29、隣国の姫の侍女。
「これは、 何なの?」
柚がひとりの女性に、そう声を掛けられたのは、ジルが取ってきた明日の分の商品を、テーブルに並び終えた頃だった。
「付けたすまつ毛なんです。」
そう、にっこり答える柚も、だいぶ接客に慣れてきたようだった。
私も付けていて……。
そう言って柚は、自分のふっさりとボリュームUPしたまつ毛を指先で示した。
「付けたすまつ毛?」
女性は、不思議そうな顔をし、されど、興味深そうに柚の顔を覗き込んできた。
「あれえ? アルテミス。来てくれたの?」
そこへ、そんな声を掛けて割り込んできたのは、隣店のサニーだった。
「えっ? サニー、久しぶり。 今回も出店していたのね。」
サニーに、アルテミスと呼ばれたその女性も、サニーにそう返した。
「えっ? 今日も我が儘姫のお使い?」
サニーがそう言うと、アルテミスは途端におどおどし、きょろきょろと辺りを確認する。
「サニー、いくら国外だからってそんなこと言わないで。 それでも万が一レオナ様の耳に入ったら、私、どうなってしまうか……。」
アルテミスはそう言うと、またきょろきょろと辺りを見回したのだ。
「ごめんごめん。そう言えば、この国の王子の婚約相手がレオナ様だっけ?」
「そうよ。サニー、いくら興味が無いからって、そのことを分かってないなんて、やっぱりレオナ様に知れたら……。」
その我が儘姫はよっぽど怖いのか、姫の名前が出る度に、アルテミスはおどおどと周りを気にしていた。
「しかし、レオナ様と結婚だなんて、この国の王子も何を基準に選んだろうね? とんだ物好きだよ。」
「サニーっ!!」
その後、アルテミスは、柚からしっかりつけまつ毛の付け方のレクチャーを受け、1セット購入した。
姫の結納の式展が間近で、ぜひともその時に使ってあげたくて、アルテミスは、とはいえ、姫のことを気にかけているようだった。




