここだって何処なのよ?」
口に出しても、答えてくれるものは無い。
聞きたいことはいっぱいあったし、なにより……
「出ていけって言われたぐらいでっ、本当に出ていっちゃわないでよ……。
なんで、初めてで放置されなくちゃいけないのよー。謝るぐらいなら、そこらへん気づきなさいよ。」
とはいえ、広い部屋、大きなベッドに、美耶子はぽつんとひとり。
しかも、この部屋はずいぶんと豪華なようなのだ。
そういうことに気づける余裕が、やっとでてきた。
大きなベッドは、四方に燻銀の鈍い輝きの装飾をあしらった細い柱で囲まれている。その繊細な彫り物のひとつひとつが、美耶子の泣いた心を癒してくれる気さえする。
そんなベッドを始め、この部屋のものすべてが豪華なのだが、どこか繊細でやさしく包みこんでくれるような、そんなものばかりが置かれていた。
そうして部屋を見回していた美耶子は、男が出て行ってしまった扉とは違うところに、扉はないのだが、部屋を仕切り、隣の空間との間に、ぽっかり入り口が空いているを発見した。
身体はまだ痛いし、不快感はたまらなかった。
だからこそ、このままベッドで何かを待っているわけにはいかないと美耶子は思った。
シュルリと毛布をベッドから剝ぎ取ると、自分の身体に巻き付け、ベッドから床に両足を降ろした。
「―――温かい。」
冷たいと思われた石の床は、美耶子の素足にほんのり温かかった。
それがなんだか、美耶子に良い風が吹いてきているような気分にさせた。
とはいえ、ここからは慎重である。
壁の向こうは未知の世界なのだ。
何があるのかわからない。
人がいるかもしれない。 いないかもしれない。
美耶子はグッと、気を引き締めると、そっと、隣の空間を覗かせる入り口に歩み寄っていった。