26、柚とつけまつ毛と夜市場準備中。
軽く夕食を済ませ、荷物を持って3人は、夜市場の会場へ来ていた。
ナイトバザールと聞いて、柚は、元の世界のお祭りみたいなものかと、想像してわくわくしていたのだが、夜市場の会場は、柚が想像していたものを遥かに超えていた。
まさに、異国の世界がそこには広がっていた。
「ユズの国では、こういうところ、あった?」
時間の無い中で、出店の準備に追われ、すっかり機嫌の直ったロージアが聞いてきた。
と、聞かれても、柚は夜に遊び歩くような子ではなかったので、いまひとつわからない。
「ジルとさあ、せっかくユズが作ったもの売るんだから、売れたらいっきに国中に知れ渡るところで売りたいって、言ってたんだ。 ここは最適だよ。」
そんなこと、考えてくれていたんだ。と、柚は思う。
ジルは最終の手続きがあるらしく、この場を離れていた。
ロージアとジルがそんな想いから探してくれたここは、柚たちが今晩宿泊予定の宿
この宿は、王宮公認の宿で、世界中のセレブや王宮のお客様が泊まることもある宿だそうだ。
宿の外観は、柚が元の世界で、TVでしか見たことが無いような、高級だが異国の歴史を感じるような造り。
その中庭で、夜市場は開かれる。
中庭といっても、バスケットコート2面分はあるだろうかという広さだ。
上を見上げれば、キラキラとゴールドの紐が張り巡らせてあり、その紐を電飾や旗、色づけされたガラスのように、光を受け、キラキラと光を放つ、小さな装飾品が巻き付けてある。
中庭の中央には、横長の噴水があり、時間おきに水が吹き上がる仕掛けがあるそうだ。
日中、夜市場の無い日はその噴水がこの中庭の見せ場だそうだ。
今は、その出展者たちが、自分たちの出店作りに追われて活気だっていた。
柚たちの店は、だいたい1m四方。 大きくて2mのスペースが貰える中、柚の商品にしては大きなスペースを貰えている気がした。
商品は、つけまつ毛のセットと、つけ方が書かれた説明書を、硬めの透明なプラスチックケースに収めたもの。
その商品を、50cm四方のテーブルの上に、所狭しと並べた。
その隣には、柚の実演スペース。
実際に柚が、つけまつ毛を付け外しして、商品アピールするのだ。
希望があれば、お客様にも柚が装着することもできる。
「ねえ、あなた。それは何?」
柚が実演スペースの準備しに集中していると、後ろから声を掛けられた。
「えっ!」
振り向くと、柚たちの隣に出店を作っていた、どこかの国の艶やかな民族衣装を身に纏った、柚より10歳は年上に見える女性が興味深そうに柚の方を見ていた。
「ごめんなさいね。 忙しいところ。でも、あなたの商品、何に使うものなのかしら?」
そう言っていた彼女は、今度は、じいーっと、柚の顔を見てきた。
「ちょっ、ちょっと。」
まるでキスでもしてきそうな勢いで、柚の顔に自分の顔を近づける女性に、慌てて傍で見ていたロージアが、柚を自分の方に引き寄せた。
女性は、口元に手を宛て、くすくすと笑うと、
「ごめんなさいね。 もしかして、あなたの商品、まつ毛に付けるものかしら?」
「ハイ。そうなんです。」
分かってくれたのだろうか? それとも、つけまつ毛はすでにこの国にあるのだろうか? 柚は、胸を高鳴らせ、女性へそう返事をすると、女はまた、柚に自分の顔を近づけた。
女性は、たじろぐロージアを気にせず、
「ねえ、私にも付けて見て。 もちろんその分は買い取るわ。私のお店は隣だし、良い商品アピールにもなるじゃない?」
それは、願ってもない誘いだった。
「ありがとうございます。 そうしたら、こちらに座ってもらえますか?」
「やったなユズ。」
柚は、ドキマギしながら女性を実演スペースの椅子へ座らせた。
「すごいっ! これが私?」
柚が簡単につけまつ毛を装着してあげると、女性は、柚が手渡した手鏡の中の自分に魅入っていた。
もともと女性は美人だったが、つけまつ毛で華やかさが増していた。
女性は、癖なのだろう。 先ほど、何度も柚にキスをしそうなぐらい顔を寄せていたが、今度は、鏡の中の自分とキスをしてしまいそうなくらい、鏡の中の自分に魅入っている。
この女性が、「すごい、すごい。」と興奮していたせいか、周りの出店者の女性たちが、柚たちの周りを、なにごとかと囲み始めていた。
「ねえ、私にも付けてくれない?」
この言葉が皮切りのように、柚の周りには出展者たちがドッと押し寄せ、柚のつけまつ毛は、夜市場スタート前に、出店者の女性たちによってそのほとんどが買い占められてしまった。




