30、言い伝えは。
当初の予定、2日で売って行き、余ってもしょうがない。
そう考え、予定していた柚のつけまつ毛は、一夜のうちに全て売れてしまった。
それは、売ってつけまつ毛を世間に広める。ということでは、嬉しい限りだ。
しかし、それと同時に、異世界人の情報を集める。 という本来の目的の方は、さっぱりだった。
夜市場中で得られた異世界人の情報は、あの王家の言い伝えのみ。
もともと柚たちが持っていた情報だ。
ただ、それがただの言い伝えではなく、本当にあった話で、王家には、異世界人の血が流れている。
ということを話してきた、話し好きの商人の女がいたくらい。
―――王家の子を産んだ異世界人の姫。言い伝えの姫は、元の世界に戻れなかった。―――
宿に戻ってから、柚の頭の中はその事実を反復していた。
チクチクと、柚の胸の中の何かが痛む。
「疲れちゃったよな。」
そんな声と共に、宿の部屋のベッドの隅で、膝を抱えて気を滅入らせている柚の頭を、やさしい温もりがぽんぽんと与えられた。
2部屋用意された部屋は、なぜか1部屋を柚とロージア。
もう1部屋をジル。
そのジルは、もう夜中の2時だというのに、まだ用事があるから先に帰っていてくれと、中庭で別れていた。
「すごかったなあ。オレ、正直あんなに売れると思ってなかったんだ。ごめんなユズ。」
まさか柚が落ち込んでいるなんて、思いもしていないだろう。
けれど、疲れていると思い込んでいる柚が、少しでも元気になればという気遣いが垣間見れ、そのロージアの心遣いが、柚の心をほっこりと温かくしてくれる。
「明日売る分も今日売っちゃったから、明日は売り出しはできないけど、その分ゆっくり異世界人のこと、街の人達にこっそり探りを入れてみよう。」
ロージアがそう言うと、柚はロージアの方を向き、にっこり笑うと、けれど、首を横にふった。
「えっ?」
「ここまで、いろいろなことがあっという間に過ぎて行ってしまって、少し疲れちゃったよ。 私は、そんなに急がなくても、もっとゆっくりでいいんだ。」
柚がそう言うと、ロージアの顔に、陰りが差した。
それを見て、柚もハッとし、
「ごめん。そんなの迷惑だよね。……そうだよね。早く、元の世界に戻らなきゃだよね。」
後半、消え入るように、そう言った。
すると、ロージアもハッとし、
「いや、ゆっくりしよう。オレは、ユズにずっといてもらって大丈夫だから、……正直、ユズがいた方が、毎日楽しいんだ。」
後半を、恥ずかしそうで、その声は消え入りそうだった。
「それじゃあ明日は、ちょっと街の店を楽しんで、ゆっくり帰ろうか。」
ロージアは、まだ顔を赤らめ、恥ずかしそうに、けれどそれを隠すように、そう言った。




