第82話 会議
謁見のあと、少し客間で過ごし、次に通されたのは、長い机のある部屋だった。
僕はいちばん端に座らされる。フェリルは、僕の椅子の横で伏せていた。
部屋には、国王様とヴィリーさん、何人かの貴族。勇者様と聖女様も席についていた。
誰も何も話さず、神妙な表情で座っている。
扉が閉まり、最初に切り出したのは、ヴィルフリート様だった。しかし、話し方はヴィリーさんだった。
「ハルさん、驚いただろ? 事前にいっておけば良かったですね」
「ええ、はじめは驚きましたけど。でも、一番、驚いたのは、二人をフェリルが止めたことですね」
「俺も、雷が落ちてきたときには、肝を冷やしたぜ。聖女様とタンクが間に入ってくる予定だったのによ。なぜ、雷?」
勇者様が楽しげに言った。
「私も驚きましたよ」
ヴィリーさんも、愉快そうだった。
謁見のときとは違い、ざっくばらんな会話が続く。
――この人たちは、仲が良くて、信頼し合っているんだ。
あの玉座の間の息の合った寸劇を見ていたら、そのことがよくわかる。
「あの、寸劇……じゃなかった。一連のあれは?」
「寸劇か、そう見えたか。まあ、たしかにそうだな」
ヴィルフリート様が苦笑いしたあと続けた。
「実は前回の戦で、勇者パーティーは参戦しなかったんだ。参戦すると被害は増えるし、戦火も大きくなる。南の国の勇者と極秘に交渉して、両国の勇者は参戦していないんだ」
――なるほど、そういうことか。
「ところが、それだと勇者が戦から逃げたことになる。陛下が、それでは、と第一王子にだまされたことにして、勇者のメンツを保つことにしたんだ」
ヴィルフリート様が寸劇の理由を明かした。
「それだけじゃないでしょ? 聖女様は、二人を見ずに、貴族様に気をとられていました」
僕は気になったことを言った。
「あれ、ばれていました。勇者の行動で、敵国のスパイや裏切り者がいぶり出せたらというのもあったのですが、これは、うまくいきませんでしたね」
聖女様が微笑んだ。
フェリルが僕の元に頭を差し出す。ほめてほしいのだろう。優しく撫でてあげる。相変わらず、尻尾を振っていた。
国王様が、僕にやさしく声をかけられる。
「よく、なついていますね」
「はい。でも、まあ、甘えたですね」
そこへ、ヴィリーさんが割って入った。その口調はヴィルフリート様に戻っている。
「陛下、よろしいでしょうか。本題に入りたいのですが」
「ああ、いいぞ」
「まず、我が国が、南の国に戦で大敗したのは、知っての通りだ。それでも、再度、攻め込むはずだったのだが、先の陛下が亡くなり、再戦の件はなくなった」
先の国王様が亡くなったのが、気になったが、聞かずにいた。聞くような雰囲気ではなかった。
国王様が付け加えられた。
「宰相のいうとおり、我も、戦をつづけるつもりはない」
――宰相? ヴィルフリート様は、元・勇者様で、領主様で、今は宰相。そのうえ、城のブドウ畑の世話もしている。
僕の中で、ヴィリーさんが遠い存在に思えてくる。
ヴィルフリート様は続けた。
「あとは、南の国がどうでてくるのか、それを待っていたのだが、まったく、動きがない。情報によると、好戦派と穏健派の調整に時間がかかっていたらしい」
――だから、戦のあと、ギルドにも情報が全く入ってこなかったんだ。
「ようやく、南の国から書簡が届いた。内容は、賠償金の支払いと領地の一部の割譲だった。賠償金の額は国庫では賄いきれず、国民への重税を強いるしかない額だ」
――やはり、多額の賠償金を要求されたか。
国民へ負担を強いては、いい結果は生まれない気がする。学校の歴史でならった限りでは、内乱、それに乗じて独裁者が生まれる可能性もあるようだ。
――まあ、国王も独裁者といえば、独裁者だが、良識はあるかもしれない。
「二週間後には、南の国から使者がやってきて、書簡の回答を受け取りにやってくる。一方、軍備をそろえて、我が国に攻め込む準備をしている情報もある」
――使者への回答が、この国、ひいては、僕が住んでいる村の未来を左右することになるのか。
「使者への回答の場を、交渉の場と考えている。すこしでも、我が国の有利な立場にもっていきたい」
国王様が、
「そのためには、皆の力を借りたい。よろしく頼む」
と、言って、わずかに頭を下げた気がした。
「幸いなことに、我が国には、二つの有効な手札がある。一つは、カーマイン商会のキースが、今、東の国と交渉をしに行っており、我が国と友好を結ぶことができれば、それをもって、南の国に圧をかけることができる。もう一つは」
ヴィルフリート様が僕を見た。
――え!
「南の国で神格化されている『白銀のフェリル』様だ。『白銀のフェリル』様は伝説上の生き物で、見た者は少ない。まさか、そのフェリル様が、この国にいらっしゃるとは。幸運だと思わざるを得ない」
『白銀のフェリル』様が、僕の膝の上に顎をのせて眠っている。
「この二つを、交渉に利用させてもらう」
キースさんの名前が出て、気づいた。
――ミゼットの見積もりの依頼は、そういうことだったのか。
僕は手を上げると、ヴィルフリート様が意外そうに、
「どうしました? ハルさん」
「もう一つ、交渉に役立つものがあります。魔法石で走る車です」
会議場のみなが、いっせいに興味の目で、僕を見た。
「なんだい、それは?」
「馬のいらない車で、魔法石の力で走ります。私の村から、ここまでなら、一日でつくはずです。ただ、昼間は人通りがあるので、危なくて走らせられません。夜だけになると、二晩はかかるかと」
「それは、すげえ」
勇者様が、みなのなかで、もっとも興味を持っているように見えた。
「どうして、そんなものがある?」
「いえ、戦時中だったので、秘密にしていました。一度、ヴィルフリート様の親戚をのせて、村から港街まで走らせたことがあります」
「もしかして、キースは知っていたのか?」
「ええ、見積もりの依頼がきていました。もしかしたら、南の国との交渉に使うつもりじゃなかったのかと」
「キースめ! 我々をおどろかせるつもりでいたな」
ヴィルフリート様が悔しそうにつぶやいた。
「ここへ、持ってこられるのか?」
国王様がおたずねになる。
「それが改造中で、すぐに持ってこられるか……」
「それでもいい。すぐに持ってこさせてくれ!」
ヴィルフリート様が僕に命じた。




