5、美弥子の危機。
「こないでって、言ってるでしょ。」
艶やかな金色の髪、エメラルドの瞳は優しそうでどこまでも澄んでいる。
目の前の男は優しそうに見えるのだが。
しかし、
「私の前へ落ちてきたその瞬間から、おまえは私のものだ。すべての決定権は、この私にあり、おまえが意見することはできない。」
その人物から発せられる言葉には、微塵の優しさも感じることはできなかった。
美耶子 には、さっぱり理解ができていなかった。
さっきまで、柚 と 千尋 と話しながら、確か学校から下校の途中だったはずなのだ。
今日の予定は、恋人の尚 とのデート。
それが、気が付いたら水の中で全身びっしょり。
そのうえ、見ず知らずの男に唇を奪われたのだ。しかも、金色の髪、エメラルドの瞳の美形外人に。
尚とのキスに、いったい美耶子がどれほどの努力を用いたか。
何度と、それとない雰囲気を作ったり、アプローチをし、煽り、催促し、やっとのことでキスまで辿りつけた。
それなにに、目の前の男は、意図も簡単に美耶子の唇を奪っていったのだ。
そして今は、その先の危機に突入していた。
美耶子は、大きなベッドの上に、落とされていた。
「いやあ――っ! 来ないでっ。あんたなんか知らない。私を家に帰してよっ!」
美耶子がそう叫ぶと、目の前の男の美しい顔が、憐れむように苦笑した。
なんだか馬鹿にされた気分だった。
美耶子は、とっさに自分の周りのシーツに手を這わしたが、先ほど枕は男に投げつけてしまったので、もうなにも投げるものがなかった。
その間にも、来ないでと言っているのに、男は面白そうに、じりじりと美耶子との距離を、確実に詰めていた。
やだっ……、どうしよう。
どうにかしたいのに、何もアイディアは浮かばなかったし、美耶子の思いに反して、美耶子の身体は小さく震えだし、いうことを聞かなくなってきていた。
いうことを聞かない足は、小刻みに震えるばかりで、思うように動かない。
そんな片足の足首を、男は容赦なく掴むと、そのまま男の方へ、引きずるように引っ張ると、美耶子の脚を、大きく広げた。
「嫌あ――っ! やめてっ、離してっ、さわらないでっ!」
美耶子の身体は、この先を予感し、先ほどまでよりも震えを強くし、瞳からはぽろぽろと涙が零れ始めた。
そんな美耶子を、目の前の男は、見つめ、微笑んだ。
「止めることはできない。 おまえが私の前に落ちてくることを、私は物心つく前から望んでいたのだ。おまえを私のものにすることが、私の生涯の望みだったのだから、異世界の巫女よ。」
男はそう言うと、美耶子の上へ、重く圧し掛かった。