28、夜市場の隣り店の女。
夜市場がスタートする頃には、柚のつけまつ毛は、予備で持ってきていたものも含めて、ほとんどが売れてしまっていて、テーブルの上はスッカスッカだった。
「ごめん。私がはしゃいじゃったから。」
「いいんです。みなさんのキラキラした笑顔が見れたし。」
申し訳なさそうに謝ってきた隣の出店の女性に、柚は、そんなことないと、首を横に振った。
「でもこれじゃあなあ、お店になんないよね。 あっ、これお詫びね。」
そう言うと、女性は自分の出店の商品をひとつ、柚に手渡した。
女性が出店で売っているのは、シルクの美しい刺繍のローブだった。
女性も腰に巻いていて、何とも華やかなのだ。
「えっ? こんな、いただけません。」
困ってしまった柚に、女性はそのローブを柚の腰に巻きつけると、
「ほら、似合ってるよ。やっぱり女は常に美を追求して、貪欲でなきゃ。あんただって、そう思ったからその商品売ってるんでしょ? 私も同じ。けどさあ、それと商売は別だからね、本当にごめん。これは、私からのお詫びなんだから、素直に受け取る。」
「ありがとう。 こんなにきれいなの、私の国では、すごく高いんです。」
「だから、これは私からのお詫びだって。代金なんてきにしないで。それに、これは、私が作ったんだ。私の国はこの国の隣国なんだけど、そこでレースの工房開いてるの。夜市場のために、こうして月に一回ここへ来てるのよ。私はサニーっていうの。あなたは?」
「私は、柚です。 私の国は、海の向こうで、気が付いたらこの国にいたんです。 今は、さっき一緒にいたロージアにお世話になっていて。」
柚がそう言うと、へえ~。っと、サニーは後ろに下がっているロージアに目を向けた。
「海の向こうかあ。そこではこの商品が流行ってるの? なんかちょっとここら辺の国より、女が美しくなるための道具とかいっぱいありそうだね。ユズもここら辺の子より俄然かわいいし。ユズが私のローブ巻いててくれたら、私の商品も完売できそうだね。」
そう、2人が打ち解けていると、ジルが様子を見に、顔を出してきた。
「おかえり、ジル。」
「えっ!? 彼もユズの連れなの?」
サニーはそう言うと、ジルを座った目で、じーっと見た。
その視線に、ジルはビクッとすると、柚に抱きついて、
「そうだよっ! オレはユズちゃんの大事な大事な……」
「友達ですっ。」
柚はそう突っ込むと、困った顔をしてジルを引き剥がした。
「つれないなあユズちゃんも。冗談だってばあ。」
ジルはそう言って口を尖らせたが、いまだにサニーがじーっと見ているのに気付くと、小さな柚の後ろに身を隠した。
「あっ、ユズちゃん。つけまつ毛、予備も無くなっちゃったの?」
「あっ、うん。 そうなの。」
「じゃあオレ、明日の分取って来るよ。売れる時に一気に売っちゃった方がいいもんね。」
ジルはそう言い残すと、そそくさとその場を後にした。
「サニーさん。ジルがどうかしましたか?」
いまだに厳しい視線を、ジルの去った方向に向けているサニーに、柚が尋ねると、
「だってさあ、あのこさっきユズの彼に抱きついてたからね。」
そのサニーの返答に、柚はびっくりした。
「えっ? 彼?」
「うん。その前にいたイケメンくんは、ユズの彼でしょ?」
「ええっ!? ち、違います。」
柚は心底慌てて、おろおろしながらそう答えた。
「えっ? そうなの? でも好きだったりしないの? それならとりあえず彼だって言っておいた方がいいよ。変な虫が付く前に。」
なんとも信憑性があるが、ロージアのことを考えると、ずいぶんと図々しいアドバイスだと柚は思った。
当のロージアは、後ろから柚を見守っているようだった。




