第81話 謁見
首都の門前には、人と馬車が並んでいた。
門番が一人一人、身元確認をしてから、首都に入れるようだ。
僕の番がきて、素性を伝えると、門番が慌てだす。
「こちらです」
門を通ると、そこには装飾が施された、いかにも貴族様の馬車が待っていた。
その横には、少し年齢がいっていて、姿勢の正しい執事が立っていた。
「ハル様ですね?」
と執事が静かにたずねてきた。
「ええ」
「お待ちしておりました」
執事が頭を下げる。堂に入った所作だった。
――本物の執事だ!
隣にいたロルフさんのつぶやくような声がする。
「俺、ここで帰るわ」
ロルフさんとは、そこで別れた。
執事が、出迎えた馬車の扉を開ける。僕は荷物をもって、フェリルとともに乗り込もうとしたとき、立ち止まって、執事さんにきいた。
「フェリルも乗っていいですか?」
「もちろんです。神である白銀のフェリル様をお乗せしないなんて、畏れ多い」
フェリルが鼻高々に馬車に乗り込んでいるように見えた。
◇
馬車の中では、執事からこれからのことの説明を受ける。
「まずは、旅の汚れを流し、着替えていただきます。そのあと、国王との謁見になります」
「え! いきなり、国王様とですか……」
「はい」
執事が静かに答える。
――気が重い。
馬車は、城の裏口から入り、建物に向かう。途中、ブドウ畑が見えた。
――ここでヴィリーさんと初めて出会ったんだ。
まだ一年も経っていないのに、昔のように思える。
◇
通された客間は、屋敷の居間より広く、豪華だった。
部屋には、二人が待っていた。
執事が紹介した。
「本日より、ハル様の護衛をします、オットーと……」
筋骨隆々で、腰に剣を差している男が一歩前に出て、一礼して、下がる。
――いかにもだな。真面目そうで何よりだ。
「お世話をします、シャーリィー」
メイド服を着た、まだ幼い少女が、スカートの両端をつまんでお辞儀をした。
――元いた世界の繁華街でよく見かけたよな。でも、こっちが本物なんだよな。
フェリルといっしょに風呂に入らせてもらった。用意された服に着替えたのだが、これが、貴族様あつらえなので、着てみて恥ずかしい。
しばらくして、迎えのものがやってきて、玉座の間の扉まで案内される。
ついてきたオットーとシャーリィーは残り、中には、僕とフェリルだけが入っていく。
部屋の中から、僕の名前が呼ばれ、扉が開く。
赤く伸びたカーペットの先には玉座が据えられていた。天井は高く、両脇には貴族様が並んでいる。
一度、見た光景だった。ドルン伯爵に連れてこられ、スキルなしとわかり、追い出された。
違うのは、玉座には若い国王が座り、横にはヴィルフリート様が立って……
――ヴィルフリート様?!
なぜ、国王様の横にヴィルフリート様が立っていたんだ。
それに、僕を見ても微笑まずに、ただ、こっちをじっと見つめている。
国王様が僕に声をかけた。
「そなたが、ハル殿か?」
「はい」
僕は、右手を左胸に当て、頭を少し下げた。下げすぎても下げなさすぎてもいけないと、ここへ来るまでシャーリィーに散々細かく教え込まれた。
「そなたの側にいるのが、白銀のフェリルなのか?」
「そう言われているようです」
「違うのか?」
「いえ、私には、白銀のフェリルというものを存じませんので、そう答えただけです」
「そうか。それでも、ここから見ても、銀色に輝く毛並みは、まさに白銀のフェリルに間違いないであろう」
きっと尻尾を振って喜んでいるだろうと、フェリルを見ると、尻尾も振らず、まるで威厳を持って、座っているように見える。
「ご苦労であった」
そう言われ、僕は、もう一度、習ったとおりの忠実な礼をした。
――貴族の礼節は合格だよな。
ほっとしていると、扉がバーンと開いた。
「第一王子、帰ってきたぞ」
「勇者殿、国王の御前ですぞ」
貴族の一人が叫んだ。
「いいんだよ。俺とあいつの仲なんだから。それに俺は、あいつをまだ国王と認めていない」
勇者のあとを、三人が続く。
森の魔物を退治した勇者パーティーと、あと一人は……
――ミランダ!
僕とリーゼさんの仲を散々荒らして、黙って去って行ったシスターだった。
ミランダさんと目が合った。僕に微笑んでくる。
悪寒が走った。
「第一王子! なぜ、俺をだまして、国外に追い出した?」
詰め寄る勇者様に、ヴィルフリート様が立ちはだかる。
「それ以上、無礼を働くと、私が許さんぞ」
「ほう、元・勇者のヴィルフリート様じゃないですか? 今では貴族様ですか?」
「貴様! 許さんぞ」
――なんか、おかしい。違和感を覚える。
勇者パーティーの三人、聖女様、タンク、ミランダさんが、勇者様とヴィルフリート様の争いを冷静に見ている。いや、聖女様が見てるのは貴族様たちのほうだった。
――これは芝居だな。
勇者様が剣を抜いた。対抗してヴィルフリート様も剣を抜く。
勇者パーティーの聖女様が杖を、タンクが剣と盾を身構えたとき、勇者様とヴィルフリート様の間に雷が落ちる。
その場にいた人たちが、どよめく。
フェリルを見ると、体から少し放電していた。
フェリルが大きく欠伸をして、初日の謁見は終わった。




