第83話 晩餐会
会議は日暮れまで続いた。
夕焼けが窓から差し込み、使用人があわててカーテンを閉めた。
最初に音をあげたのは勇者様だった。
「もういいだろ? 疲れたよ」
ヴィルフリート様も顔に疲労が見える。
「そうだな、あとは、キースが帰ってきてからにしよう」
国王様に、
「陛下、よろしいでしょうか」
「うむ」
会議はお開きになった。
僕はさっそく、部屋に戻って、ブルーノさんに手紙をかいた。できるだけ、早くミゼットを届けてほしいと。
手紙はシャーリィーさんに預けて、送ってもらうことにした。他にもシャーリィーさんに頼みたいことがあった。
そのあと、執事さんにも聞いておきたいことができて、シャーリィーさんと執事さんとで打ち合わせを行った。
そうしていると、夕食に呼ばれる。
フェリルは部屋で留守番になるが、執事さんがフェリル用の料理を運んでくれるらしい。
案内された部屋の扉が開く。
夕食会ってもんじゃない。まるで晩餐会だった。
広々とした空間に百人以上が食事できるほどのテーブルが並んでいて、天井は高く、豪華なシャンデリアが、部屋中を昼間のように輝かせている。
――執事さんに聞いていてよかった。
あまりに圧倒されて、立ち止まってしまうが、後ろの貴族に押されて、先に進む。
案内された席は、末席だった。壇上のテーブルとは最も遠い場所に座る。
――一介の村人には、畏れ多い席だよな。
「ハル様」
名前を呼ばれる。振り向けば、隣に正装のドレスを着たミランダさんが座っている。
思わず、立ち上がりそうになる。
ミランダさんの横には、まるで、どこかの貴族のような出で立ちのタンクさんが座っていて、
「よお」
と、僕に向かって手を上げた。
タンクさんには、会釈をして答えた。
隣のミランダさんには身構えてしまう。気づかれたのか、
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
村のときと雰囲気が違う。落ち着いていて、この晩餐会に溶け込んでいるように思える。
「あのときは、迷惑をかけましたね」
頭が混乱して、何も口にできない。
「今だから言えるのですが、実は聖女様に頼まれまして、あなた様を調べにいったのです」
――だめだ。あのミランダさんじゃない。僕のことを『あなた様』って。
「必要なら戦の前には、いっしょに他国へ連れて行こうと考えていたんです」
「どうして? 僕なんかを」
ミランダさんよりも内容が気になって、思わずきいた。
「それは、あなた様が異世界人だからです。異世界人の存在は、その国の存在を左右します。それに、あなた様を巻き込みたくなかったのです」
「でも、結局、連れ出さなかった」
「ええ、それは、あなた様が知識や能力を隠していたからです。それに、村に溶け込んでいました。村から連れ出すことのほうが、あなた様を巻き込むことだと判断したからです」
「そうだったんですか……そんなこととはつゆ知らず」
「いいんですよ。まあ、どうしても私に申し訳ないと思っているのでしたら、今夜、ベランダの扉の鍵を外しておいてね。こっそり、うかがうから」
――やっぱり、あのミランダさんだ。
そのとき、壇上近くで、一人の使用人が叫んだ。
「陛下がお見えになります」
居並ぶ貴族たちが立ち上がった。僕も立ち上がる。このあたりの作法は事前に執事さんに聞いていた。
元いた世界と異なりはしないかと心配だったが、あまり変わらなかった。
壇上近くの扉が開き、国王様がお入りになる。そのあとを、ヴィルフリート様、聖女様が続く。
――勇者様がいない?
「あのやろう。また、逃げ出したな」
タンクさんのぼやきがきこえた。
壇上のテーブルに、国王様を中心に、ヴィルフリート様、聖女様が座る。
国王様が手をあげると、全員、座った。
国王様の挨拶が始まった。
「みなのもの、今まで大儀であった。しかし、我が国には解決しなければならない難題が残っている。今は、そなたたちの助力が必要なときであり、我が国が一つとなって、この難題を乗り越えなければならない。だが、今夜は、しばし忘れ、美味なる料理に英気を養ってくれ」
ヴィルフリート様がグラス片手に立ち上がった。つられて、全員が、グラスを持って立ち上がった。
「それではみなのもの、我が国、ヴェルダニア王国の輝かしい未来のために……乾杯!」
「乾杯!」
一口飲んでみた。ビールだった。泡はなく、常温だった。この世界で、今まで飲んでいたものより、雑味がなく、コクがあって、飲みやすい。
宮廷の乾杯の酒がビールなんて、少しさみしい。
出てくる料理は、いわゆる宮廷料理だった。盛り付けが美しく、味もこの上ない。ただ、これだけの料理にビールでは、味気ない。
――やっぱり、ワインでないと。
◇
晩餐も終わり、部屋に帰ってみると、フェリルと戯れている勇者様がいた。
「勇者様、こんなところで何をしているんですか?」
思わず、声を荒げてしまう。
「見てのとおりだ。『白銀のフェリル』様と遊んでいた」
あきれてしまう。でも、楽しそうな勇者様をみていると、これが勇者様の本来の姿なんだという気がした。
執事さんが伝言を届けに来た。
「陛下がお呼びです」
フェリルを連れて、僕と勇者様は、城の奥の離れに馬車で向かった。
もちろん、部屋を出る前に、ベランダのすべての扉の鍵がかかっていることを確認した。




